「表現の自由」と名誉毀損:その脅威と脆弱性
ゆっくりしていってね!
さて。今回も例によって「表現の自由」のお話をさせて頂きましょう。
私のようなざっくり「表現の自由界隈」と呼ばれている人やゆっくりであっても、今のところ「名誉毀損罪を撤廃しよう」という話は出てないわ。私も別にそういう主張は持ってないし(あとは脅迫罪や詐欺罪なんかも同様に「表現の自由」を優先して撤廃しろとは主張していないわ)。
「表現の自由」の名のもとに、根拠もなく、あるいは何らかの根拠があっても、いきなり犯罪者呼ばわりされて、それを言いふらされるとかは嫌よね。お仕事の種類や資産状況によっては、この手の風説で人生が完全に詰んじゃうもの。
「名誉を守られる権利」は存在し、それと衝突した場合、「表現の自由」は制約しうると言う他ないのだわ。
私の書き方も悪くて一部に誤解があるようなのだけど、そのような場合、すなわち「名誉毀損を理由とした表現の制約」(名誉毀損でペナルティが課されること)は正当・妥当だと考えているわ。
ただ、名誉毀損に関する日本司法の設計と運用がまずくて、機能不全状態にあるというだけで……。
「著作権侵害」を例に考える人権侵害
私は前回のnoteで、訴訟リスクを中心とした切り口でお話させて頂いたわ。でも、「訴訟リスクがあるからやめましょう」という「まとめ方」は良くないのよ。
いや、単文としては内容的に間違っちゃいないんだけど……。(訴訟リスクがあるのは本当のことよ)
だけども、たとえば「海賊版コンテンツ(ゲーム、漫画、映画など)のダウンロード及びアップロードは『訴訟リスクがあるから』やめましょう」じゃないわよね。
まあ、そんなもん訴訟リスクが小さくたってやっちゃ駄目よ。著作権侵害も名誉毀損罪と同様に親告罪だし、親告されなきゃ罪にならないけど、これも別に「親告されない限りはやっても良いという意味」ではないわ。
権利者からすれば、初手の弁護士費用が出せなかったりするし、海賊版なんて数が多すぎてキリがないし、訴えても弁護士費用と労力を考えたらたいてい赤字だし、そもそも違法アップロードサイトとか反社会的勢力の仕事くせえから、海外にサーバーをおくとかそれなりの対策をしていて、かつ下手につつくと物理的な身の危険があるしで「(許してるから)親告しない」というより、「親告できない」だけよ。
特に同人作家なんて単なる個人であることが多いから、その作品は「ダウンロード」というほどの手間もなく、もはや普通にブラウザで見れるわよね。Google検索で「〇〇(同人誌のタイトル) 無料」と入れると、「何か」読めたりするわ。
じゃあ、特定の作品をアップロードする行為とブラウザでそれを読む行為、今のところ親告されてないし、訴訟リスクも「ただブラウザで読むだけ」なら極めて小さいとして、人権侵害に該当しない行為かしら?
いや、実在する人間の財産権などを侵害してる気がするわよね?
名誉毀損も同様で、原則として「やっちゃ駄目よ!」ってのが本来の前提なの。
機能不全状態にある名誉毀損
もちろん、「いいねを押しただけでも名誉毀損です」「どこからが名誉毀損に該当するかはぶっちゃけ運です。意外とセーフ、意外とアウト、両方あります」みたいな設計と運用がヤバイのは現実だから、「訴訟リスクを考えて」という観点も必要でしょう。
ここで、現状の名誉毀損罪等の何が具体的にヤバイかを説明するわね。
前提として、まず憲法31条ってのがあるのよ。これは法律の適正手続の保証をしたものと解されているわ。罪刑法定主義ってやつね。
そして、ここから「法律の文章は、普通の人が読んで、何をどこまでやったら違反になっちゃうのか分かるように書かないといけない」、あえてやや専門的に言うと「漠然不明確で、過度の広範性を持つ刑罰法規は無効である」という話が導かれるって設定にはなってるのよ。
じっさい、最高裁でも一応こういう一般論は語られているわ。
もちろん、最高裁ごときが何を言っていようが、実際には無視されているわ。たかが最高裁が物事を決められる訳ないじゃない。
試しに名誉毀損罪を規定した文章を読んでみましょうか。
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