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きるみーべびぃ / I's

あのちゃん(しっくりくるので愛称で呼ばせていただく)の動向といえば、ano名義でのシングル”F Wonderful World”や、バラバラフェスでの生演奏なども記憶に新しい。

それらの余韻も冷めやらぬ中、新たにあのちゃんによって結成されたバンド、I'sと、同時に公開されたMV、”きるみーべびぃ”。

筆者は一聴して心を奪われ、その理由を探るため、この”きるみーべびぃ”を拙いなりに分析し、考察と感想を展開していきたい。



じゅうであたまをうちぬいて
おおごえでさけんでみたい
えきのほーむとびこんで
こなごなにちってみたい

冒頭から打つけられる熾烈な自死衝動。

がなるような声は、まるで彼女自身の苦痛を吐露しているようだ。


ほめられたい
よしよしされたい
あいされていたい

そして自死衝動の根幹にあるのは、承認欲求や孤独感である。

報われない気持ちの中、知らず知らずのうちに、痛むこと、痛めつけることの対価という形でしか愛を求められなくなっているように感じる。


じろじろみてくるさるのむれ
ひとりでごはんもたべれないとか
あんたばか?

ここでいう”さる”とは、彼女に負のレッテルを貼り”異常”なものと見なすような人々、特に”陽キャ”などのことを指すのではないかと筆者は考える。

彼らは常に友人や恋人に囲われ、それに価値を見出し、”むれ”で生きる。”むれ”に属さない人々の心情を理解できず、時に見下す。場合によっては、他者と離れることを大いに恐れ、”ひとりでごはんもたべれない”。

そんな”さる”どもを、彼女が”あんたばか?”と切り捨てる様は、何とも美しく小気味良い。


いま ぼく どんなかお?!
いま ちみ どんなかお?!

衝動的に願望を吐きつつも、どこか冷めた目で俯瞰したがる自分もいる。

“ぼく”は客観的に見てどんな人間だろうか?美しい、醜い、正しい、間違っている、利己的、利他的?そしてこの目に映る“ちみ”は?

感情に支配された”ぼく”は、もう半分くらい何が見えているのかわからない。


まま まま まま
だっこ
まま まま まま
だっこ

“ぼく”は飢えている。”だっこ”をしてくれる”まま”のような、無条件に愛してくれる存在をいつまでも探し求めている。


きるみーべびぃ
おとなになれない
こどもにもなれない
ぼくのままで
やさしくつつんでくれよ

“おとなになれない こどもにもなれない”は、この曲きってのキラーフレーズ。大人ぶるのに引け目を感じるほどの稚拙な言葉しか出てこない一方で、子どもになるには色々知りすぎてしまった、何にもなりきれないやるせなさが伝わる。

このような心情は多くの人々にとって経験があるだろう。しかしこの歌詞は、他の誰でもなくあのちゃんの言葉だからこそ意味がある。幼気さと生々しさが同居するような衝動を宿した彼女が歌うからこそ成り立つ美しさ。

そしてさらに着目したいのは、”きるみーべびぃ”と自殺願望をちらつかせつつも、”ぼくのままで やさしくつつんでくれよ”と語りかけている点。ただうじうじと中途半端な自分を責めるだけではなく、”まま”の”だっこ”のような惜しみない愛が欲しい、と素直に口にしているのだ。

これには驚いた。これほどまでに率直なメッセージを伝えるあのちゃんの曲が今までにあっただろうか。


きるみーべびぃ ぜんぶ
やめちゃいたい
こわれちゃいたい
ぼくのままで
やさしくつつんでくれないかい

“ぜんぶ やめちゃいたい””こわれちゃいたい”といった強い負の感情が消えないまま、そんな自分も認めようとする。

そのままで愛されたいと願ってしまう。


きるみーべびぃ
きょうはきらめいていたい
おとなでもこどもでもない
きみのままでいてくれないか

“きょうは”きらめいていたい。きょう”くらい”は、と解釈してもいいだろうか。

一瞬の幸福。その中で少し”ぼく”自身を許し、さらにそれだけでなくそこで出会った”きみ”にも手を伸ばす。

ヘッダーはここのスクショです。かっわいい。


よわくなきさけぶこえを
ぼくが つつんで みせるから
ずっとそばにいて

弱々しい声しか出せずとも、なきさけぶ”きみ”を見つけてつつんでみせる。

この歌詞は、彼女がこれからも逃げずにファンと向き合う、という覚悟を宣言しているようにも聞こえた。

まっすぐこちらを見据え微笑むあのちゃんのかわいさと強さ、確かにここにやさしくつつまれた人間がひとりいますありがとうございます。ずっとそばにいて。ずっとそばにいさせて。


”きるみーべびぃ”は、あのちゃんの強みが最大限に活かされつつも、彼女の新たな布石となったといえる。

パンクな曲調、シャウト、転換して明るく開けたキャッチーなサビ、甘いマスクと二次元ボイス、真っ直ぐなメッセージ。これだけ色々しておいてMVはたったの2分弱。恐らく世間的に見ても強みしかない。

彼女のことは前の活動の頃から、否が応でも惹きつけられてしょうがなかったが、自ら音楽をつくり表現する道を選んだこと、好きなことに全力で打ち込む姿、その過程で意識せずとも受け取り手の需要にも応えてきたこと、鋭い感覚と美しい衝動性を表現することに長けていながら強さや温かさもますます増幅させ続けてきたこと、全てが本当にかっこいい。血が騒ぐ。

”きるみーべびぃ”はYouTubeにあげられたものでフルなのか、それとも一部なのか。ライブ会場で発売されるCDに入る他の曲は配信されるのか否か。I'sの今後の動向は気になるところだ。

バラエティ、女優、モデル、ソロアーティストano、さらにバンドI'sでの活動も加わり、より一層あのちゃんから目が離せない。