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居心地のいい場所を探す

大学をまもなく卒業する3月、ルームシェアというものを始めた。このお話は若かりし日のトガった思い出のほんの1ページ。

いきさつ

きっかけは私の思い付きで、ゼミの同期2人に提案したことが発端。2人は実家暮らしで、それぞれが4月からの生活に不安を抱えていた。それは私も同じことで、大学院の夏入試に失敗し自信を失い田舎の親には院の費用はとても負担できそうにないと告げられ、今さら就職先も見つけられず何なら不安なんてものではなかった。

「ルームシェアとかしたらやっていけるんじゃない?」

軽い気持ちで、まあ真に受けず流されていくだろなんて思って放たれた言葉。しかしそれは流れていくことなく2人の心に刺さってしまったらしい。

「「それいいね!!!」」

タイミングというものは本当に恐ろしい。この頃ちょうど、女3人でルームシェアするドラマが放送されていた。私たちの誰一人その中の登場人物とダブる部分を持ち合わせていたとは思えないが、容易に楽しく暮らしている姿が思い浮かんでしまったのだろうな…(泣)

秋頃から不動産屋に何度か赴き内見にも出かけた。

入居

まず、結論から言えば入居直前になって1人がバックレた。小さな前科が幾度かあった(元)友人…信じたものがバカを見るのだ。急遽2人での生活が始まった。半年すれば奨学金の返済が始まる…金銭的な焦りもありネットで同居人を募ってみようと提案。念のため面接も行い、2カ月ほどでルームメイトの補填をすることができた。

育ってきた環境が違うから…?

またしても結論を言おう。面接までしたルームメイトは少し変わった人で全然しっくりこなかった。協調性のあるタイプの人ではなく、そこまでの親密さは求めていなかったがそれ以前の水準というものがある。家にいると小さなストレスに出くわすことが増え、少し居心地が悪かった。

社会人生活、始まる

このルームシェアを始めた時、私はとある芸能系の小さな事務所に勤め始めていた。初めての上司ができて、チーフという役職で5つ程年上の女性。当時かなりギラついていた私は、チーフのことをとっても意識するようになっていた。仕事の成果も服装も振る舞いも、何もかもチーフに気に入られ評価され見初められたい一心でどんどんギラつきは加速する。今思えば常軌を逸したのめり込み具合。

通勤は1時間くらいかかっていたが、チーフと同じ路線だと知りいつも近くにいないか無意識に探しながら過ごす。ある日の私の公休日、他の社員は出勤なのだがとんでもなく風が強く電車が運休になるほどの悪天候で、私はチーフが心配になった。外回りをして大変な思いをしているのでは…そもそも無事に出勤できたのか…黙っておれずメールを送る。お昼には返事が来るか…と悠長に構えていたところ程なくして受信音がした。

事態はいつも突然変わる

メールを開くと、信じがたい内容であった。

今日出勤してない(^^;

チーフは、それから一度も出勤せずに退職した。5月のこと。初めての上司を入社3カ月で失った。

ギラついていた私はここでチーフを失うまいと必死で連絡を取り続けた。職場でもチーフなき後彼女に代わる活躍をしようと必死になった。そしてそれから1カ月…精神が悲鳴を上げ私は退職した。

仕事は失ったもののチーフとの縁は途切れずに繋ぎとめた。ある夜チーフに呼び出された私は、とある新宿二丁目の飲み屋に出向くことになる。道中、様々な思いが巡った。『え、チーフも実はコッチいけるの…』とか『もしや私の想いを受けとめて…今日…』とか都合のいいシナリオの心積もりをしつつ、指定された店のドアを押し開ける。

大柄なママとべろべろ酔っ払いのチーフ。

チーフは私に、私のチーフへの気持ちを問いただした。私は好きだと答えるよりない。同じような押し問答が何度か繰り返される。チーフからの答えはない。一体私は何のために呼ばれたのか…小さな雑居ビルで何時間ほど飲んだのかも分からなくなった頃、いい加減に閉店よと告げられた。

ああ、理想と違う、こんなシナリオはない…どういうことなの…

私はどんよりした気持ちでチーフに寄り添ってママの部屋で雑魚寝していた。

叶わないどころか

その後もチーフとはよく飲みに歩いた。住んでる場所が近く、シェアハウスでも息苦しい思いをしていた私は学生時代のバイト先に出戻って夜勤をしながら休日にはチーフと遊び歩いていた。

同じ職場に勤めていた頃よりも、ずっと長い時間を過ごしたくさん話をした。でもどれだけ距離が縮まっても、これは交際ではない。恋人ではない。なんならチーフは元カレへの気持ちを引きずっている。どれだけ一緒にいてもこれ以上はないのだ。ギラついて燃えた半年後、私はくたびれて淡い期待に縋り付いて生きていた。

退去

破綻というのはその兆候を見せずにすでに迫っている時がある。

シェアハウスで二回目の夏が始まろうとしていた。いい加減つけっぱなしのキッチンの換気扇や掃除されることのない床の長い抜け毛をどうにかしたいと思い立ち、意を決して家事の役割分担を提案した。

返事のふせんが貼られるまでほんの数日であった。

もう解消した方がよさそうですね。

目を疑った。すんなりその意味を理解することも難しかった。でもそう言われて、ああそれもそうだな。と受け入れてしまった私がいたのもまた事実である。

心機一転は真夏から始まる

真夏、私は古いアパートへと一人引っ越した。元いたところから1時間ほどの商店街のある街。ルームシェアは解消、それぞれが別々に暮らすことになった。少しの貯えも尽き、休日に引越しのための時間を費やす必要がありチーフとの縁も少しずつ薄らいでいた。これでよかったんだ…感傷たっぷりに自分に言い聞かせて新しい自分の街を歩く。馴染めるのだろうか、この街に。

そんな不安は最初だけだっていなせる程、私は引越しをその後も経験した。叶わない想いを抱いてそれが当たり前みたいにうまくいかなくてどうしようもない虚しさを抱えても、私は結局また立ち直るし誰かのことをまた好きになる。例えうまくいかないとしても私はまた、ぴったりくる居場所を探すのだなと思い知る。初めて借りたあの部屋を思い出したら、そんなことを書きたくなった。

最後まで読んでくれてどうもありがとう。

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