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サードアイ ep2 額の引力

 ある日の休日。ボクはいつものように左足から靴を履き、玄関を右足から出て公園まで歩いていく。ここからはマイルールを発動させない。外界ではいろいろと邪魔が入ってしまい、思うように動けなくなるからだ。案の定、自転車が猛スピードで向かってきて、道の端に避けることとなった。
(やれやれ、今日が雨でなくてよかった。さてと、気を取り直して、右足から行くとするか。お次は左でと)
どすっと、何か堅いものにぶつかったようだ。

「おい、どこ見て歩いてるんだよ」

しまった。まずいのに遭遇してしまったようだ。

「す、すみません」

うつむいて目を合わさずにその場を去ろうとした。もう右だ左だと言っている場合ではない。

「おい、待てよ」

(ひえーーー。どうしよう、走って逃げるか。でも、絶対につかまる)

「ちょっとその眼鏡、貸してくれねぇか」

「め、めがね、ですか」

(あー、たぶん、めがね狩りだ。今からボクは、めがね狩りにあうんだ。安物だけど、結構気に入ってたんだよなあ。ていうか、これを持っていかれたら困るんだけど。予備なんかないし)

「最近、なんか目の調子がおかしくってよ。ちょっと貸りるぜ」

男はひょいっとボクの眼鏡をつまみ上げて自分にあてがった。それから、周りをきょろきょろと見て回り、首をかしげる。

「視力の問題というわけではなさそうか」

そういうと、身をかがめてボクに眼鏡をかけ直した。

「あ、ど、どうも」

眼鏡を返してくれたし、悪い人じゃないかもしれないと、うっかり、男の目を見つめてしまった。それは、ボクの知っているいじめっ子の目じゃなくて、何かと頼れる兄貴といった感じの奥深い眼差しだった。
(いや、いかん、いかん。思いのほか優しいからといって惑わされちゃだめだ。現にこの人、傷痕だらけじゃないか。額にも傷が)
そのかさぶたからはうっすらと血がにじみ出ていて、まるで何かの生き物みたいだった。しばらくの間、それを呆然と見つめていた。

「おい、どうした?何かオレの顔についてるか?」

「すみません、こっちに来てください」

ボクは男の手を引っ張って、近くの公園へと連れ込んだ。

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