見出し画像

今一番会いたい人はインドの片目のおじさんなのだという話

あなたが今一番会いたい人は誰ですか?家族?恋人?それとも昔付き合っていたあの人?


僕は今、インドで出会った「片目のおじさん」に猛烈に会いたい。


もちろん家族にも会いたいし、仲のいい友達とも会いたい。会いたいをあげればキリがない。

でも、そんな人たちをさしおいて、旅になかなか出られない今、インドで出会った片目のおじさんに会いたい。


片目のおじさんとは、タイに近いインドの島で出会った

夫婦で世界一周中に、インドの「ハヴロック島」という場所に立ち寄った。ほぼタイに近いアンダマン諸島の一角をなす島で、アジアナンバーワンビーチに選ばれたことのある綺麗な海のある場所だ。


ハヴロック島へ行くために、僕たち夫婦はアンダマン諸島の玄関口である「ポートブレア」という街に降り立った。

ポートブレアからハヴロック島へ行くにはフェリーに乗るしかない。でも、聞いてみたところ、今日のフェリーはもう出てしまったあと。一泊すると思っていなかったので、ポートブレアでの宿はとってないし、明日のフェリーのチケットもとらなきゃいけない。

こんな時は街に出るにかぎる。僕たち夫婦はとにかく街の真ん中までタクシーで連れていってもらい、そこで作戦を立てることにした。

ところが、ポートブレアの街の真ん中は雑然としていて、カフェやレストランも見当たらない。ガンジーの大きな銅像が街の真ん中に立っていて、その周りを車やリキシャがブンブン走りまわっている。

画像1

僕たち夫婦はさすがに途方にくれた。

「まずは宿探しだ。とりあえず、リキシャに乗ろう。」

そう思い立って走っているリキシャに向かって手をあげる。日本のタクシーだとこれで停まってくれるけど、果たしてインドのリキシャはこれで停まるんだろうか?

完全にスルーされたので、もう少し強引に、走っているリキシャに声をかけてみるも、2台ほどスルーされる。そのあと、ようやく停まってくれたリキシャの運転手が「片目のおじさん」だった。

片目のおじさんは、片目がつぶれていて開かないので僕たちがそう呼んでいる。過去に何があったのかはわからない。


片目のおじさんはえらく驚いた顔をしている。英語が話せないようでなかなかコミュニケーションが成立しない。でも、このリキシャを逃したらまた途方にくれる。なんとか乗せてもらいたい一心で「ハヴロック、フェリー」を連呼する僕と妻。

片目のおじさんは戸惑いつつも、とりあえず乗せてくれて、どこかへ向けて走り出した。


片目のおじさんの向かう先

フェリー乗り場にでも連れて行ってくれるかなと思ったら、連れて行かれたのは2階だてのビル。周囲には何もなくて、なにやら怪しい雰囲気。


前に会った旅人から、インドでリキシャに乗って連れていかれた先の旅行社で、ぼったくりの値段をふっかけられて、そのツアーの参加申し込みをするまで旅行会社に監禁されたなんて話も聞いたことがある。

いよいよそれか?とBGMにドナドナを流しながら妻と話をしていたら、片目のおじさんがビルから出てきて僕たちをビルの中に招き入れた。

実際に入ってみると、そこはやっぱり旅行会社だった。2人の男性がパソコンの前に座っている。

「やっぱりドナドナか。いや、監禁はドナドナじゃないな」

なんて思っていたら、一人のイケメンが流暢な英語で話しかけてきた。

どうやら片目のおじさんは、僕たちがフェリーでハヴロック島に行きたいのだってことをちゃんと理解してくれてたみたいで、フェリーのチケットが取れて、英語で意思疎通もはかれるこの旅行会社に僕たちを連れてきてくれたらしい。とっても親切だ。そして、疑って本当にごめんなさい。


聞いてみると、やっぱり翌日のフェリーに乗ってハヴロックに行かなきゃいけないようだった。ただ、そのためにはアンダマン諸島に滞在するために必要な入域許可証の期限を延長する必要があるようで、役所に手続きにいかなきゃいけない。

役所が閉まるまで残り約1時間あるかないか。急がないと間に合わない。片目のおじさんの出番である。リキシャに乗って、役所に向かう。

片目のおじさんはとっても親切だ。旅行社とのやりとりで、事情を理解してくれていたため、役所のおじさんに現地の言葉でなんとか入域許可証の期限延長できるように話をつけてくれた。


役所では

「期限延長は必要ない」

というおじさんがいたり、

「期限延長は必要だけど、今日は無理だ」

っていうおじさんがいたりと、インドらしさ全開だったが、片目のおじさんの活躍もあって、期限はなんとか延長され、僕たちはハヴロック島に行けることになった。(実は期限は延長されてなくて、なんとかなるだろうで済まされたような気もするんだけど)

旅行会社で、今日の宿を確保してもらい、明日のフェリーのチケットもとってもらう。旅行会社のお兄さんも最高に良い人だった。監禁とか言ってごめんなさい。旅ではこういう反省をよくすることになる。それも面白い。


片目のおじさんのリキシャに乗って、とってもらった宿に向かう。片目のおじさんも僕たちに少し心を開いてくれたようで、英語は話せないのだけど、身振り手振りで街の様子を案内してくれた。言語が通じ合わなくても、楽しくて通じ合える時間は過ごせるものなんだ。


ポートブレアで頼れるのは、片目のおじさんだけだ。ホテルのフロント係の人は英語が話せたので、その人に通訳してもらい、明日の朝、フェリーの時間に合わせてリキシャで迎えに来てくれるよう約束した。


最後に、片目のおじさんが係の人に何かを伝えてくれるよう頼んでいる。

係の人は

「それは自分で伝えろよ」

みたいな雰囲気だったけど(なぜか、雰囲気で言いたいことがわかるってことが、海外では起きるのだ)、しぶしぶ内容を伝えてくれた。


「彼は明日の朝迎えにくる分と、ハヴロック島から帰ってきたあとの迎えも自分がすると言っています。その分を合わせて◯◯ルピー欲しいと言ってます。」


この時、いくらの金額を言い渡されたか忘れてしまったけれど、インドのリキシャの相場からすれば結構な額だったことは覚えてる。ただ、法外な値段でもない。嫌な気分はしないし、払おうと素直に思った。

片目のおじさんのモジモジした様子と、フロント係のあきれたような顔。今日の片目のおじさんの親切な姿、そんなことも込みこみでその値段が妥当に僕と妻には思えたから。

僕たちはOKであることをフロント係に伝えてもらった。フロント係はやっぱり少しあきれたような顔で、片目のおじさんに伝えると、おじさんははにかんだような笑顔で、ありがとうと言ってその日は帰っていった。


翌日、片目のおじさんは約束の時間より30分ほど早く迎えに来てくれて、僕たちをフェリー乗り場まで連れて行き、搭乗口まで案内してくれた。ハヴロック島には2泊3日の滞在予定だったので、次に帰ってくる日と時間を確認して、僕たちは片目のおじさんとお別れした。


ハヴロック島はとっても素敵な場所で、そこでも素敵な人との出会いがあったり、最高に美味しい魚カレーと出会ったりしたのだけど、それはまた別で書こうと思う。


ハヴロック島からフェリーで帰ってきたら、フェリーがついたところにはたくさんのリキシャの運転手がいて、客引きしていた。必死で、お客さんに声をかけるリキシャの運転手の中に、静かにたたずむ運転手がいる。


片目のおじさんだ。


片目のおじさんは、他の運転手とは違い、落ち着き払ってそこにいた。リキシャの運転手に声をかけられている僕たちに向かって手をあげると、僕にしつこく声をかけてくる運転手を追い払い、威風堂々リキシャに僕たちを案内してくれる。

リキシャの停車場に着くと、周りのリキシャの運転手に文句を言われてる。何やらリキシャを停めていた場所が悪くて、怒られていたみたいだ。でもおじさんは気にする様子もなく、僕たちを乗せて出発した。今日の片目のおじさんは余裕があって格好いい。

旅行会社に立ち寄ってもらい、約束していた飛行機のチケットを手に入れて、そのまま空港へ向かう。


空港に着いたら、約束の金額に少しのチップを含んだお金を渡して、最後に握手をして、片目のおじさんとお別れした。最後まで具体的に言葉を交わすことはなかったけれど、おじさんは笑顔で僕たちを見送ってくれた。すぐに立ち去らず、僕たちの姿が見えなくなるまでそこにいた。


なぜだろう、世界一周中いろんな人と一緒に写真を撮ったんだけど、片目のおじさんと撮った写真は1枚もない。でも、僕と妻は今でも、片目のおじさんはいまごろ何しているのかなって話をたまにする。

また会いに行きたい。今もぶんぶんポートブレアの街を走っているんだろうか。片目のおじさんは。


旅をすると、もう一度会いたい人ができる。次の旅の理由は、その人に会いにいくことかもしれない。だから私たちは旅をやめられない。


またいつか、コロナが終わったら、片目のおじさんに会いにポートブレアへ行こう。次はもう少し、ポートブレアの街を案内してもらいたい。そして、一緒に写真を撮ろう。

サポートしていただいたお金は、旅の資金に回し、世界のどこかであなたのことを勝手に想像してニヤニヤしたりなどします。嫌なときは言ってください。