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生涯投資家

【選読理由】
直前に、『ブラックストーンウェイ』を読み、世界的PEファンド創設者(スティーブシュワルツマン)の世界の見方を覗くことが、こんなに読書体験として面白いものかと気づき、その日本人バージョンということで、村上ファンドの村上世彰氏の自伝的本を読みたいと思い、メルカリにて購入。

【感想】
とても骨太な内容であった。
当初の予想を大きく上回る内容であった。
回顧録や自伝では、出来事が抽象的に描かれることが多い中で、各案件について、当時の意図ととも事細かに書かれていて、読み応えがあった。
ありきたりな感想になるが、村上氏の資本主義社会を見る眼鏡をかけられるのが、この本の醍醐味である。
投資家として生きてみたいと思わせてくれる本。

解説に池上彰氏を用いているのも、良い。
(余談だが、お二人の名前が似ているのも縁を感じる。)
とりわけ、解説のタイトル、『「コミュ障」の投資家の真意は』は絶妙であると感じた。
6ページの紙幅ではあるが、的確にこの本を客観的な立ち位置から評価してくれており、池上氏の凄さを感じた。

【印象に残った箇所】
12p
2000年代に入ってからITブームが来て、有形資産をもたないIT企業の株価が「成長性」をもとに高く評価されているが、私には理解できない世界だ。「売上が毎年倍になっていって」とか、「今は赤字だけど、十年後には一千億円の利益を出します」という事業計画を、精査するスキルが私にはない。だから、IT企業への投資を躊躇してきた。
私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものだ。

25p
私が投資する企業は、現預金をたくさん保有していたり、財務状況も良く、銀行からの借り入れ余力もあって、直接金融で資金を調達する必要のない企業がほとんどなので、上場している意味が見出せないからだ。

31p
企業の経営方針は、株主総会を通して株主が決めていくと法律が定めているにもかかわらず、実質的な意思決定の実態はあまりにも違いすぎると感じていた。

37p
政府としては、法律の整備などをいくら行っても、実際に活用する人がいない状態で、市場を動かすことができなかった。
コーポレートガバナンスを軸に置くプレイヤー、不在の中、私の研究は机上の九龍となっていた。私は官僚と言う立場から資本市場を変えることに限界を感じ、投資家として自らプレイヤーになって変えていくしかない、と思うようになった。

52p
私はこれまでの経験から、人をマネジメントしたり、日々の授業を運営することが苦手であることを自覚している。投資家と経営者は、全く違うのだ。

75p
経営者は、安定間のために手元に資金を確保確保したい気持ちが強い。それが純資産の過剰な増大につながるため、ROEは米国に比べて著しく低く推移している。コーポレートガバナンスを理解しない。古い経営者は、会社は自分の家計と勘違いしている。だから、借金を嫌い、現金に余裕があれば安心する。そんな余剰資金を循環させるために、ROEを重視するルールができたのだ。

261p
ライブドアの堀江貴文氏が私に言った「ニッポン放送の株式を5%以上買いたい」と言う趣旨の言葉がインサイダー情報に該当するとされ、その情報をもとに株の取引を行って利益を上げたと言う容疑で、私は逮捕されたのだった。

302p
“金の亡者"であるかのような印象が世間に広まった村上氏ですが、本書を読むと、まるで少年のような正義感を持った人物である姿が見えてきます

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