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半導体関連投資は世界規模の戦略的サプライチェーン再構築の一環

TSMCの熊本工場をはじめとして日本国内での半導体関連投資が盛んになっている。背景には、地政学的、戦略的要因、経済安全保障上の観点も大きいと考えられる。政府による半導体関連投資への支援は、経済安全保障推進法などに基づいている。「セキュリティ・クリアランス」制度導入に関する法案が成立すれば、更なる発展が期待できる。


国内での半導体関連投資が活性化


台湾積体電路製造(台湾セミコンダクターマニュファクチャリング、TSMC)の熊本工場が2月24日に開所式を開いた。その場で、TSMCが熊本県内で計画している第2工場についても政府が支援することが正式に表明された。米国のマイクロン、オランダのASMLホールディングス、韓国のサムスンなども日本での投資を進めている。
ラピダス、ローム、京セラなどの国内勢も半導体関連の投資を積極化している。TSMCの熊本第1工場の運営はJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)が担う。JASMはTSMCが過半を出資して熊本県に設立した子会社で、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソーが少数株主として参画した。さらに、トヨタ自動車も出資することになった。
米中激突の行方-概説-」(2024年2月8日)で示したように、米中覇権戦争が継続する限り、日本及び世界の政治経済への影響は長期に亘り、「デリスキング(de-risking)」よりも「デカップリング(decoupling)」の色合いが濃くなっていくと推測される。今や日常生活に欠かせず、戦略的にも重要物資である半導体は、デカップリングを前提にサプライチェーンの再構築が進められている。日本での半導体関連投資の積極化は、企業サイドの経済合理性のみならず、世界規模の戦略的サプライチェーン再構築の一環であり、持続性が高いと考えられる。
中露のランドパワー諸国を中心とした権威主義国家群vs.日米欧のシーパワー諸国を中心とした民主主義国家群の競合は21世紀半ばまでは続く可能性がある。競合の過程では、冷戦的な対立のみならず、ロシアによるウクライナ侵攻のように実際の戦闘が生じるリスクも考慮すべきである。具体的には我が国周辺では台湾、朝鮮半島のリスクが高いと考えられ、その両地域に半導体生産の大手企業が拠点を持っている現状は、民主主義国家群にとっては非常に危うい。具体的な地域名までは挙げていないが、政府の資料でも「地政学的な事情からグローバルなサプライチェーンが影響を受けるリスクが高まっている」としている(経済産業省ウエブサイト「情報化・情報産業」「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(特定半導体生産施設整備等関係)」「法律概要資料」より)。ここに来て日本での半導体関連投資が積極化している背景には、こうした地政学的、戦略的要因、経済安全保障上の観点も大きいであろう。戦略的要因によるサプライチェーン再編は、歴史上何度も生じてきた(「経済安全保障、サプライチェーン再編について歴史から探る」(2023年5月2日)も参照)。

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