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現代文の読み方、解き方、教え方⑥ 「文学的文章」を「俯瞰的」に読むⅰ

 「文学的文章」を「俯瞰的」に読むことについて考えてみよう。

 これがもう、まったく難しいのだ。油断すると、すぐに小説を読むことを楽しんでいる自分があらわれる。いやいや、テスト中だっつうの。だから、文章と一定の距離を保つ必要がある。小説の文章は、「危険! 近づきすぎるな!!」なのだ。

 小説の場合も、注意すべき点はシンプル。
  ① 場面設定、状況設定が、どのような語で表されているか
  ② 変化の兆しが、どの語で示されているか
  ③ 変化は、どのような語で起こっているか
  ④ 変化の後は、どのような語で示されているか

 自分がいま読んでいる箇所が、①~④のどこかに注意しておくだけでいい。それだけで自分の読みのバランスがとれてくる。

 魅力的なフレーズ一つ、小さなエピソード一つで、そこをあたかも物語の中心であるかのように思い込んでしまう。その思い込みを避けるために「俯瞰的な目」が必要だ。

 ちなみに、テストに採用される小説の部分には、必ず人物の「変化」が語られる。そうでないと、問題がとても作りにくいからだ。だから「変化」の最中と、あとさきを意識的に読んでいく必要がある。

 でも、まずは①の「場面設定」だよね。「羅生門」でいえば、「ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。」に続く部分だ。この一文だけで「ある日の暮れ方」「下人」「羅生門の下」「雨やみを待っていた」というように、日時、人物、場所、状態が描かれている。完璧だ。

 ただ試験に採用する小説が、すべてそれぞれの試験に都合のいい長さにまとまっているわけではない。長い小説のある部分を抜き出してくるのが、普通だ。つまりその小説の「場面設定」をすっとばして抜き出してくる。そのような場合は、リード文で場面の設定を行う。リード文は大切! というのは、そのためだ。場面の設定は、その作品の宇宙を作る根幹である。

 その際、必ずその作品の発表年が書かれている。ここにもしっかり注意が必要だ。作品の発表年によって、風景の基準が変わってくるからだ。例えば、1950年発表の作品を現代の目で読むことはできない。その時代背景に対する配慮も必要になる。だから、ある程度は時代に対する歴史的知識も必要になる。

 また、これは①~⑤のすべてに関しての注意だが、それぞれが明確に区切られているわけではない。ここまでが場面設定、ここからが兆し、ここで変化という順番があるわけでもない。そういう小説もないわけではないが、普通は入り組んでいる。人間が入り組んでいるのと同じだ。だから、なかなか油断ができない。

 その際に読解の基準になるのが、時空間。時間と空間の区切りだ。特に時間には注意したい。小説の中では、現実の時間の流れ通りに進むとは限らない。反転したり、逆走したり、ねじれたりする。場面の切れ目には、重々注意して欲しい。

 今回はここまでで。
 
 

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