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7月7日、天気予報は雨【ショートショート】 #day11

ラジオから流れる声を聴きながら、織姫はため息をついた。今年も雨の七夕になるらしい。これでもう3年目だ。

いつになったら、会えるのか。恨めしい思いを胸に、曇った空を見上げ、再び息を吐いた。

無意識のうちに、首元へ手が伸びる。小さな星のモチーフがあしらわれたペンダント。彼がくれたものだ。気がつくと、いつも指でなぞってしまう。そこにいない彼を感じたいのかもしれない。

「織姫様」
執事のリラが、短冊でいっぱいになった箱を抱え、部屋に入ってきた。

「今年はどの願いごとを叶えて差し上げましょうか?」

最初、この仕事を始めた頃、人間とはなんと欲深い生き物なのだろうと思った。しかし、今はどうだ。織姫は自身こそが一番欲深いような気がしている。

会いたい。
この一年で、何度そう願ったことか。

・・・

「どんな願いごとが書かれているの?」
織姫がリラに尋ねる。

「まぁ、いつもとあまり変わりないですかねぇ。数は減りましたが、コロナ関連の願いごともまだいくつかございますね」
「そうなの。残念だけど、寿命や病気に関する願いごとは叶えられないわ。それは神様の仕事だから」
「しかたのないことでございます」

織姫は、リラと一緒に箱の中を覗き込む。幼い字で書かれた短冊が目に留まった。

「いぬがかいたいです」

「リラ、犬はどうかしら?」
「お調べしますので、少々お待ちください。この願いごとを書かれたのは、神奈川県に住む7歳の男の子のようでございます。・・・あ、いけませんねぇ。この男の子の住むマンションは、ペットの飼育が禁止されているようです」
「願いごとを叶える仕事だというのに、現実的なのね・・・」
「しかたのないことでございます」

再び、箱の中へ視線を戻す。

「サトシと7月7日の花火大会に行けますように❤️ カナ」

織姫は、カナという女性が書いたであろう短冊を、興奮気味につかみ取った。
「リラ!これよ!!」

「花火大会でございますか?」
「そうよ!確実に花火大会を行うためにも、この日は絶対に雨を降らしてはいけないわ。台風や強風はもってのほかよ!」
「なるほど。そういうことでございますか。しかしながら、そのような私的な・・・」
「なに?文句ある?」
有無を言わせぬ勢いでリラを黙らせた織姫は、カナの願いごとを叶えることに決めた。

「では、そのように手配いたします。ちなみに織姫様、7月7日はいかがなさるのですか?」
「もちろん、会いに行くわよ」
ベッドのそばにある棚の引き出しを開け、一枚の紙きれを取り出しながら、織姫は答えた。

「ずっと、この時を待っていたんだもの。彦星とのこと、きちんと決着をつけてから、彼のところに行きたいの」
また、無意識にペンダントに手が伸びた。

「だって、一年に一度しか会えるチャンスがないのよ?それも雨が降ったら、おしまい。また来年。これでさみしさを感じない女がいると思う?」
これまでに聞いたことのない口調で、織姫は感情をぶちまけた。

リラは抑揚のない声で、一言こう答えた。
「しかたのないことでございます」




『雨の七夕』というお題でショートショートを書いてみました。こちらのnoteでショートショートを公開したのは初めてかも。ちょっぴり緊張。

よかったら、感想をお待ちしています!

山根あきらさん、楽しい企画をありがとうございました!

#雨の七夕
#青ブラ文学部

ではでは、また明日!

#66日ライラン
#day11


11日目にして、初のショートショート!
皆様もおつかれさまです!

最後までお読みいただき、ありがとうございます! いただいたサポートでコメダ珈琲へ行き、執筆をがんばります! (なぜか、コメダってめちゃくちゃ集中できる)