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「性的表現と性犯罪/性的攻撃性」の関係~最先端の科学的知見に迫る~

更新履歴
2022/6/5 Twitterでのご指摘から、Bhuller et al.(2011)がKendall(2007)の「ポルノが性暴力の代替となる」(代替効果説)の内容を批判しており、代替効果説の信頼性に嫌疑があることが判明したため、それを付記。

2022/6/6 Ferguson(2022)の翻訳文を一部訂正(趣旨に大きな変更なし)。

2022/6/7 Kendall(2007)の信頼性に関する嫌疑を受け、本文および「まとめ」の文言を修正。uncorrelated氏が検討したブログ記事へのURLを追記。

2022/6/9 また後日のuncorrelated氏のブログ記事より、Bhuller et al.(2011)がノルウェーを対象にして行った研究では代替効果説が支持されなかったが、一方で、同じ手法を踏襲してドイツを対象にして行った研究(Diegmann, 2019)では「ドイツのブロードバンド普及は小児性犯罪は減らした」(代替効果説)が支持された。日本の状況はどちらかというとドイツに近いと考えられる。その紹介を追加し、「まとめ」の文言も再度修正した。

はじめに

ゆっくりしていってね!!!!

今回は「性的表現による悪影響論」の科学的真相に迫るわ!

「表現による悪影響」を挙げて、表現規制を求める声はずっと止まらないわね。特に性的表現は、古くから人を道徳的に堕落させ、考え方を性差別的にさせ、また暴力的・攻撃的にもすると警鐘が鳴らされ続けているわ。

「表現の自由」を少々犠牲にすることになるとしても、規制が必要だと叫ばれ、その一部は法令として実現されてきたわ。日本でも刑法175条「わいせつ物頒布等」の罪は現役だし、各都道府県の条例による有害図書指定も毎月更新されているのが現状よ。

また、小売店やプラットフォーマーの自主規制も強化されていて、コンビニから成人誌が撤去されたり、アダルトサイトで特定のキーワードが検索できなくなったりしているわ。

けれど、改めて「性的表現による悪影響」を考えた時、「そもそも、どのような悪影響がどの程度あるのか?」という問題があるのよ。

もちろん、「どのようなタイプの悪影響も全くのゼロである」は有り得ないでしょう。ご飯やパン、ハンバーグや唐揚げを食べることだって、少なくとも「食べ過ぎたら、太る」という悪影響はある。でも、だからといって、ただちに規制するべきという話にはならないわ。

特に表現物を規制する場合は、明らかに「表現する自由」および「知る権利」と衝突するわ。特定個人の人権を明らかに侵害しているという理由でない限り、ゾーニングや自主規制も含めて、表現の萎縮問題やクリエイターへの経済的影響なども考慮した慎重な議論が必要よ。

まあ憲法論は今回のテーマではないからさておくとして。

さて。科学的に見る表現の悪影響とはいかなるものか?

統計データや様々な実験室実験、縦断的・横断的研究に基づき、徹底的に解明するわよ!!

この記事を読めば、性的表現の「悪影響論」について自分の意見を述べたり、また誰かの「悪影響論」を批判的に検討する時の基礎は完璧に身につくとお約束するわ!

社会統計データで見る性的表現の悪影響

「性的表現による悪影響はある」論も様々だけど、その中でも一番いかついのが「性的表現の蔓延が性犯罪を引き起こす」というものね。

最近はさすがに旗色が悪いと悟ったのか明確に「引き起こす」とか「助長」「誘発」と主張する人は減ってきていて、「地続き」なんて曖昧な言葉で姑息に誤魔化そうとするケースが多いわね。

まあ、議員のような公的立場にある人が、うっかり「性犯罪誘発」と言ったりする事もやっぱり未だにあるのだけど……。

『「ご当地VTuber 戸定梨香」を啓発動画に採用したことに対する抗議ならびに公開質問状』より抜粋

どういうわけか表現規制派の人には、安易に「そんなこと誰も言っていない」なんて大嘘を平気で言い放つ人がいるから、ちゃんと示しておかないといけないわね。

ということで――まず基礎から確認していきましょう。

日本を含む世界的な傾向として、ポルノに代表される性的表現の流通量・消費量およびアクセス容易性は上がり続けていて、その一方で性犯罪率は下がり続けているわ。

国によって若干の違いや揺り戻しはあるけれど、おおまかな所を時系列的に追いかけてみましょう。

まず、法律が変わってポルノが解禁されると、当然ながら最初に増えるのがアダルト系出版物(雑誌とか)よ。ほとんどの先進諸国にとってポルノ解禁は半世紀以上むかしの話だし、まだテレビは普及してないわ。しばらくアダルト系の出版社が続々設立されて、売り物である雑誌の発行部数を好調に伸ばしていくわね。

そのうちテレビが登場し、ここにも性表現が入ってくるけど、本格的に目立ち始めるのはビデオテープの普及から。このアダルトビデオ(AV)の制作については日本がめっちゃ強くて、1990年代前半において、アメリカがAVを年間2,500本ずつ作っているところ、日本は年間14,000本とアメリカの5倍以上という圧倒的な数値を叩きだしているわ(Greenfeld, 1994)。もちろん、当時でも性犯罪率は日本の方が低いわ。

その次に来るのがみんな大好きインターネットね。わざわざお店に行かなくても、ご家庭で手軽にポルノにアクセスできるようになったわ。便利になったものね。このアクセス容易性の改善は劇的だったと言えるでしょう。この「ポルノとインターネットの普及」に関しては非常に興味深い論文があるから後で紹介するわね。ポルノへのアクセス容易性は、スマートフォンが一般的になることで更に向上していくわ。

そして、これらの期間を通して、性犯罪率のほうはダダ下がり。上にあげた①(アダルト系)出版物の普及 ②ビデオテープ(アダルトビデオ)の普及 ③インターネットの普及は、それぞれ大きな社会的インパクトがあったけど、それが原因で性犯罪率が跳ねあがるなんて事象は世界各国のどこでも起きなかったわ。

例外的に性犯罪率の上昇がみられる時は、ポルノ規制が実施されて流通量・消費量が下がっていたり(=ポルノ流通量・消費量と性犯罪率の逆相関関係は維持されている)、あるいは「性犯罪と認定する法律上の定義が変更になった(厳しくなった)」というような他に明確な説明がつくケースがほとんどよ。

たとえば、日本では2016年から2017年にかけてレイプの認知件数が増えているのだけど、これは刑法改正があって「強姦」が「強制性交等」に変わり定義が拡張されたからよ。

「ポルノと性犯罪/性加害の関係」の研究動向に関しては、Diamond(2010)Ferguson and Hartley(2009)、あるいはもう少し新しめのMellor and Duff(2019)といった総説論文を参照すると良いのだわ(総説論文は、あるジャンルについてたくさんの研究論文を統合し、その全体の動向を説明してくれている論文よ)。

どの総説論文でも、ポルノ解禁前後での性犯罪率の変化や、ポルノ禁止の国とそうでない国との国際比較、性犯罪者の再犯率調査の結果等から、概ね「ポルノが性犯罪を引き起こすという説は支持されない」と結論しているわ。Mellor and Duff(2019)「ほぼFerguson and Hartley(2009)の結論と一致した」と書いているわね。

ネット議論でもしも「ポルノは性犯罪を起こす!」と言われたら、いったんこの3つの総説論文を投げつければいいでしょう。

また、Diamond and Uchiyama(1999)『日本におけるポルノグラフィーと性犯罪』というタイトルで、少し古いけれど日本をメインテーマにした論文を出しているから、読むと良い知見が得られるわよ!


社会統計データを横断的かつ時系列的に追う(Kendall, 2007)

とはいえ、時系列推移の二変数相関を取る時は注意が必要よね。必ず出るのが次の疑念でしょう。

Q:単に世界的に治安が良くなっていって、ポルノとは無関係に(性)犯罪率が下がっただけなんじゃないの?
(=隠れた変数による偽相関ではないか?)

よろしい。先ほど挙げた総説論文でもある程度説明されているけれど、ともあれその可能性はあるわ。社会統計の解釈のつきものよね。

「家にある灰皿の数」と「肺がんにかかる率」が相関するからといって、「灰皿の存在が肺がんの原因である」とか「肺がんになると、灰皿を集めたくなる(肺がんが灰皿の数が増える原因である)」といった因果的な解釈はできないわ。

そうではなく、「灰皿の数」も「肺がん率」も、「タバコを吸う習慣があること」が原因よね。

この「隠れた原因による偽相関」の問題は、「社会」のような規模の大きいものが調査対象だとキリがないところがあるわ。疑おうと思えばいくらでも疑える――でも、仮説の候補を絞り込んでいくことは可能よ。

それを見事に行った論文を一つご紹介し、どうやるのかを説明するとともに、ポルノによる性暴力の代替効果(Substitution Effect)を示してみましょう。

これから紹介する論文では、先ほど挙げた総説論文のように「ポルノが性犯罪を引き起こすという仮説は支持されない」という網羅的な総説論文にありがちな控えめな結論よりも進んで、「ポルノ消費にはレイプ率を下げる効果がある」という仮説(代替効果説)を条件付きながら支持したわ。

それがKendall(2007)『ポルノグラフィ、レイプとインターネット』という論文よ。

Kendallさんは、アメリカのインターネット普及スピードが州ごとに違うことを利用して、州別に「インターネットでポルノを閲覧できるようになっていくこと」と「レイプ率」との間の関係を時系列を追いかけながら調べたわ。(横断研究かつ時系列推移研究ってところね!)

「インターネットポルノのおかげでレイプ率が下がる」という因果関係を統計的に示すのは結構難しいわ。

単にレイプ率が下がっていくのを見ても「全体的に治安が良くなり、すべての犯罪が時間経過で下がっているだけでは?」と言われるし、レイプ率とネットの普及と負の相関が得られても「ネットが普及するということは、それだけ金持ちや知的階級の人間が多いということだ。金持ちや知的階級の人間はどんな犯罪にも走りにくい。つまり結局、貧困や教育の問題だろう」とか言われるわね。

そこをカバーするために、Kendallさんはレイプを初め殺人や強盗、窃盗など25種類の犯罪率を調査対象とし、調べる変数もインターネット普及率だけではなく、レイプ率と関与しそうな共変数をがっつり詰め込んだわ。

その他の共変数としては、刑務所人口、警察力規模、拳銃隠匿法(Lott and Mustard, 1997)の有無に関するダミー、死刑率などの法的変数、貧困、失業、一人当たり所得、人的資本指標などの経済変数。また、レイプ被害における重要な危険因子として知られているアルコール消費量(Koss, 1985)や、州ごとの都市化の違いをコントロールするための人口密度も含めている。また、Donohue and Levitt (2001)に倣って、中絶の犯罪に対するタイムラグ効果を示す「有効」中絶率という指標も含めている。最後に、測定された効果に特に関与しているのがインターネット利用であり、特定の形態の人的資本、警察技術、技術採用者の特性など、技術全般に関連するいかなる要因でもないことを強調するために、共変数として家庭用コンピュータを所有する世帯の割合も含めている。

Kendall(2007)

かなり念入りなのだわ……! この研究領域でここまでやったのは他にちょっと知らないわね。私けっこう調べてるハズなんだけど。

統計調査および解析方法の詳細については論文を参照してもらうとして、ここでは結果だけお伝えしましょう。

①インターネットの普及率が10ポイント増加すると、レイプ率が7.3%下がる。(代替効果がある)

②レイプ率以外に検討した犯罪率には、①のようなインターネット普及率による代替効果は見られなかった。(唯一の例外は売春犯罪に対する負の相関だが、これも性犯罪である。)

③若者が多く(レイプの主要な加害者であり被害者である年齢層)、男女比が比較的高い(男性が多い)ほど、強い代替効果が見られた。

Kendallさんは、以上の結果に基づき、「仮に隠れた変数による偽相関」だとしても、その隠れた変数は難しい条件を満たしていなければならない事から、次のように結論するわ。

もしこれらの結果が偽りのものであり、実際には何らかの省略された変数によってもたらされているとすれば、その変数は犯罪一般と相関がなく、若者に特有で、男女比が比較的高い地域に集中している必要がある。そのような変数もいくつかあるかもしれないが、この結果の最もありそうな解釈は、インターネット・ポルノが性暴力の代用になっているというものであろう。

数多くある論文のうちの一例だけれど、ポルノが性犯罪を防ぐ可能性を示唆するものもある訳ね。

もちろん、この研究一つで代替効果の存在が確定するのではないわ。でも、可能性は考慮にいれて、今後も対立する仮説と比較検討しなければならないわ。

【2022/6/5追記】
私としてはKendall(2007)は興味深く読ませて頂いたけれど、まだ査読に通って学術雑誌に掲載されておらず、一方で分析の問題点を指摘したBhuller, Havnes, Leuven and Mogstad(2011)は経済学の良い学術雑誌の一つであるReview of Economic Studiesに掲載されてもいるわ。さらに今後の研究が進むといいわね。

【2022/6/7追記】
Kendall(2007)およびBuhller et al.(2011)に関して、uncorrelated氏がより詳細に検討されていて、Kendall(2007)は信頼性が欠けると結論されているので、こちらもご参照頂きたいわ。

【2022/6/9追記】
Buhller et al.(2011)がノルウェーで行った研究手法を、Diegmann(2019)が殆どそのままドイツに適用して調査・解析したところ、代替効果説が支持されたようよ。
こちらのDiegmann(2019)は査読済みで学術論文に掲載されているわ。

Buhller et al.(2011)の問題点を指摘した記事と併せてご紹介させて頂くわね。

さて、経済学の学術論文としてはBhuller et al. (2013)を踏襲した手法に新規性に欠けると思われたのか、ややランクが落ちる雑誌に掲載となってしまっているが、政策的にはそこそこ重要な知見がある。実在児童と言う被害者のいる児童ポルノを増やすわけにはいかないから、小児性犯罪を減らすと言っても実在児童ポルノの蔓延は許されない。しかし、非実在児童ポルノの蔓延はどうであろうか。小児性犯罪を増やすことは無さそうだし、むしろ減らす可能性すらあるわけだ。つまり、規制してしまうと、愛好家の楽しみを奪う面だけではなく、性犯罪被害者を増やすと言う面からも、世の中を悪くしてしまう可能性がそこそこある。

uncorrelated『ドイツのブロードバンド普及は児童ポルノの不法所持を増やしたが、小児性犯罪は減らした論文』



なお、日本においても、都道府県ごとの性犯罪率といわゆる青少年条例(有害図書指定が含まれる)との関係が調べられたことがあるわ(福島, 1992)。

こちらの結果の解釈は、「青少年条例に性犯罪を防ぐ効果は見られなかった」ね。

実際のところ、社会統計から「ポルノが性犯罪を引き起こす!」と主張する研究者は、もうほぼ絶滅しているわ。


社会統計以外の研究手法に基づく表現悪影響論

しかしながら、「ポルノには悪影響がある」論者も諦めないわ。マクロな社会統計ではポルノの悪影響が「埋もれて」しまうのだと考えて、よりミクロな実験室研究や相関研究、縦断的研究にシフトしていったのよ。

また、悪影響の内容も「性犯罪を起こす」みたいなドギツイものではなくて、「性的攻撃性(セクハラ発言とか)が増す」「性差別的な考え方になりやすい」といった、悪いっちゃ悪いけど逮捕されるレベルじゃないやつを想定する傾向が出てきたわ(セクハラ発言は場合によっては訴えられるかもしれないけど)。

ひとまず研究手法ね。実験室研究について説明しておきましょう。

実験室研究というのは、たとえばこんな感じにやるのよ。

①500人の大学生を集めて、その500人をランダムに15分間あるポルノを見せたグループA(250人)と、見せないグループB(250人)に分ける。

②その後、攻撃性や性差別性などを測る特定のテストを行う(例:アンケートを取る、ダミーの「敵」に弱い電流を流すか決めさせる)。

③その結果が両グループでどう異なるか比較する(例:アンケートの回答結果がグループA・B間で有意な差がないか調べる)。

ここでは①の「ランダムに2グループに分ける」という操作が大切で、「ポルノを見せた・見せなかった」以外の差はこのランダムな割り当てによって相殺されるから、「XのせいでYになった」という因果関係が示しやすいのよ。十分な人数が必要だけど、「片方のグループのほうが年収が高いせいで結果に違いが生じたのでは?」みたいな話を排除できるわけね。

しかしながら、心理学実験は研究者の数だけ、どういうテストをするのか、結果をどう評価するのか方法が色々あるわ。

だから、「ほら! やっぱりポルノを見ると”攻撃性”が上がる!」とか「どうやら、ポルノを見ると”性差別的信念”が強化されるようだ」とか割と言いやすいのよ。テストの方法はもちろん、「攻撃性」や「性差別的信念」の定義も自分で調整できるしね(ただし、標準化された共通の定義や測定方法を使っている研究もちゃんとあるわ)。

この調子では研究者間での結果はなかなか揃わないわ。「ポルノを見ること」と「性的攻撃性」を評価しようとしている点では同じでも、どんなポルノを何分見せるのか、「性的攻撃性」「性差別的信念」をどう定義し測定するのかが違うからね。

結果として、「正の相関があった」「有意な相関はなかった」「負の相関があった」がバラバラに出てきちゃうのよ。

研究対象にするグループも、まあ大体は確保しやすい大学生であることが多いけど、もっと大人だったり、もっと子どもだったりもするわ。

また、そもそも論として、実験室実験の結果を現実に当てはめることの限界もあるわ。

たとえば、他者への攻撃性を測る方法として「ノイズブラストテスト」ってのがあって、結構たくさんの論文で使われてきたわ。このテスト被験者は、「このボタンを長く押すほど、ある他人に強烈なノイズを聞かせられます」と説明を受け、ポルノを見るなり暴力的なゲームをプレイするなりしたあと、そのボタンをどれくらい長く押すか(他者をどれくらい「攻撃」するか)を観察されるわ。

でも、「ノイズを出すボタンを長く押すこと」と、リアルな「攻撃性」ってだいぶ違うわよね。普通に考えても、「ノイズを長く聞かせる人は、リアルでも人に暴力をふるいやすいか、粗暴な言葉を発しやすい」と言えるかは怪しげに感じると思うわ。

実際、Ferguson and Smith, Miller-Stratton, Fritz, Heinrich(2008)は検証を行って、「ノイズブラストテストは、攻撃性を測る妥当な尺度とは認められない」という結論を出しているわ。

また、ポルノを見せることについても、人のリアルなポルノとの接し方は、「好きなポルノを選んで、好きな時間だけ見ながらマスターベーションして、すっきりして終わり」というものでしょう。でも、実験室研究では、特定の与えられたポルノを指定した時間だけ見せられ、マスターベーションもさせてもらえないことが多いわ。

そうなると、どんな結果が出ても、「リアルでは滅多にない状況での話」という制約がかかるわ。別途、そのテスト法の結果とリアルでの挙動が一致するかを確かめる検証が必要ね。

「実験室研究はすべて信用に値しない」という訳ではないわ。けれど、優れた実験デザインとそうでない実験との差がとても激しいのも事実。実験室研究系の論文は、社会統計データの扱いとは異なる点で注意が必要だと理解してちょうだい。


ポルノグラフィーの使用と性的攻撃性は関係するか?(Ferguson, 2022)

Ferguson and Hartley(2022)は、あらかじめ設定した基準を満たす59報の論文を対象に、メタアナリシスという手法使って、「ポルノと性的攻撃性」の関係を検証したわ。対象論文には、実験的研究、相関研究、集団レベルの研究の3種類が含まれていて、これらが同時に調べられているわ。

当該論文の結論としては、「ポルノグラフィーの使用と性的攻撃性に関係があるとは認められない」よ。

先に言っておくと、大量の「ポルノと性的攻撃性」の関係を調べた論文の中でも、これ以上のものは今のところ無いし、今後もあまり出てこないと思うわ。それくらい良い論文よ!

この論文よりさらに「ちゃんと」やってる例があるなら、ぜひTwitterのDMとかで教えてほしいのだわ。

さておき。

当該論文の結論の詳細およびそれに至る道筋を紹介するために、まず、メタアナリシスについて説明しておくわね。前説が長くて理解が大変かもしれないけど、ここが大事なのだわ。ちょっとゆっくり頑張ってね!

メタアナリシスというのは、総説論文と同じくそのジャンルのたくさんの論文をまとめたやつなんだけど、それらのデータを統合して統計解析にかけ、数値に基づいた結論を出す点で異なるわ(総説論文は、あくまでも言葉による説明よ)。

1つ1つの論文では、例えば「ある薬を飲むと病気Aが治るのか?」にしたって、大体、研究予算や人員の都合で、そんなに大規模な臨床試験(治験)が出来ない事が多いわ。よって、「かなり治る」「ちょっとは治る」「あまり治らなかった」「ぜんぜん駄目だった」と結果がばらついてしまう。

そこで登場するのがメタアナリシスよ! 1つ1つの論文ではデータ不足であったところをデータ統合して統計解析にかけ、「たしかにこの薬を飲むと病気Aが治るという仮説が支持される!」あるいは逆に「この薬は病気Aには効果があると積極的に支持できない!」って感じにより統計的に高精度な結論を導くのよ。

メタアナリシスが最強なのだわ! ――と思うところなんだけど。

ただし、注意すべきは、メタアナリシスの対象にする論文の選別。不公平なく網羅的でないといけないのは当然だけど、単純に調べる論文数が多いほど良いわけではないのだわ。

第一の注意点としてよく言われるのが「出版バイアス(Publication bias)」の影響の排除よ。論文というのは学術誌の審査を受けて採用されないと出版されないんだけど、「すごく相関があった!」という論文に比べて、「特にどの変数とも相関はなかった」という論文は採用されにくいわ。

特に社会科学・心理学は「〇〇効果」みたいな概念を提唱できてナンボみたいなところがあるし。出版されていないとメタアナリシスの対象には基本的に出来ないから、そのせいで結果が歪む。これを出版バイアスと呼ぶわ。

第二の注意点は、出版されていても「研究手法に問題があって信頼性の低い論文」もあることよ。そういうゴミみたいな論文のデータも対象に含めてしまうと、メタアナリシスの信頼性まで下がってしまうわ。特に心理学では2015年に「再現性の危機」を示す検証結果が報告されたこともあって、慎重にならなければらない所ね。

再現性危機(Replicability Crisis)や信頼性革命(Credibility Revolution)(Vazire, 2019)と呼ばれる心理学研究の全般的な見直しの中で、心理学の知見の再現性が必ずしも高くないことが明らかとなった。その契機の一つもまた超能力論文を巡るものであった。超能力論文を掲載したJPSP誌が追試を掲載しないという原則を根拠に、その追試を査読すらせずにリジェクトしたのである(French,2012;Ritchieetal.,2012;ただしGalaketal.,2012)。
これを一つの契機として心理学における追試軽視を批判する論争が生じ、古典的研究や主要誌掲載研究を追試するプロジェクトが始まった(Klein et al., 2014)。その結果は芳しいものではなかった。例えば心理学の主要3誌に掲載された97報を追試した結果、36%でしか統計的に有意にならなかったことは大きな衝撃を与えた(Open Science Collaboration,2015)。

平石界, 中村大輝(2021)

かといって、メタアナリシスを行う人が主観的に「対象に含める・対象に含めない」を決めたら、今度は「メタアナリシスの手法がご都合主義に陥っている」と言われてしまうわ。少なくともどういった基準で対象論文を選別したのかは明確にしなければならないわ。

その他色々注意点があるのだけど、Ferguson and Hartley(2022)は「その他色々」も含めて極めて慎重にメタアナリシスの解析計画を立てているわ。

その上、解析計画を「事前登録」までしているのよ。これはまだ珍しい取り組みだし、すごいことよ?――現時点で、「ポルノの悪影響」について事前登録までしたメタアナリシス論文はこの論文だけじゃないかしら。

事前登録制は「再現性の危機」への対処として近年始まったもので、研究をスタートさせる前に、「間違いなくあらかじめ申請した解析手法を用いる」「その解析手法で得られた結果がどうであろうと(私の内心上の仮説を支持しても否定しても)必ず発表・出版する」という約束をするものよ。

これは「解析結果が気に入らなかった時、データセットや解析手法をその都度変更して、都合のいい結果が出るまで粘る」「どうしても都合のいい結果が出なかったら、出版を取りやめる(お蔵入り)」をさせないための制度ね。

――はい。前説はここまでよ! ゆっくり頑張ったわね!

じゃあ、結果・結論を紹介しましょう。研究手法の詳細まで知りたい人は論文を読むのだわ。

あ、「ベストプラクティス」という一般には聞きなれない単語があるけど、これは「科学的かつ業界標準的な手法で行われたまともな研究」くらいの意味で思っておけばいいわ。

我々のメタアナリシスの結果、ポルノグラフィーの消費は、現実の性的攻撃行動の強い予測因子ではなく、また一貫した予測因子でもないという結論が導き出された。

また、Peter and Valkenburg(2016)と同様に、既存研究には重大な方法論の限界が認められ、「ポルノが公衆衛生へ与える影響について結論を出すためにこの研究分野の知見を利用できる」という確信はほとんど持てないのが現状だろう。

しかし、これらの問題は、比較的容易に修正できると考えられる。私たちは、標準化された評価方法の使用、妨害課題の使用、実験条件の慎重なマッチングなど、最先端と考えられる多くの手法を用いた。より慎重に設計された研究は、ポルノの効果を検出する可能性が低いという我々の結果は、こうしたベストプラクティス(模範)が重要だと示唆している。今後の研究では、これらのベストプラクティスを、以前よりもはるかに厳密に遵守することを強く推奨する。

また、この分野の研究は、現状のところほとんど事前登録されていない。社会科学研究全体で偽陽性が多いことを考えると、これはこの分野にとって大きな問題と言える。今後の研究では、データ収集の前に、仮説、測定法、分析計画を厳密に事前登録することを強く推奨する。ポルノグラフィーの効果を明らかにするためには、高度に厳密な事前登録された研究の蓄積が有効であると思われる。
(中略)
ポルノグラフィーの研究結果がなぜこれほど一貫していないのか、また、データと政治的領域における公的発表の間になぜこのような溝が存在するのかを考えることは価値があることである。我々の分析は、研究間の矛盾を説明する方法論的な問題を提示している。研究者のご都合主義的を減らすためのベストプラクティス(標準化され、十分に検証された尺度の使用など)や、参加者の仮説推測(妨害課題など)をより厳密に採用した場合、有意な効果を裏付ける可能性が低くなることが今回示されている。既存のデータには事前登録された研究はなかったが、事前登録された研究であれば、効果に対するより明確な証拠が得られるだろう。

著者らは今回のメタアナリシスを通して、「ポルノと性的攻撃性」という研究領域が、客観的な科学よりも、イデオロギーが優先されているのではないかという懸念を表明し、それを避けるために事前登録制やオープンサイエンスの活用が必要だと説くわ。

そして、ついでにフェミニストをシバいているわね。

 定量化できないが、収録された研究の物語を読むと、この領域では非常に喚起的で感情的な価値を持つものであることが示唆された。このため、研究者が語りたがる物語からデータを切り離すことが困難な場合が多く、特にこうした物語が道徳的な意図に沿ったものである場合はなおさらである。

特に社会的に保守的な政治家は、科学的な証拠を恣意的に用いて、明確な証拠がないにもかかわらず、ポルノを公衆衛生上の問題であると宣伝する。これは、ポルノが、一方では社会的保守派から見た性的価値観と、他方では一部の急進派やフェミニストから見た搾取や女性嫌悪に対する懸念と、どの程度重なり合っているかを考えれば、おそらく驚くべきことではないだろう。

ポルノグラフィーの研究は、このような社会的圧力から遮断されることで、客観性が大きく向上するというのが我々の見解である。事前登録やその他のオープンサイエンスの手法を広く採用することは、透明性のある客観性を達成するための一つの手段であり得る。結論として、現在蓄積されている実証研究は、ポルノグラフィーと性的攻撃性を結びつける信念を支持することができない。この結論は、より厳密で標準化された、事前登録された研究によって変わる可能性があるが、このテーマの道徳的価値を考えると、ポルノグラフィーの影響に関する議論は当面続くと思われる。ポルノグラフィーの因果関係については、厳密な研究が蓄積されるまで、学者たちはより慎重であるべきだろう。

仰る通りであり、私は深く賛同するわ。メタアナリシス論文としての質も最高峰として差し支えないでしょう。少なくとも「ポルノと性的攻撃性」に関して、これを超える論文はぶっちゃけそうは出てこないと思うわ。

ただし、この論文は「性的攻撃性」を行動尺度(あなたはAをするか? といった行動を見る調査)で測定していて、態度尺度(あなたはAという考え方をするか? という内心や思想に関わる調査)は測定していないわ。ちょっとだけ注意ね。

典型的に測定される態度尺度としては、「性差別主義的か?」みたいなことを確かめる質問票(アンケート)なんかがあるんだけど、おそらくこうした態度尺度は、行動尺度の質問票や測定法に比べると統率が取れておらず、メタアナリシスで統合することが難しいのだと考えられるわ。

態度尺度で調べた「性表現による悪影響」は研究手法も結果も今のところバラバラよ。ポルノの消費が人を性平等主義的にさせることを示唆した研究もあるわKohut and Baer, Watts, 2016)。


まとめ

それでは、今回の記事のお話をまとめておきましょう!

① 「性的表現が性犯罪を引き起こす」説は、社会統計上、積極的に支持されるという結論は得られない。
② 「ポルノが性暴力の代わりとなる代替効果」はノルウェーの研究では支持されなかったが(Bhuller et al., 2011)、ドイツの研究(Diegmann, 2019)からは支持された。
③  実験室研究、横断的研究、集団的研究の3つを統合した高度なメタアナリシスを行ったところ、「ポルノが性的攻撃性を高める」は支持されなかった。
④ 現状の社会科学・心理学は間違った結論を導いている可能性も高く、再現性の危機の問題もあるため、今後は事前登録制やオープンサイエンスが望まれる。

今回紹介した論文は、今後の「表現物の悪影響」一般に関する議論でもすごく「使える」と思うから、可能なら押さえておくといいのだわ!

なお、このnote記事へのリンクは、どこにでもバンバン貼りまくっていいわよ。むしろ、積極的にそうしてほしいくらい。Twitterで議論する時に使ってもらえたりすると嬉しいわね。ツイート文に@TeshimaKaireiもつけてくれると、私も見に行くかもしれないわ。

あとはお礼メッセージが表示されるだけのサポートエリアで、いつものように記事のスキ&シェア、Twitterのフォローをお願いしたいんだけど……。

あの、今回、検討の結果棄却した未使用の論文も含めて、資料代がアホみたいにかかってるから、わりと助けてほしいのだわ……。

次回以降の更新で、アメリカ心理学会の「少女の性化(Sexualization)」に関する公式声明も批判的に検討する予定なんだけど、お金が……お金が飛んでいく……。

ちょっと泣き言が入っちゃったわね。真面目に検証する側のコストが不公平に高い現象って何とかならないのかしら?

以下、お礼メッセージエリアよ! 余裕があったらよろしくね!

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