ロンドン

エスカレーターひとつにすら垣間見える日本社会の内向性

東京では左、大阪では右。

立つ場所は左右異なりますが、東京でも大阪でも、エスカレーターでは立ち止まる人はどちらか片側に立ち、急ぐ人はもう片側を歩くのが一般的になっています。ぼくが高校生の頃(80年代)にはまだそういう慣習は確立していなかったので、日本でこれが定着したのはまだここ30年以内のことです。

この慣習が始まったのは、東京メトロ千代田線の新御茶ノ水駅だと言われています。通勤途上のサラリーマンが多く使うにもかかわらず、駆け上がったり駆け下りたりしたくても階段がなく、距離も長い新御茶ノ水駅のエスカレーターが、いつのまにかこの慣習を生んだようです。ところが、現在では、このエスカレーターに駅長名で歩行禁止の注意書きが付けられています。


もちろん危険がないとは言いませんし、狭い幅の中荷物を持って歩くことでいらないトラブルが起きかねないことも理解はできます。けれども、公式にこれを禁止しようとすることには無理を感じます。事実、今日も新御茶ノ水駅の長いエスカレーターでは、左側に立ち止まる人が立ち、空けられた右側を急ぐ人が歩いています。何かのトラブルが起きた際に責任を取りたくないために、誰も守らないルールを掲げているようにすら見えます。

エスカレーターの片側を空けることは、日本だけの慣習ではありません。ヨーロッパでも、それはマナーとして確立しています。ロンドンの地下鉄では、“Stand on the right”という注意書きを至るところで見かけます。あちらの国では推奨していることが、日本では危険行為として(形式的には)禁止されているというわけです。

交通マナーでも、日本にはヨーロッパと際立った違いがあります。ヨーロッパの高速道路では、速い車が優先だからです。あちらでは、追い越しが終わると速やかに走行車線に戻るのが常識なのです。それどころか、たとえ追い越しの最中であったとしても、自分よりも速い車が近づいてくると、ブレーキを踏んででも走行車線に戻ることがマナーとなっています。対する日本では、あおり運転は大きな社会問題になっていますが、のんびり追い越し車線を走る車があおり運転を誘発している側面は問題視されていません。

もちろん一概にどちらが正しいと断じることはできません。ですが、エスカレーターのマナーであれ交通マナーであれ、こういった世界共通のテーマが議論されるときですら、日本で海外の事例がほとんど考慮に入れられることがないという事実は、日本社会の内向性を如実に示しているように思えます。なんでもかんでも海外のやり方を参考にする必要はないと思いますが、世界共通のテーマについてくらい、「あ、そういえば海外ってどうしてるのかな」と一考するくらいの社会にはなってもらいたいものです。

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