カンボジアの島にいったら大事なあれがなかった話
カンボジアにも島がある。
あんまり印象にないかもしれないが、有名なのはロン島という島だ。
ただ、ロン島はパーティー島らしく、パリピのことを尊敬しつつも、パーティーでは誰と何を喋っていいかわからなくなり、ウェイウェイがどうしても恥ずかしいちっぽけな僕は、ロン島を第一候補から外した。
だけど、島はもう一つある。それが、ロンサレム島。こちらは、なかなか静かな島らしい。
シアヌークビルという街から、スピードボートで約40分。一緒に乗っていたのは、欧米人が何人か。
日本人の姿は見かけなかったので、やはりここは穴場なのかもしれない。期待が膨らむ。
ボートは先に、いくつかのホテルにつながる桟橋を経由していく。バックパッカーには縁のないリゾートホテルだ。
桟橋には、ホテルの人がお迎えにあがっていて、荷物を受け取ったあと穏やかな笑顔で宿泊客を案内していく。
いいんだ。僕は、この島の自然を満喫しに来たんだ。リゾートしにきたわけじゃない。
とはいえ、降りて行く人を見つめる目はそれなりに羨ましそうな眼差しだったと思う。
そう、あれは深夜のラーメン屋で大盛りを頼む痩せてるやつを見た時と同じ目だ。
スピードボートがようやく島の中心部に続く船着場についた。
当然、島の中心部の船着場には迎えの人なんて・・・
いるじゃないか!!!
めっちゃいる!島の若い衆が、船着場にたくさんいる。そして、船を降りる我々の荷物を運ぼうとしてくれているではないか。
結局リゾートも、中心部の安宿も待遇は一緒。見たか、リゾーター達よ。バックパッカーでも荷物は運んでもらえるのだ!
と鼻息荒くフンフンしていたら、我々の荷物が黒いゴミ袋に詰められていく。
確かに、リゾーターの持っているスーツケースに比べたら、僕たちのバックパックなんてゴミ同然かもしれないな。
いや、待て。誰のバックパックがゴミだ。こちとら、天下のグレゴリー様のバックパックだぞ、バカやろう。何してやがる。
ただ、これには事情があった。
よく見ると、船着場には大事なものが欠けていた。
船着場から陸へ続く橋がないのだ。陸までつながる部分の橋が崩落し、船着場の奥には、広大な海がひろがっていて、その末に陸へと続いている。
あとから宿にいた現地の少年に事情を聞くと、我々がくる前に島に台風がやってきて、橋が崩壊したらしい。
そこで、我々は船着場から陸地まで海の中を歩くように求められた。
船着場にいた若い衆が、ゴミ袋に入った我々のバックパックを頭の上にのせ、ジャブジャブと海の中を歩いていく。
そういうことか。
若い衆は、このために船着場にいて、もし荷物が海に落下しても簡単に水浸しにならないように、ゴミ袋に入れられたわけだ。
納得。
いや、納得じゃない!聞いてないよ!橋がないなんて。しかも、若い衆を見ている限り、海結構深くない?下半身ぜんぶ海に浸かってるんだけど、気のせい?
ただ、冷静に考えると僕はビーサン。履いている短パンも水陸両用のバギーパンツだ。これならなんとか海を渡れそうだ。助かった。
ただ、問題は一緒に乗っていた欧米人の男性だ。
彼の足元は、ドクターマーチンの真っ白なホールブーツだった。しかもスキニーのジーパンじゃないか。
ドクターマーチンはゴミ袋に入れられ、スキニーなのにジーパンをたくし上げて、海に突入する彼。
かわいそうに。
ただ、なぜ島に渡る際の靴と服装がドクターマーチンとジーパンというロッカースタイルだったのだろうか。
彼こそロックの権化なのだろうか。ある意味、内田裕也さんよりもロッケンロールだ。
そんな彼は楽しそうに笑っていた。たくし上げるのに限界のあるジーパンがびちょびちょになっても、例え白のドクターマーチンの入ったゴミ袋が海に落ちても。(実際に一回落ちた)
そして、荷物を運んでくれる若い衆に、しきりにサンキューと繰り返し言い続けていた。
この時、気づいた。
彼こそ、本物のロッケンロールだ。
そして、何より僕たちバックパッカーにはこの精神が必要なのだ。
突然のハプニングはおもいっきり楽しむ。荷物を運んでもらえることは当たり前じゃなくて、それにちゃんと感謝する。
あと、自分のスタイルはどこに行ったって崩しちゃいけない。島に行くにしても、足元は大好きなドクターマーチン。白のドクターマーチンはいつだって、格好いい。
海の中をざぶざぶ歩くのも、思いのほか楽しいものだ。ドクターマーチン(別名:内田裕也)と一緒に笑った。
ちなみに、上陸して2日ほど過ごしているうちに橋の工事が始まった。しかし、すぐには直らず、帰りもまた海の中をざぶざぶ歩いた。
帰りの船に乗る前、海を渡ろうとしている僕と妻の隣には、足を骨折してギブスを巻いた欧米人がいた。
彼は、海に入る前、ギブス周辺をゴミ袋でぐるぐる巻きにして、ざぶざぶと海の中に入っていった。
彼からは、怪我は旅を辞める理由には一切ならないことを学ばせてもらった。
彼もまた、海の中でザブザブと笑っていた。
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