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義母の生霊と闘う話⑥

私は占い師以外にリラクゼーションセラピストとしても働いていて、こちらは自営ではなく店舗に務めている。
勤め先であるサロンのスタッフルームでも、やれ生霊の霊障だ、前前世からの怨念だ、RADのおばあちゃんちゃうわ、何が『前前前世から僕は〜♪』やねん!と、最近身の回りに起こった様々な異常事態をネタにしていた。
たいていの人が『はぁ?!』と言ってきそうなことでも全く動じないのがこの店のスタッフの良いところであり、私が10年以上在籍し続ける理由でもある。

パイセンと行く三峯神社の旅

中でも職場の大先輩かつ占い師仲間でもある「パイセン」はあまりにも理解力がありすぎた。

『三峯神社いいよ!!
山の中だしすごい遠いけど、行く前本当に痛かった腰が、帰りには痛くなくなってたから。
帰るときのほうが元気になるの、ほんとに。あそこはすごい。
風がビュービュー吹いてて本当に気持ちいいところ。一緒に行こうよ!』

私の生霊による霊障を軽減させるためだけに、片道4時間半かかる雪山への旅をこのライトさで提案してくれて、なおかつ同行を申し出てくれる人なんてなかなかいないに違いない。

愛さんから『自分を大切にしてくれる人の話を聞く』ようアドバイスされていたこともあり、二つ返事で「行きます!」と答えた。

『眷属拝借するでしょ?一年後に返しにいかなきゃいけないけど、大丈夫そ?』
「ケン…?ハイシャク…?今なんて…?」
聞き慣れない言葉の羅列に混乱する私にパイセンが説明してくれた。

『眷属(ケンゾク)ってお稲荷さんの狐みたいな、神様の使いで三峯神社は大神(オオカミ)なんだけど、それを一年間貸してもらえるのね。
つまり一年以内に返しにいかなきゃいけないんだけど、大丈夫そ?』
改めて説明してもらったうえで、やっぱり初めて聞くタイプの『大丈夫そ?』だ。
結局、これにも私は二つ返事で「大丈夫です!!」と答えた。
「借りられる力はすべて借りたいので!!」

どうしても三峯神社に行ってほしくない生霊

こうしてトントン拍子に三峯神社参拝の予定が立ったのだが、その間に義父が亡くなってしまい私が忌中の期間に入ったことでお参りは控えたほうが良かろうということになった。
もしかしたら…お義父さんが急に体調を崩したのも、参拝を妨害するための生霊の策だったのかもしれない。
直前にあった色々を思い出して、なおさら疑惑が確信めいてくる。

人様の命をかけてまで行ってほしくない場所なのだとしたら。
きっとこの悪霊レベルの生霊を祓えるだけの浄化力が三峯神社にはあるに違いない。…やってやろうじゃないか。
「年明け、なるべく早く行きたいです!」
パイセンにお願いして、1月某日再度お参りの予定を立てた。

三峯神社参拝の直前の出勤日、パイセンとシフトが被っていたこともあり、具体的な集合時間や経路などを一緒に決めた。
『無事に行けるよう祈っとくね!色々妨害ありそうだから』
「私も無事過ごしたいです…頑張ります!」
いままでさんざん妨害されてきたので、ある程度は何かあるだろうと思ってはいた。
…そう。思ってはいたのだ。

巻き込み事故

三峯神社参拝の打ち合わせも仕事も無事終えられた。あとは行くだけ。もう祓える気しかしない!
すでに清々しい気持ちでいっぱいだ。
しかし、ワーキングマザーにのんびりしている暇はない。もう保育園のお迎えの時間が迫っている。
なんとか頭を現実モードに切り替えて、小走りで保育園へ向かった。

到着してからも怒涛だ。
1歳の息子の帰り支度をし、5歳の娘には準備を急ぐようたびたび声を掛ける。
家に帰れば洗濯物の片付けや夕飯の支度も待っている。一日で一番忙しい時間だ。

『ママ!お友達と帰りたい!』
娘が同じクラスのお友達と一緒に帰りたいとゴネ始めた。見たところ、その子はまだ支度に少し時間がかかりそうな様子。
普段ならなんとか説得してすぐさま帰るところなのだが、この日は普段より少し時間に余裕があったこともあり、お友達を待つことにした。

ただこの時間はお迎えラッシュ。
ビルの中にある保育園の狭い玄関は、迎えに来た親と今から帰ろうとする親子でいっぱいだった。
「エレベーター降りたところで待ってようよ。ここ人いっぱいだから」
娘に伝えてエレベーターに乗り込んだ。
すると
『一緒にいいですか?』
別のクラスの子のママの声。
どうぞ!と慌ててエレベーターの扉を押さえた。
他愛もない話をしながら一緒にエレベーターで一階まで降りる。
扉が開くやいなや、娘から『お友達!ちゃんと待つんだよ!』と釘を差されてしまった。
娘の気が変わるのを若干期待してしまっていたのが見透かされたようだ。
仕方がないのでこの親子とはここで別れ、娘との約束通りお友達が降りてくるのを待った。

5分ほど経っただろうか。
待っていたお友達親子がエレベーターから降りてきた。
『一緒に帰りたくて待ってた!』と友達を抱きしめながら喜ぶ娘。
たまにはこういう日があってもいいかな。
そんなほっこりした気持ちでお友達親子とともにビルの外に出た。

しかし…何やら騒がしい。
大丈夫ですか?!とか、どうしたの?といった声が飛び交い、バタバタと人が行き来している。交通事故があったらしい。
…血の気が引いていく。

被害にあったのは

つい5分前。一緒にエレベーターに乗っていた、あの親子だった。


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