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サードアイ ep1 額に傷

 俺の額はいびつだ。眉毛から上に向かって丘のように盛り上がっている。何かでぶつけたとか、変な病気だとかではなく、生まれながらにいびつな形だったそうだ。赤ん坊の俺の頭はそりゃあ重かったんだと母ちゃんが言っていた。だからなのか、子供のころにあまり抱きあげられた記憶がない。
 学校ではクラスの奴らにデコ、デコといじられてきた。ある日、頭にきて頭突きを喰らわせてやったらイチコロで、やつら、泣いて謝っていた。

「オレをあなどる奴は容赦しねぇぞ」

それ以来、からかってくる奴はいなくなった。
 多くの仲間が慕ってくれて、後輩たちも何かあれば頼ってきた。時には、かなりやばいこともあったが、あいつらを守れるんだったら多少の犠牲は厭わなかった。

「オレの仲間をバカにする奴は、ぜってぇ許さねぇ」

頭突けば頭突くほど、額のいびつさが増していく。

 ある日、路地裏で血を流しながら頭を抱えていると、白いひらひらとした服と杖が目に入った。
「そろそろ、その額の意味に気づく頃合いじゃのう」
見上げると、やせこけた老人が立っていた。
「はぁ?なんだ、じじい」
老人は、にやつきながら俺の額を見ていた。白い髭の口元には歯がほとんど無い。もごもごと言葉を発する。
「敵の声を、素直に聴くんじゃな」
そして、おもむろに俺の額に何かを貼り付けた。
「何しやがる」
そう言って立ち上がりかけたが、気力も体力も失せていて力が入らず、意識もぼんやりとしてきた。

 それから俺は家に帰って寝た。バカみたいに何時間も泥のように眠った。起き上がってすぐ用を足した。体中の水分が全部もっていかれたかのような長い小便だった。トイレから出ても何だかふらふらした。顔でも洗ってシャキッとするかと、昨夜、老人に貼られてそのままになっていた額のテープを剥がす。チクッとした痛みと出血があったが、気にせずにジャバジャバと洗った。
 しばらくしてから、老人とのやりとりを振り返ってみた。なにせ今まで、勉強なんてアホらしくてしてこなかったから、頭に中身などあろうはずもない。いや待てよ。奴は、頭の中身とは言ってなかったな。たしか、額の意味がどうのこうのと。意味ってなんだ。これになんの意味があるってんだ。

 額の傷のかさぶたがむず痒くなってきた頃、急に視力が良くなったかのように、何となく視界がひらけているのに気が付いた。不思議なことに、額を触ってみると、視野が通常に戻る。それで、また手を離すとよく見えるのだ。これは、一体全体どうなってるんだ。
 あのジジィ、何か小細工をやりやがったか。敵の声を聴け、だと?ふざけるな!敵に出くわしたら、すぐさまブッ飛ばすまでだ。いっ、たたた。額の傷が疼くぜ。やっかいなことになったもんだ。まったく。


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