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#1 大切なつまずき

新しいマガジン「『つまずき』に学ぶ学校づくり」を始めます。

学校の先生にかぎらず、何かをするときにうまくいくことを願います。あえて失敗を求める人はいません。だから成功するための方法を知りたがるのはごく自然なことです。

書店の教育書コーナーの前に立つと、どれほど多くの人が手っ取り早く使える事例集やマニュアルを求めているか想像できます。確かに「短い打ち合わせは立って行う」「TODOリストを作って隙間時間を有効活用する」といった、特定の仕事の効率的なやり方や、ちょっとした工夫を学ぶ際には、こうしたマニュアル的発想は効果的です。

けれども、学校づくりや「地域と連携した教育活動の展開」のように、課題が複雑で長期になってくるると、成功から学べることよりも、「つまずき」から学べることの方がはるかに多くなっていくはずです。

イメージを用いて説明しましょう。

先行事例とは何か?

この図の成功者がたどったプロセスを道を進むことにたとえてみたものです。太線の部分が実際に前例がたどった道です。

左(到達点)から右(出発点)さかのぼることは単純です。道なりに進んで行けばむと自然に出発点に戻ります。成功事例とは、すでに左側の到達点にたった視点から自分がどの道をたどってきたかを説明することです。

それらは結果的に一定の成果を上げた経路なので、同じ道をたどりさえすれば同様の成果を得られるかのような響きを持って聞こえます。

けれども実際に右から左に進もうとすると、そこにはいくつもの判断に迷う分岐点に立たされることになります。そこで先達がどこでどう判断したかをマニュアル的に知りたいという欲求に駆られたとしても無理はないでしょう。

分岐が一つや二つの選択ですむ単純な問題であれば、この方法は通用するかもしれません。しかし、地形が変われば(学校の置かれた常態が異なれば)、とるべき道筋の判断基準は異なり、この方法はたちまち通用しなくなります。右・左・右・・・というようにフェーズに応じた先行事例の判断を繰り返したとしてもそれが同じような結果になるとはかぎらず、むしろ様々な可能性に盲目になるだけ危険です。

とすれば本当に必要なことは、岐路に立たされた人(先の図で点線の○の地点にいる人)が、何を考えて道を選択したらいいかを知っておくことです。このために欠かすことができないのが「つまずき」です。

けれども、巷に成功談は溢れていますが、失敗を語ろうとする人は希です。

さらに、図の点線の分岐の一番上のルートを選択すれば、一見逆向きに見えても長期的にはより早く遠くまで進めるように、先達よりも効果的な方途を発見する可能性もあります。

江戸時代後期の平戸藩主、松浦静山の言葉に「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」というものがあります。プロ野球の野村克也監督も愛用していた格言です。

あるやり方が成功したからといって、同じ道筋をたどって成功するとはかぎません。けれども、物事が失敗に至るからくりはかなりの精度で理論化できるものと私は考えています。

次回からは具体例を挙げて考えていきます。
もちろんこれらのつまずきは架空の話ではなく、実際に学校の先生に書いてもらったものです。お楽しみに。

*このマガジンは2019年度に教育公論社の雑誌『週間教育資料』で取り上げられた連載記事をウェブ用に一部表現修正し、出版社の許可を得て掲載するものです。(著作権は教育公論社にあります。無断転載はご遠慮ください。)