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斉藤章佳『「小児性愛」という病』の批判的検討~表現が性犯罪を誘発する?~

手嶋海嶺

ゆっくりしていってね!!!!

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とてもゆっくりしたフォロワーさんから、「次のツイートを批判的に検討してみては?」というご提案をいただいたわ。

表現規制派・表現悪影響派が「根拠」として引用することが多いデータがそのツイートに並べてあると伺ったの。
こちらのツイートね!

まず、「斎藤氏の研究」と言われているのは、『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(斉藤章佳, 2019)ね。

なんと、全国フェミニスト議員連盟のせの喜代氏も、自身のブログで根拠として提示していたそうよ!
その実物がこれね!

松戸警察千葉県警が交通安全に利用しようとしたへそ出し超ミニ激痩せ女児キャラの何が問題なんだと考える人が多いらしい。ぜひ、斉藤章佳著 「小児性愛」という病ーそれば、愛ではない を読んでほしい。
そして、世界の児童ポルノの7割以上が日本発であること、女子中高生を買春するオヤジが多く、国連から何度も勧告が出されていることも知ってほしい。
警察が採用した責任は大きい。
せの喜代『へそ出し女児キャラと「小児性愛」という病を考える』(visited 2021/11/15)

私がどれほど考えても分からなかった「へそ出し超ミニ激痩せ女児キャラ」(戸定梨香さん)の問題が、その本を読めば分かるのね!

もちろん、秒速で買って読んだわ。
この本が規制論の根拠としてあちこちで活用されているなら、規制反対派としては「対策」しなければならないもの!

……資料代がかかったから、今回は特にサポートしてくれると嬉しいのよ……。

と、それはともかく。

ツイートに話を戻すと、神崎ゆきさんの「根拠が無い」という主張に対し、反証する資料が本を含めて3つ提示されているわけね。

であれば、私もそれらをきちんと検討して、批判すべきは批判しましょう。記事としても「批判」のやり方としては一般的に役に立つ内容にするわ。(というか「役に立つ」ように頑張って書くわ!)

さあ、ゆっくりするわよ!!!

書籍「小児性愛という病」の問題点

いきなり申し訳ないんだけど、あの、この本は科学的研究の成果をまとめた本ではないわね。

そもそも科学的には書かれていないのよ。

実際、この本をいわゆる「科学論文」と同じ読み方で評価するなら、「うーん、リジェクト(掲載拒否)ね!」にしかならないわ。

いくつか本書から文章を取り出してみましょう。

 小児性愛障害と診断された者たちは、生まれながらにして子どもへの性的嗜好を持っていたわけではなく、社会のなかでそれぞれ動機を学習し、身につけ、強化していきます。児童ポルノはそのきっかけとなっている可能性がとても高いといえます。
斉藤章佳『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社, 2019).Kindle版

誰がいつやったどんな研究を根拠に、児童ポルノが小児性愛を生み出すきっかけとなっている可能性が「とても高い」と言えるの? どんな統計データを調査したの? どんな実験をやったの?
その主張を支える元の論文が本の中でまったく示されていないから、確認しようがないのよね。つまりいつもの「トレーサビリティがない」状態ね。こういう発言は科学ではないわ。残念だけど、せいぜい床屋政談のレベル。

著者さんは、漫画やアニメ、CGによる児童ポルノにも反対しているんだけど、その根拠らしき記述がこれよ。

 クリニックに通う小児性愛障害者らと接していると、彼らが実在する子どもと、そうでない架空の子どもとを明確に区別しながら児童ポルノを利用していたとは感じられません。
斉藤章佳『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社, 2019).Kindle版

いや……あなたが「感じられない」のはさすがに根拠とは……。知らないわよ……。

これ、私が「戸定梨香さんの動画を観たが、彼女が性犯罪を誘発するようには、とても感じられなかった。」って言ったら、その時点で少なくとも引き分けよ? だって、根拠と理屈のレベルが完全に一緒だもの。

こんな「考察」を平気で書いてしまうようでは、他の部分もたかが知れるというものだわ。

とはいえ、まだ続きがあるわ。

 日本ユニセフでは2008年に「なくそう! 子どもポルノ」キャンペーンを展開しました。その時にアイルランドのエセル・クエール教授が寄稿した報告書の訳文を、「被害者のいない子どもポルノ?」として現在も同団体のHPで読むことができます。

 子どもポルノをオンラインで見るということと、(実際の子どもへの)接触犯罪を犯すということとの正確な関係ははっきりしていません(中略)しかし、こうした画像を視聴することと犯罪を犯すこととの相互関係についての調査は、いろいろと試みられています。一例はアメリカのヘルナンデス氏による刑務所内の入所者に関する調査です。それによれば、実際に子どもポルノを受動的に視聴した人の76%が接触犯罪を犯していたというのです。研究の方法論にも違いがあり、調査結果も様々です。例えば、視聴した者の12%が実際の犯罪を犯すというものから、40%が犯すというもの、さらにはヘルナンデス研究におけるように、80%近くが画像を見るだけではあきたらずに子どもに対して接触犯罪を犯したというように幅のある調査結果が出ているのです。

 これは、たいへん重要な指摘です。
斉藤章佳『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社, 2019).Kindle版

少しはマシになったけど、『子どもポルノをオンラインで見るということと、(実際の子どもへの)接触犯罪を犯すということとの正確な関係ははっきりしていません』と冒頭からぶっこまれているわね。

その後、引用された教授さんはせめて印象だけも悪くしようと、「刑務所内の入所者」=「(児童加害や性犯罪に関わるかは別として)何らかの犯罪を犯した率100%の母集団」を使って何か言ってるけど、これ意味ないわよ。
「犯罪を犯すような人である」という強烈なバイアスがかかりっぱなしじゃない。

比較対照=児童ポルノを見てない人の場合について言及がないのも問題ね。ただこれは元の研究にはさすがにあったんだろうと思うけど。)

また、バイアスをさておくとしても、問題箇所を取り出すわね。

研究の方法論にも違いがあり、調査結果も様々です。例えば、視聴した者の12%が実際の犯罪を犯すというものから、40%が犯すというもの、さらにはヘルナンデス研究におけるように、80%近くが画像を見るだけではあきたらずに子どもに対して接触犯罪を犯したというように幅のある調査結果が出ているのです。
斉藤章佳『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社, 2019).Kindle版

研究の方法論に違いがあっても、要は「児童ポルノを視聴した人」と「実際の犯罪を起こした人」の割合という共通の軸では見ているよね。だったら、普通は12%から80%まで"超巨大な"ブレ幅が出る理由を考えるものよ。

とはいえ、その答えは実は簡単。
「児童ポルノの視聴経験」がほとんど関係ないからよ。

いい? 本当に「児童ポルノの視聴経験」が接触犯罪を犯す主な原因だとしたら、刑務所入所者でもそうでなくても、年齢が何歳でも、住んでいる地域(国)がどこでも、だいたい同じ結果が得られるはずよ。

例えば、「海に関する表現物(漫画でも小説でも映画でも)に触れた人」と「現実に水難事故に遭った人」の割合を、いろんな人が好きなやり方で調べてみたとしましょう。
カウントや割合計算には不正はないとするわ。ただし他の点、どこで調べるかとか、いつ調べるかとかは自由よ。研究の方法論に違いはあっていいってワケ。

……といっても、別に難しい問題ではないし、
さっさと答えを言うわね。

「海に関する表現物は危険だ!」と言うために、とても高い数値を出したいとしましょう。
だったら、とにかく水の近くで生活している人たちを対象に調査するのがいいわ。漁港のある街や、ビーチのある観光地とかが理想的ね。めっちゃ高い数値が出せるでしょう。
逆に、「海に関する表現物は安全だ!」と言いたいなら、水が近くにない(少なくとも生活圏内にない)内陸の人たちを対象に調査するのがいいわ。こっちはめっちゃ低い数値が出せるわ。
(※海に関する表現物に触れている人の数・割合は、場所によってそう変わらないとして。)

「海に関する表現物に触れること」は明らかに水難事故の原因ではないでしょう。でも、上のような調査を行えば、数値そのものは出る、出せてしまうってことが大事なのよ。もちろん主な原因といえるのは、どちらかというと生活圏内に泳げるくらいの水があるかだから、数値はバラッバラにブレまくるけどね。

本当に主な原因をしっかりつかまえていたら、他の要素を変えてもそう数値は動かないの(主な原因が複数ある場合は別よ)。
100年前でも1000年前でも、白人でも黒人でも、右利きでも左利きでも、水の近くで生活している人のほうが、そうではない人よりも水難事故に遭う確率は高いでしょうし、多少他の要素をいじっても値に大きな変動はないと予想されるわ。

つまり、調査結果の数値がバラバラにブレまくること自体が、主な原因を捉えられていないことを示しているのよ。

もう一度、問題の文章を見てみましょう。

研究の方法論にも違いがあり、調査結果も様々です。例えば、視聴した者の12%が実際の犯罪を犯すというものから、40%が犯すというもの、さらにはヘルナンデス研究におけるように、80%近くが画像を見るだけではあきたらずに子どもに対して接触犯罪を犯したというように幅のある調査結果が出ているのです。
斉藤章佳『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社, 2019).Kindle版

さて。ここから著者の斎藤さんは、「最小の12%でも問題だ!」という趣旨のことを言うんだけど、それは「12%」という数値に意味があった場合のハナシね。
「海に関する表現物に触れてる」と「水難事故に遭う」くらい関係なかったら、数値が何%であっても、「水難事故を避けるために、海に関する表現物に触れるべきではない」は導けないわ。

で、斎藤さんはこう続けるわ。

 児童ポルノは非常に衝撃的なものです。それとの接触により子どもへの性的嗜好という扉が開き、のめり込むと後戻りできなくなる。認知が歪んでいくと、実際に加害行為を「する」のと「しない」とのあいだにある溝はどんどん埋まっていく……そんなイメージが世界で共有されつつあるということではないでしょうか。
斉藤章佳『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社, 2019).Kindle版


……「イメージ」で物事を決めようとするのをやめなさい。

この本、別に取り上げた部分だけじゃなくて、全体的にこの調子なのだわ。大した根拠にはならないわね。現場の人の感覚を知るとか、そういう点では有意義かもしれないけど。

もし「いや、この本は素晴らしい! 手嶋海嶺が取り上げたのは批判しやすい部分だからだ!」と思う人がいたら、ここ読んで批判しろって箇所を具体的にあげてほしいわ。

こんな生ぬるい、弛みきった、科学的レベルで評価すれば隙だらけの文章を書く人は、たぶん有意義な知見は生み出せないと思うけど。(著者の精神保健福祉士としての手腕は別よ。そこの名誉まで傷つけるつもりはないわ。)

本は前記の通りちゃんと買って持ってるから、どこでも扱えるわよ?


児童に対する性暴力相談件数は増加?

ツイートに戻って、次の件を扱いましょう。

「また、性犯罪件数は日本は横ばい傾向だが、児童に対する性暴力相談件数は増加傾向」というお話だけど、これはシンプルに表現物とは関係ないわね。少なくとも、この統計データだけでは関係が分からない。「表現物による影響で犯行に及んだかどうか」を検討している調査じゃないし。

それはそれとして、一応データも見ましょう。

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「児童ポルノ事件」が増えてるんだけど、これ内容的には何かっていうと、スマホ普及による自撮りなのよね。2014年(平成26年)に改正児童買春・児童ポルノ禁止法が施行されて、実在児童のポルノ画像の単純所持が違法になったこともあり、「子どもに性的な自撮りを送らせて逮捕」された案件が激増したのよ。

だから、グラフで見られる増加は法律の変化によるもので、特段「忌まわしい表現が社会に蔓延した結果、それによる犯罪が増えた」ことを示してはいないわ。そんな意味ぜんぜんなし。

表現物がどうこうという話ではないのよ。
こうやって、データやグラフが意味するところを考えて、主題である「表現物との関わりがどうか?」をちゃんと検討しなくてはならないわ。

ちなみに、実在児童ポルノの規制、単純所持違法化には私も賛成よ!
実在児童は守らないとダメなのだわ!


女性蔑視については社会通念の影響が大?

次に「女性蔑視については社会通念(すなわち文化を含む)の影響が大とする調査がある」だけど、まあ読んでみましょう。

これまた残念だけど、「女性蔑視については社会通念の影響が大とする調査がある」ではないわ……。

正しくは、「女性蔑視については社会通念の影響が大と答えた人が多いアンケート調査がある」でしょう?

社会において男性が優遇されている原因について尋ねた。
各国とも「男女の役割分担についての社会通念・慣習・しきたりなどが根強いから」を挙げた者の割合が最も高い。性・年齢別にみると、アメリカ、スウェーデンでは30~40代の女性、ドイツでは40代の女性で割合が高い。
日本では、「仕事優先、企業中心の考え方が根強いから」を挙げた者の割合が、アメリカ、スウェーデンでは「育児、介護などを男女が共に担うための制度やサービスなどが整備されていないから」を挙げた者の割合がそれぞれ高くなっている。
ドイツでは「男女の平等について、男性の問題意識がうすいから」を挙げた者の割合も高い。
男女共同参画に関する4か国意識調査(日本、アメリカ、スウェーデン、ドイツ)(visited 2021/11/15)

アンケートで「これが原因じゃないか?」と答えた人が多いことは、それが真の原因であることを何ら保証しないわ。当たり前よね。


まとめ

――というわけで、ごめんなさいだけど、3つともぜんぜんダメ。

これは私が小児性愛擁護に走りがちとかじゃなくて、ただ普通にダメ。仮に3つの資料の主張が真逆で「小児性愛の表現物は、女性蔑視や性犯罪を助長しない」であったとしても、こんなレベルの根拠では戦えないわ。別の本を探すし、別の論文を探すでしょう。

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