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終末の麻雀譚 2

荒廃した世界で麻雀牌を見つけた二人。
すぐにその魅力に取り憑かれた。

第4話

あれから二人は狂ったように麻雀をしていた。
いや、麻雀風のなにかを。

しばらくすると色々なことに気づき始めた。

「これさぁ、35って持ってると4引かないと繋がらないけど、34って持ってると2でも5でも良いからアツいよな。」

いわゆるリャンメン待ちの優位性に気づいたのだ。

「もっと言うなら3連確定でこの両側待ちみたいなの最高だよな。」
3連とは読んで字のごとく3つ繋がった形。
例えば345。これでも役になるが、弱めだ。
できれば4連まで完成させたい。

コジローは言った。

「俺この繋げていく形好きだなー。もうちょっと強くしない?」

するとムサシはニヤリとし、こう言ったんだ。

「コジロー気づいてるか?系より兄弟系の方が難しいんだぜ?」

コジローはハテナ?と思った。いや口に出したかもしれない。

「まあ確かに出来にくい印象はあるけど似たようなもんでしょ?」

ノンノンノン…

「そこには実は大きな差があるのだよコジロー君!」

ムサシはビシッとコジローを指差した。

「考えてみろ。1種類は何枚だ?」

「4枚」

「だよな?じゃあ仮に34って持ってる人が3連になるのと、88って持ってる人が三兄弟になるのはどっちが難しい?」

「そんなもん気合い次第だろ」

「確かに気合いは大事。大事だけどさ、そうじゃないんですよ。俺なんとなく麻雀わかってきたよ。」

これはまだ麻雀とは呼べないが、これは麻雀の話だ。
麻雀とは呼べない何かで、麻雀のことがわかってきているんだ。わかりにくくなってきた。

「仮に山にまだ100枚あるとする。そしてまだ待ち牌が1枚も見えてない場合、両側待ちは8枚、三兄弟が欲しい8は2枚しかないんだぜ?」

「その差4倍だ」

コジローは立ち上がり、すげえー!!!と叫んだ。

「お前(ムサシ)すげえな!天才かよ!」

「それだけじゃあない。俺らは役を作るために大量の牌を捨ててるじゃない?交換したやつ。お前、俺が捨てたやつ見てるかね?」

「見てるわけねーだろ」

「実はそこに情報が隠れてる。88って持ってて三兄弟狙いしてても、俺が8を2枚捨ててたらもう無理なんだぜ?」

「気合いで…」

「それは大事。だけど気合いじゃどーにもなんねーよ。だってもう山には無いのだから」

コジローは立ち上がり、たしかにー!!!と叫んだ。

「それと、麻雀ってもしかしたら4人でやるものなのかなーって」

そう言ったムサシの顔を不思議そうに見るコジロー。
そこに

「あんたたち何やってんの?」

二人が振り返ると少女が立っていた。

「うわっ!」

「なによ、うわっ!て」

そこにはいけすかない女、シェリーがいた。
その後ろには小心者の弟、トムの姿も。

「あっちいけよ」

コジローは言い放った。

「あたしたちもまぜなさいよ」

シェリーはシカトした。

コジ「お前らには難しいよ」

シェリ「あんたが出来るなら出来るでしょ」

二人はいがみ合っている。

ムサシはトムに近づきこう言った。

「実はちょうど誰か探してたんだ。トム、やってみるか?」

トムは麻雀牌をじっ…と見つめた。

「…うん。僕…やってみたい…かも…」

「よし、じゃあルールを説明する。シェリーもやるんならちゃんと聞いてくれ」

うげー、まじかよという表情のコジロー。

しかしムサシは構わずルールを説明しだした。

「これは麻雀という遊戯を元に、俺らが考えたもんだ。とりあえず麻雀って呼んでる。まずは山を作る。こうやって2段重ねで四角に組むんだ。そして自分の前の山から4枚取る。そして要らないやつを交換していくんだが─」

ムサシはゲームの進行と役の強弱を説明した。

「実はこうやって四角に組む理由から、もしかしたら四人でやる遊戯なのかなーって思ったんだ。」

「トムわかった?」

シェリーはトムの様子を伺った。

「完全に理解。」

トムは言い切った。

「ふーん。じゃあ3連三兄弟どっちが難しいか分かるか?」

コジローがふっかけた。

トムは少し考え、口を開いた。

「当然三兄弟の方が難しいでしょう。役を構成するための牌の枚数というか確率?が全然違うし、そもそも難しい順に強くないとおかしいし、もっと言うならムサシの個人的な思い入れによる渡り鳥のランクもその位置で本当に正しいのか甚だ疑問ではありますね。コジロー君はそのあたりはどうお考えかね?」

「お、、お、、おま…」

コジローは立ち上がり、ちきしょー!!!と叫んだ。

シェリーも一応理解したみたいなので、四人でやり始めるとすぐにトムがまた口を開く。

「今のやり方だと1回の勝負に時間がかかりすぎるから、牌を減らさない?丸のやつ全部抜こうよ。祭り系(麻雀でいうところの三色同刻みたいなもの)は出来なくなるけどその方が絶対効率良いよ!」

どうやらトムは頭が柔らかい。これは現代で言う3人麻雀風の考えか。

「いやダメだ!俺は丸が好きなんだ!!」

コジローは力強く言い返した。丸が好きとは初耳だった。

「じゃあ漢字の数字のやつでもいいよ。とにかく種類を減らした方がきっと面白くなるよ!」

「いいやダメだ!お前の意見など却下中の却下だ!」

なぜかムキになってるコジロー。自分の立場が危ないとでも思っているのか。

「あんたねぇ、いきなり負けそうだからって変ないちゃもんつけんじゃないわよ!」

シェリーのストレートな言葉が飛んできた。

「ばっ、そんなんじゃねえし!麻雀は俺らの方が知ってっし!全部使うのが麻雀だし!てゆーかトムお前、麻雀始めてからキャラ変わりすぎだし!」

「え?い…いや…いつも通り…だけど」

指摘されていつものトムが顔を出した。

そんなやりとりをしながらゲームを進めていると

「なんだお前ら、麻雀してんのか?」

ムサシがバッと振り返ると、大きな荷物を背負った見知らぬ髭のおっさんがいた。

このおっさん…麻雀を…知ってる…!?

ここから物語は大きく動きだす───

〈現在のみんな〉
ムサシ…麻雀について色々気付き始めている。
コジロー…深く考えず勘で戦うタイプ。トムが気にくわない。
トム…頭が良さそう。普段はおとなしいが勝負事になると人が変わったように強気になるタイプ?
シェリー…トムの姉。コジローをバカにしている。
髭のおっさん…ここらで見たことない謎の人物。麻雀を知っている!?

第5話

「お前ら、麻雀してんのか?」

急に現れた見知らぬ髭のおっさん。

ムサシは思った。
このおっさん…麻雀を知っている…!?

コジローは思った。
このおっさん…まるで気配を感じさせなかった…一体何者だ…!?

トムはシェリーの後ろに隠れた。

「これは4枚麻雀?…でもないな。ポーカーか?」

「おっさんこそ麻雀知ってるのか?」

さすがコジロー。物怖じせぬ物言いです。

「もちろんだ。俺はワケあって麻雀出来る人間を探しているんだ。お前らは普通の麻雀も出来るのか?」

「もちろんだ。なぜなら麻雀とは俺らが作ったものだからだ。な?」

な?じゃねーよ。ムサシはコジローを黙らせたかった。

「ふむ…。お前らがどんな経緯でこの麻雀牌で遊んでるか知らんが、これは麻雀ではないなぁ。近くに麻雀できる大人はいないのか?」

「おいおっさん!俺らの麻雀バカにすんのか!?」

コジローが喰ってかかる。

「いやすまん、お前らの遊びを否定したいわけじゃないんだ。ただこれは麻雀では…」

「キーッ!!」

なぜかプリプリ怒ってるサルコジローを抑え、ムサシが口を開こうとしたその時

「親の50符2翻は何点?」

???

おっさんが謎の言葉を発した。

ムサシとコジローは目を合わせた。

「え?なんだって?」

「親の、50符、2翻は、何点?」

はっきりと聞こえた。はっきりと聞こえたところで意味は全くわからなかった。かろうじて「親、50、何点?」て部分がわかったくらいか。

コジローがムサシを見つめる。ムサシは首を横に振った。コジローがトムに小声で言った。

「おいトム、あいつ何て言ったかわかるか?」

トムも小声で返した。
「わからない。わからないけど多分その麻雀の点数の話だと思う。50という数字が入ってるのと親というのが雰囲気的に大きめの点数な気がするね。僕より麻雀知ってるんでしょ?頼んだよ。」

くっ

「わからないか?」

「いや…わかる!わかるぞ!大きめだな…うん。。。170点。いや180点でどうだ!」

コジローのわりにいい線ついたな、とみんな思った。

ふっ、と笑いおっさんが口を開く

「親の50符2翻は…」

ごくり。

「4800点だ。」

!!?

なんだその大きな数字は。

俺らの麻雀で言う所の渡り鳥クラスなのか?

「も、もしかしてそれがサンバイマンってやつなのか…?」

ムサシは震えながら尋ねた。

「ほう?三倍満を知ってるのか。だが親の三倍満はもっとすごい。36000点だ。」

どっひゃー!なんだそれは。
あまりにも大きすぎる点数にムサシはしりもちをついた。何か手を出してはいけなかったものに手を出したかのような気分になった。

「どうやら麻雀について全然知らないみたいだな。邪魔したな、その麻雀牌は大切に使ってやってくれ。」

おっさんは背中を見せ、手をひらひらと振ってその場を去ろうとした。

「待って!」

シェリーが叫んだ。

「ムサシ!あんたこのままあのおじさんと別れていいの!?麻雀でみんなを活気付けたいんでしょ!?しっかりしなさいよ!」

放心状態だったムサシはハッと正気を取り戻した。

そして立ち上がりこう言ったんだ。

「おっさん!俺たちに…麻雀を教えてくれ!!」

続く

〈現在の知識〉
親…おそらく点数が何十倍にもなる存在。
三倍満…幸せの言葉改め、破滅の言葉。


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