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終末の麻雀譚3

荒廃した世界で麻雀牌を見つけた二人。
ついに麻雀を知る人物に出会うがはたして──

第6話

「おっさん!俺たちに…麻雀を教えてくれ!!」

ムサシの懇願に、髭のおっさんは立ち去ろうとしていた足を止めた。

「たのむ!おっさん!」

コジローも続いた。

踵を返してこちらに近寄る髭の男。

「言っとくが俺にも都合ってもんがある。長くは付き合えねえぞ。」

顔を見合せ、やったー!とはしゃぐ4人の少年少女。

「麻雀ってのは覚えることも多いし複雑だ。全部は教えられねえぞ。」

「大丈夫。大筋さえ教えてもらえれば俺らでなんとかするよ。」

そう言ったのは他でもないコジローだった。お前が一番心配だよ。

「お前たちがどれくらい知ってるのかわからないが、ゼロから教えていくぞ。じゃあさっきみたいに牌山を作る。その時少し右斜めに傾けるとツモり易いし下ヅモの時の取り間違いが減るからやるように。これを井桁を組むと言う。」

・・・・

は?

「そしてサイコロ…はないのか。俺が持ってるやつを渡すわけにはいかないから、親が好きな所から取るようにするか。じゃあ君が親だとして好きな所から4つ取るんだ。あ、いやそうじゃない。下の牌と一緒に…そう。次は君だ。麻雀の順番は左回りなんだ。」

「でも牌を取る場所は右回りなんだね。」

トムが呟いた。

「よく気がついたな。牌を取っていく順番は左回り、山が無くなっていくのは右回りだ。あと親から順番に東南西北と割り振られる。」

「トンナンシャーペー?」

「東がトン。南がナン。西がシャーで北がペーだ。ほら何してる、また親が4枚とるんだ。」

「え?もう4枚とったよ?」

「もっと取るんだ。4枚を3回取ってチョンチョンやって配牌完成。麻雀とは13枚でやるものだ。アガリ形は14枚だが。」

!!!!!??

13枚・・・だと・・・!!?

「いや4枚でも苦労してたのに13枚とか無理だろ!」

コジローは思ったことをすぐ口に出す。

しかしムサシもそう思った。

13枚とか誰も役が出来ずに終わることいっぱいあるやろ、と。

一人に配る枚数が多いということは、その分牌山が少なくなるということだ。

牌山が少なくなるということは、牌を交換できる回数もまた少なくなる。

不安がるムサシたちを笑い、おっさんはこう言った。

「4枚に比べて13枚が難しい?実はそうでもないんだよ。まずは配牌を取って開けてみよう。」

四人は言われた通りに配牌を取った。

「親の私だけ1枚多いのね」

親はシェリーだ。

「それは第一ツモも一緒に取ってるからだ。だから親が1枚捨てるところからゲームが始まる感じなんだ。」

「あの…さっきから言ってる…『ツモ』…っていうのは…?」

「ああ、すまん。牌を取る行為のことだな。順番が来たら牌をツモって切る。」

「切る…っていうのは捨てることでよい…?」

「そうだ。ツモってきてアガリじゃなければ捨てるって感じだな。それを繰り返して一人にアガリが出たらその局は終了。」

そして全員配牌を取り終わると

「全然ダメじゃん。穴だらけじゃん。どうやって揃えるわけ?」

とコジロー

どれどれ、と見てみると確かにパッと見はバラバラに見えるものだった。

「とりあえずちゃんと並べてみな」

おっさんの言う通りにみんな綺麗に並べ始めた。

「僕、3つ同じやつがある…」

「私は5つ並んでるわ」

「俺は兄弟が4つある」

「俺はやっぱり穴だらけだけど漢字のやつが多いなぁ」

「お前らに麻雀は13枚でやると言ったが、実はこれは4面子1雀頭を作ることなんだ。」

「面子とはお前らがやってたような、3枚1組の組み合わせだ。同じやつ3枚とか、3つ並んでるとか。これを4つ。それとうまく説明するのは難しいが、雀頭と言って同じものを2枚必ず作るルールなんだ。アタマと言ったりもするな。」

「へぇ~、なるほどね~」

ムサシとコジローは目を泳がせながら強がった。

「…うん…つまりあと1枚でその形が完成する…っていう状態を作るってことだね?13枚で。」

「その通りだ。」

!?

トムは今の説明で理解している…
コジローほどではないが、ムサシもだんだん焦ってきた。

「だからあれだろ?あと1枚で完成する!っていうのを作るんだな?この13枚で。」

精一杯大きな声でかぶせた。

「そうだ。それを踏まえて自分の手牌を見てみろ。すでに出来てる部分があるんじゃないか?」

確かに…と頷きながら手牌を分けたりする面々。

「でも3枚一組ならこの東南西とかはどうなるんだ?4つ揃えられないじゃん。」

「こいつらは字牌(じはい)と言って横には繋がらない牌なんだ。それとこの棒のやつは索子(ソーズ)、丸いのが筒子(ピンズ)、漢数字が萬子(マンズ)という。」
※全て髭の男の中での正式名称です。

「この鳥のやつは特別な存在じゃないのか?」

コジローがおっさんに聞いた。

「そうだな、ただのソーズの1だ。」

「だってさ」

ムサシは悔しかった。
真実を知らない方が幸せだった気がした。

「でもこの鳥を麻雀の神様だと言う文化はあるな。だからと言ってなにがあるわけでもないがな。」

髭は微笑みながらムサシを見た。

ムサシは少しだけ、麻雀打ちと心がシンクロしたような、そんな気持ちになった。やはりこの鳥は特別視されてたんだなと。それだけで麻雀に対して湧き上がってきた不安は薄れ、救われた気がした。

「よおし!次はどうするんだ!おっさん!」

急にはりきりだしたムサシ。この男もまた単純である。

〈現在の知識〉
麻雀・・・13枚(14枚)で4面子1雀頭を作る
ツモ・・・牌を持ってくる行為
鳥・・・神様

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