中学受験・高校入試の雨温図の攻略~日本の気候についての基本的な考え方~

 雨温図を見てそれに当てはまる地域を選ぶ。中学受験や高校入試の日本地理の分野においてスタンダードな問題であり、どうやって考えればいいのかがわかりにくい部分でもあります。社会は暗記でなんとかなると考えている人も、雨温図ばかりは考える力が問われていると感じます。この記事では、そんな雨温図問題の基本的な考え方を示します。ただし、この記事では前提として各気候の特徴をある程度把握していて、理解や指導に限界を感じている場合に有用だと思います。受験生はもちろん、指導者や保護者の方もぜひご参考にして下さい。

(1)雨温図=各気候の特徴を覚えるダメ
 雨温図の攻略で一番ポピュラーなのは、各気候の特徴を覚えて、その特徴に準じた雨温図グラフを選ぶというやり方です。ただ私は、これは好ましくないと考えています。理由は大きく2つあります。

・応用が利かない
・面白くない

 前者は実用的な問題で、特徴を覚えているだけでは対応できない問題が出されることがあります。なぜそんな雨温図になるのかのメカニズムをしっかり理解していないと解けない問題が出たときに対応できません。さらに、今後ますます大学入試の地理はそういった要素が非常に強まる傾向にあります。
 また、私は後者の方がより重要な問題だと思うのですが、各地域の気候を覚える勉強は無味乾燥したもので、とにかく面白くない。せっかく気候がシステマチックに説明できる分野にも関わらず暗記で乗り越えるのは本当にもったいない。学力のベースは興味関心だと思うので、ぜひここで気候の面白さ、地理の面白さに触れて、社会を好きな科目にして欲しいと考えています。結局それが一番結果につながると思います。

(2)雨温図問題のコツ
 では、雨温図問題のコツを解説していきたいと思います。
 まず、確認として日本では多くの教科書や参考書で気候を6つに分けています。

・北海道の気候
・太平洋側の気候
・日本海側の気候
・中央高地の気候
・瀬戸内の気候
・南西諸島の気候

そもそもこの6つの気候区分が生じるのは、緯度・季節風と山地が原因です。私は指導するとき、これに加えて気温感覚を加えた4つの視点からグラフの見分けをしていきます。見分ける順番に即して示していくと、

・緯度→北海道の気候、南西諸島の気候の選び方
・季節風→日本海側の気候、太平洋側の気候の選び方
・山地と日常感覚→瀬戸内の気候、中央高地の気候の選び方

です。では、1つずつ見ていきましょう。

①緯度による気候への影響~北海道と南西諸島(沖縄)の気候の見分け~
 まず、なぜ緯度が気候に大きな影響を与えるか?一言で言うなら球体の地球では緯度によって太陽が当たる角度に違いがあるからです。詳しい解説は、この記事の元ネタになっている「山岡の地理B教室」に譲ります。ぜひ参考にしてみて下さい。
さて、6つの気候区分の中でおそらく北海道の気候と南西諸島の気候はグラフが特徴的で、一番見分けやすい雨温図グラフだと思います。ただ、じゃあ具体的に他の地域とどう違うのかと言われれば、北海道は寒くて南西諸島は暖かいみたい曖昧な説明になりがちで、実はなかなか説明が難しかったりします。
 そもそも北海道と南西諸島は気候帯が違います。すなわち、日本の大部分が温帯(温暖湿潤気候)なのに対して、北海道は冷帯であり、南西諸島は熱帯です(厳密には簡単に割り切れないけど)。じゃあ、気候帯が違うと何が違うのか?熱帯・温帯・冷帯を分ける決定的な違いはシンプルです。冬の気温が違うんです。冬の平均気温が概ね-3℃以下なら冷帯、18℃以上なら熱帯です。
 このように、ポイントは冬の気温です。冬の気温に着目して、冬の平均気温が概ね-3℃以下なら北海道を、18℃以上なら熱帯を選びましょう。一年中暖かいとか、すごく寒いといった曖昧な基準ではなく、冬の気温に着目して、概ねでも数値をしっかり見て判断できるとぐっと正答率は上がると思います。何より、曖昧にふわふわしていた部分が地に足つく感覚になると思います。地理学習ではこういうシステマチックな考え方がとても大切です。

②季節風による気候への影響~太平洋側と日本海側の気候の見分け~
 太平洋側の気候と日本海側の気候の見分けは、季節風の影響太平洋側は夏に、日本海側は冬に降水量が多いのが特徴です。これは、海から水蒸気を含んだ風が多く流れてくるからです。では、なぜ季節風は季節によって風向きが変わるのでしょうか?このロジックがわかると色々と応用が効く上に、地理の面白さを感じることができます。
 まず、そもそも風はなぜ吹くのでしょうか?いくつか理由はありますが、空気の密度が多いところから少ないところに向かって吹く場合があります。季節風はこのタイプです。ではなぜ、空気の密度に差が生まれるのでしょうか?これは、大陸と海洋での比熱の差が要因です。
 大陸は岩石でできています。一方で海洋は水です。岩石と水を比べたとき、岩石の方が熱しやすく冷めやすく、水の方が熱しにくく冷めにくいです。これは、真夏のアスファルトとプールのどちらの温度が上がりやすいかをイメージすれば子どもでもわかりやすいと思います。では、この性質がどのように風に影響するのでしょうか?
 空気は、温められると上昇する性質があります。冬場の暖房が顔ばかりが暖かくなり足元が寒いのはこれが原因です。温められた空気は上昇し、雲を形成していきます。温められた空気が上昇するということは、逆に言えば暖かいところの方が空気の上昇が多い、すなわち地上に近いところの空気の密度は相対的に下がるということになります。
ここで、先ほどの大陸=岩石と海洋=水の話を思い出してください。もう一度確認すると、岩石は熱しやすく冷めやすく、水は熱しにくく冷めにくい性質があります。夏の大陸の状態は熱しやすいのでより気温が高い→より多くの空気が上昇し、海洋はこの反対になります。この時、地上の空気の密度はどうなっているでしょうか?大陸は密度が小さくスカスカでスペースが空いていて、海洋はその逆で大陸ほどは空気が上昇していないので密度が高く、比較的スペースが埋まっています。もしあなたが空気だったら、この状況でどう思うでしょう?スペースが埋まって身動きが取れない海洋から、スペースが空いている大陸方向に移動したくないですか?実はこの移動が季節風なんです。だから、季節風は夏は太平洋側から吹いてくるというわけです。
冬はどうなるかも考えてみましょう。冬場は夏と逆になります。相対的に大陸は気温が低い=上昇する空気が少ない=地上付近の空気の密度が高くスペースが埋まっている。これに対して、相対的に大陸に比べると海洋は気温が高い=上昇する空気が多い=地上付近の密度が小さくスペースが空く。よって、密度が大きい大陸から海に向かって風が吹くわけです。
 このメカニズムがわかっていれば、風が夏と冬にそれぞれどちらから吹くかを暗記する必要がなくなります。そしてなにより面白いですよね!
 ということで、季節風のメカニズムがわかったところで、グラフの見分け方を。基本は四方を海に囲まれているわけですから、季節風として太平洋や日本海側から吹く風は海の上を通って日本に到達するわけです。海上の空気は当然たくさんの水蒸気を含んでいるので、日本に到達した時には雨が降るわけです。ということで、夏の降水量が多いのが太平洋側のグラフ、冬の降水量が多いのが日本海側のグラフとなるわけです。

③山地による気候への影響と一般感覚の大切さ~瀬戸内と中央山地の気候の見分け~
 瀬戸内の気候と中央高地の気候の特徴は、降水量が少ないことです。これはなぜ生じるかといえば、両方とも南北を山地に囲まれているからです。では、なぜ山地に囲まれていると降水量が少ないのでしょうか?
 私は生徒に山は強制雨降らしマシーンだと話すことがあります。なぜなら、山に沿って空気が強制的に上昇させられるからです。標高が上がると気温は下がります。気温が下がると飽和水蒸気量も下がるため、空気中に含むことができる水蒸気量も減少します。そうすると、雨や雪などになって放出するために、山を下りる頃には空気には水蒸気があまり含まれてない状態になるわけです。
 この理屈はフェーン現象の説明にも使えます。そして、瀬戸内と中央高地もこれが理由で雨が降りにくい気候になっています。
 さて、メカニズムがわかったところで、瀬戸内と中央高地の気候の見分けをどうするのか?実はこの見分けが一番難しい。なぜならグラフの形がほとんど同じだからです。では、どこで見分けるかというと、1年を通じた平均気温です。少し荒っぽいですが、瀬戸内の例として広島や香川を、中央高地の例を長野とします。どっちが寒いですか?これはもう感覚的に長野ではないでしょうか。なんといっても、冬のオリンピックしているくらいですから、そりゃあ寒いですよ。年平均気温もこれに付随していて、確かに瀬戸内と中央高地では中央高地の方が平均気温が低くなっています。
 ここで大切なのは、一般的な気温感覚です。気温が数値として高いとか低いとかではなく、暑いとか寒いとか日常生活の気温感覚の言葉に置き換えることが大切です。その地域の実情を踏まえながら日常生活に溶け込ませながら説明するのも重要だと思います。私の場合だと瀬戸内民なので、長野とどっちが寒いと思うと話しながら考えさせると、生徒はあっさり納得します。こういう日常生活に立ち返るのはすごく大切だし、実は問題で一番問いたい抽象と具体の往復でもあると思います。

(3)まとめ~見分け方の手順~
 最後に、グラフの見分け方に特化してロードマップとしてこうやって解けばいいよというものを示したいと思います。

①まず冬の平均気温を見る

→概ね-3℃以下=北海道の気候
→18℃(実際は15か16℃)以上=南西諸島の気候

②次に、降水量の多い部分を見る→夏の降水量が多い=太平洋側の気候
                冬の降水量が多い=日本海側の気候

③最後に残った降水量が1年を通して少ない2つのグラフの年間平均気温を見る
→気温低いほうが中央高地の気候、気温が高い方が瀬戸内の気候

いかがだったでしょうか?少し寄り道をしながらではありましたが、小中学生であっても少し高校地理の知識を入れて説明すると納得感が増します。ぜひ、参考にしてみてください。

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