髪型や髪の色を変えた理由を選手に聞くべきか。競技と関係のない質問をすることのあれこれ

大坂なおみさんのことで世間的に注目されている話題

女子テニスで世界的なトッププレーヤーである大坂なおみさんが、全仏オープン開幕直前に記者会見に出席しないことを宣言して、それが世界的に話題を呼ぶことになった。最終的に彼女がうつ病を告白して大会から棄権したのは別の問題であり、僕はテニス界における記者会見のルールを知らないのであまり勝手なことは言えないのだけど、彼女が報道陣に対して不快な思いをした理由の中で「会見場に座ると、これまで何度も質問されてきたことを聞かれたり、不信感を覚える質問を受けたりする」というワードがあった。

この辺のことで、世間的に多少の拡大解釈をされていく中では「競技と関係のない質問をされることへの同情」というものがあったと思う。これに関して言えば、テニスに限った話ではないし、僕も割と葛藤ではないけど、難しい思いをしたことがあるし、コロナのことがあるので現在は少ないけど、半分くらい現在進行形で悩みを持っている部分の1つだとも言える。

まず、「何度も同じ質問をされる」という点に関しては、程度の問題もあるように思う。昨日聞かれたことを今日また聞かれるのと、1年前に聞かれたことをもう1度聞かれるのとは違うと思うし、質問の真意が「時間が経って同じ質問を投げかけてみることで、考えの変化があるかを知りたい」ということにあるのかもしれない。そこら辺はケース・バイ・ケースであるけれども、競技に関することであるなら感情的にもそれなりの解決ができると思う。むしろ、この繰り返しの質問や不信感を覚える質問という点で選手がイラ立ちと不快感を溜めていくとしたら、プロフィールに関わる情報や、プライベートのこと、競技に関係ないことなのではないだろうか。

髪型や髪の色を変えた理由を選手に聞くべきか

僕はサッカーの現場にいるので、分かりやすく言うとこのようなことになる。僕自身は、ある選手が金髪にしようが髪を切ろうが本当にどうでも良いし興味がないのだけど、実際にそれが記事化されて特にインターネット上で公開されてみると、「そういう、しょうもないことの方が読まれるんですよね」というのは聞くし、それこそSNSの反応みたいなものを見ても現実にあることだ。髪を切ったから足が速くなるわけでもないし、パスが上手くなるわけでもない。まあ、もしかしたら視野にかかっていて邪魔になっていた髪を切ったら見える場所が増えたなんていうことが起こる可能性もあるけど、それはもはや強引なこじつけだろう。

これは「競技と関係ないことを聞いている」という点で、本質的には大坂なおみさんに「好きな日本食はなんですか?」と聞くのと変わらない。もし、その選手が髪を切った理由が何かセンシティブなことであるとか、何か恥ずかしい理由があるとか、そんなことだった時には「やめてくれよ」となるかもしれないし、本当に大した理由がなければ話すこともないだろう。その瞬間は表に出さなかったにしても、クラブハウスに入ってから「どうでもいいだろ、そんなこと!」って言って怒っているかもしれない。そうした競技に関係ない話題について、アクセス数が多いことを根拠とした「知りたがっている人がいるんだから聞くのがメディアの仕事だろ」っていう意見に賛同しきれない自分はいる。でも、こういう話題から時々、世間を感動させるような良い話が飛び出してくることがあるから難しい。結果論ではあるんだけど。

前述したように、世の中には少なからずそういう話題に興味を持つ人たちがいる。だから、多くの人に記事が読まれることが結果を出すことであるというメディアの側の商業的な側面は発生する。嫌な言い方をすると、そういう話題で媒体が収益を上げていることで、僕のようにサッカー的な話題が好きな記者に依頼を出す余裕ができてくれて助かっている側面だってある。その辺に思いを巡らせると簡単に批判しづらいのは隠すことのない現実だし、選手の中にはそういう話で時間を使う方が気楽で、あんまり難しいサッカーの話はしたくないというタイプもいる。

僕はそういう髪型とか、選手の趣味とかオフのことに全く興味がないので、いわゆるビジネス的な理由で「今年のオフはどう過ごした」みたいなことを聞いても話が広がらないし、原稿もつまらない。だから、自分はやらない方が良いなと思うんだけど、そういうピッチ外の情報が好きな人のニーズに応えていないと言われればそれまでだ。だけど、そういう話題に興味があるタイプの記者には上手いこと話を広げる人もいるし、それを不快感のない面白い感じの記事にする人もいる。まあ、時々ストレートに「どうでもいいだろ」って打ち返されている場面を見ることもあるんだけど。

だから僕は一貫して、自分が独占的に何かを聞くような環境より、様々な方向性の興味を持つ色々な人が取材する方がファンも含めた全体の利益につながるし良いことだと思っているのだけど、競技と関係ない質問に関する問題は難しいところだ。だから、選手側がある特定の話題について不快感を持つのであれば、直接言いづらいなら広報やマネージャーを通してでも良いので伝えてくれた方がメディアの立場からすれば助かる。その上でさらに、その不快な話題であるにも関わらず何かの理由や信念があって質問するなら、返ってくる不具合も覚悟してのことなんだろうなということにはなる。

今は新型コロナウイルスの影響で、選手取材もすべてオンラインになっている。それこそ、2年前までの普通の練習取材の後だったら、その金髪にした選手を呼び止めて、そのことだけちょろっと聞いて、他の選手にサッカーに関することを聞くという状況もあったし、目にしてきた。ただ、そのオンライン取材が練習後であれ、試合後であれ、そんなことを理由に取材対象選手をクラブが設定するわけがないし、直接対面していない上に、限られた時間と質問者の数も限定されることがある中で「髪切った?」的な質問をするのは度胸がいりそうな気はする。だから、そういう話題の記事は減っていると思うし、それをつまらないと思っている読み手もいるかもしれない。そして、そういう取材ができなくてストレスを感じる記者もいるんだろう。

だからこそ、僕は選手にはSNSなんかを使って積極的にピッチ外の、髪を切ったとか染めたみたいな話題を積極的に発信してもらえると良いのかもしれないと思っている。そうやって住み分けみたいな部分がハッキリしてくると、業界全体でのストレスは減るかもしれないし、ファンのニーズをそれなりに満たすのではないかと思う。10年、20年前の過去に選手たちが何かしら発信をする時はメディアを通す必要があったけど、SNSを上手に使うことで解決できることが増える、あるいは問題の起こる頻度が減る問題に、この競技と関係ない質問という題材があるように思っている。

そんなわけで、クソどうしようもない質問でも上司命令という理由でしなければいけない場面がある会社員と、僕のようなフリーランスの違いも多々あるような気はするんだけど、メディアの一員としては考えさせられることの多い話題だった。

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