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終末の麻雀譚7

荒廃した世界で麻雀と出会った少年少女。
果たして麻雀王になれるのか───

第10話

一同は盲牌の魅力に取り憑かれながらも役の説明の続きを聞いていた。

「…以上で役の説明を終わる。」

全ての役の説明が終わる頃には、辺りは薄暗くなってきていた。全ての役において質問しながら細かく聞いていたんだから当然か。

「もうこんな時間か。この際今日はここに泊まるから聞いておきたいことは聞いておけよ。まぁとりあえずメシにするか。」

おっさんは大きな荷物からなにやら箱のようなものを出し、その中に入っていたパンと干し肉を取り出した。

「まぁ遠慮せず食えよ。」

「でもおじさん旅の途中なんでしょ?食糧大事じゃない?」
シェリーが聞いた。

「まぁ俺は現地でも調達できるし、パンはもうそろそろ期限だから遠慮すんな。」

「こんなパン初めてだ…うわ硬っ」

「この硬いパンは保存が効くのよなぁ。旅には欠かせないぞ。」

「こんなパンどこで…?あとなんで旅してるの…?」

おっさんはもぐもぐしながら語り出した。

「どこから話したらいいものか…。お前ら『サンシティー』って知ってるか?」

皆で首を横に振った。

「ここから東に2週間くらい歩くと大きな街がある。いや、街というかあれは『国』だな。そこには多少電気もあるんだ。だんだんと人口も増えて来てて、設備も整ってきている。この世界の太陽のような存在になれるよう『サンシティー』と名付けられた。」

ふ~ん、と一同は他人事のように聞いていた。

「ふふふ。電気さえ通っていれば、夜中も明るい部屋で麻雀が出来るんだぜ?」

「あ…僕聞いたことある…。あの辺のひん曲がった鉄柱も本当は辺りを明るく照らすやつなんだよね?」

あーあれか、とムサシはそっちを見た。

「街頭ってやつだな。実際サンシティーでも、電気は主に街を明るくするために使われている。あとは生活に必要なものとかな。まぁ今のところは使える量も決まってるから麻雀のために使うことはないが、いずれはな。」

夜も明るい部屋…か。
そんな場所で麻雀とか好きなことができたら楽しいだろうな。眠るのも忘れるくらい、ずっとやってしまうかもな。ムサシは想像してみた。
しかし現実味ってやつは皆無だった。

「まぁ俺はそこからやって来たわけさ。麻雀が打てる人間を探しに、な。」

生まれてこのかたこの周辺の土地しか知らない少年たちは、この髭の男の話はピンとこなかった。もちろん電気や機械の話などはじいさんたちに聞かされたことはあった。だがそれは過去の話で、現在もそんなものがあるとは到底思えなかった。
さらにそんな所から麻雀できる人間を探すために遥々こんな所まで?

この男はいったい何者なんだろうか?

今さらだがそう思った

「そのサンシティー?には…いるの?麻雀できる人。」

トムが口を開いた。

「残念ながら…いない。いや、いたんだがもういない。年寄りばっかだったからな。1年前の流行り病で皆死んでしまった。俺に教えてくれた人も。」

少年たちはだまって聞いていた。

年寄りが死んでいく…。それは彼らも充分に経験済みだ。

「細かい説明は省くが、まぁとにかく俺はサンシティーに麻雀を復活させたいわけだ。麻雀ってのは究極の遊戯だ。探せばまだまだいるはずなんだ!麻雀を打ちたくてたまらないやつが!」

「でもさ、知らなくても俺らみたいにさ、覚えりゃいいんじゃね?」

コジローはスッと核心を突く。

「まぁな。でも実は事情があって期限が3ヶ月と決められている。それにある程度のレベルの者がほしいんだ。だから俺は旅に出た。」

ある程度のレベルか…。

「しかし誤算だった。麻雀が打てる人間にこんなに会えないとは。あともう少し西に行くと大きな街だった所があるからそこに期待はしているが…。」

「期限はあとどれくらい?」

「2ヶ月ちょっとだな。」

ムサシは何か思いつきそうで思いつかない、モヤモヤしたものを感じていた。

「…あの…!」

思い詰めた顔のトム。

「僕を…連れてってくれない…!?」

!!!??

「ダメよ!」

すぐそう言ったのはシェリー。当然だ。トムはシェリーにとって大事な弟なのだから。それとおっさんへの迷惑なんかも考えていたのかもしれない。

「そうだ、ダメだ!お前は役大臣の責務を放棄すると言うのか!?」

盲牌王の責務はあるのだろうか。

ムサシも何か言おうとした時、

「連れて行くことはできないなぁ。」

おっさんはそう答えた。

肩を落とすトムと、その肩に手を添えるシェリー。

「ただし!」

一同は一斉に髭面に目をやった。

「今のところは、だな。俺は西の方を回ったあと、またここに戻ってくる。その時俺が認める程上達していれば…考えよう。」

「…絶対だよ!!」

トムの瞳はやる気に満ち溢れていた。

思わぬ展開に同様を隠せないシェリー。

そしてムサシとコジローは…

「ちょっと待った!その話、当然俺らにも権利あるんだよな!?」

二人ともその手には麻雀牌を持ち、モキュモキュと盲牌の練習をしていた。

「ああ。もちろんだ。実力次第ではこちらからお願いしたいくらいさ。」

よっしゃああああ!!!とガッツポーズの3人。
シェリーだけは不安そうな顔だったが

「わかったわよ!私も置いてかれないように本気だすわ。」

考えてみれば、おっさんのナビがあったとは言え、シェリーは初アガリがインパチだった女だ。
恐ろしい女が名乗りを挙げたかもしれない。

「そうと決まれば、まだ教えてないことあるでしょ!?どんどん教えてよ!!」

もはやグイグイシェリーだ。

「そうだな。メシも食べ終わったし、次は『鳴き』と『喰い下がり』ついて教えよう…。」

ゴクリ…

明確な目標が出来た少年たち。
全員が以前よりも真剣な眼差しで、髭の話に耳を傾けるのであった──

〈現在の知識〉
サンシティー・・・なんかすごそうな街。国?

〈目標〉
おっさんが戻って来るまでに麻雀を覚え、ある程度のレベルになること。ある程度がどの程度かは全くわからない。

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