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ハワイでマイタイ飲み放題のクルーズに乗ったら、蛇口からでる鉄の味がする水を飲みたくなった話

皆さんはマイタイというカクテルをご存知だろうか?

マイタイとはタヒチ語で「最高」といった意味をもつようで、かつてバージェロンという人が考案したこのラムベースのカクテルを、タヒチ人に飲ませたところ「Mai Tai Roa Ae!」(「この世のものとは思えない」という意味のタヒチ語)と言われたことからこの名前がついたらしい。

しかもこのマイタイ「トロピカルカクテルの女王」などと称されることもあるらしく、とにかく何やらファンキーで最高なカクテルであることは間違いない。ちなみにファンキーで最高な女王と言えば、広瀬香美さんも引けをとらないので、ぜひ広瀬香美さんの「ロマンスの神様」を聞きながら続きを読んで欲しい。


マイタイはトロピカルカクテル界の女王なので、すぐにトロピカルな雰囲気が最高に似合うハワイでも人気になった。今では冬になったら広瀬香美師匠(冬の女王)の歌を耳にするくらい自然な流れで、ハワイに行ったらマイタイを飲むことになっている。


さて、タヒチ人が「最高」と言わざるをえないこのカクテルが飲み放題な、マイタイカタマランクルーズなるものがハワイのオアフ島では日々催行されているらしい。これには、タヒチ人もびっくりだ。

今でこそ、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスが普及したおかげで香美師匠の歌も聞きたい放題ではあるが、やはり女王と称されるものを「放題」できるのは満足度が高い。


ちなみに僕はこのマイタイカタマランクルーズを、かつての職場の先輩から教えてもらった。そして、彼女の情報源は山下マヌー師匠である。

山下マヌー師匠とは、何やらヒゲが似合うナイスガイなおじさまだ。旅行作家・コラムニストを生業とする方で、海外渡航歴は350回を超える強者である。旅に関する本もたくさん出している、僕の憧れの人の中の一人である。特にハワイに関して書かれた様々な本は、ハワイ旅行の強い味方。他のハワイ本とは一線を画しており、どの本もハワイの魅力を最大限伝える仕上がりとなっている。


というわけで、そんな山下マヌー師匠の本を情報源にして、マイタイカタマランクルーズに向かうことになったわけだ。そんな道中、先輩から新たな情報が飛び込んできた。「山下マヌー師匠は、マイタイカタマランクルーズで、マイタイを5杯飲んだ」というものである。どうやら本にそんな記述があったらしい。

日頃は全然そんなことないのだが、僕はお酒に関して負けず嫌いだ。これは非常に良くない流れである。「マヌー師匠が5杯飲んだなら、僕は6杯飲んでやる」という意味不明な使命感に強くかられてしまった。


オアフ島で就航しているマイタイカタマランクルーズは、いくつか種類があるらしいのだが、今回我々が利用したのはシェラトン前から出航するマイタイカタマランクルーズだ。

シェラトン前のワイキキビーチ沿い、シェラトンボードウォークというところを歩いていると、チケットを購入できるブースがある。そちらで予約をいれると、集合時間を伝えられるので、その時間に集まれば船に乗ってマイタイを飲んでウハウハできてしまうといった算段になっている。


(ちなみに、場所はここ)


集合時間に乗り場へ行くと、すでに船が停まっていた。船は双胴船と呼ばれる、2 つの船体をくっつけたような船である。結構な人が乗船待ちをしている。


船が出航すると、いよいよ飲み放題の始まりだ。何よりテンションがあがるのが、この船には蛇口がついていて、それをひねるとマイタイがドバドバ出てくることだ。愛媛では蛇口をひねるとポンジュースが出てくるという都市伝説は聞いたことがあるが、さすがに蛇口をひねってアルコールが出てくるといった話は聞いたことがない。本来蛇口をひねって出てくるのは鉄の味がする水であり、小学生のころはそれをダイレクトにガブガブ飲んだ。同じことをアルコールでやってみたいという衝動にかられたが、さすがにそこはぐっとこらえようと思う。


1杯目はウエルカムシャンパンをもらうことにした。忘れてはいけない。僕たちはこのクルーズ中にマイタイを5杯以上飲むという使命がある。だが、1杯目からマイタイはなんか違う。せっかくシャンパンがあるならまずはシャンパンいくだろうという謎の先入観からシャンパンをもらってしまった。アルコールとなると負けず嫌いにも、欲張りにもなれる。酒に飲まれるとはこのことだ。飲む前から飲まれている。


船に乗っている人は様々で、カップルもいれば家族連れもいる。お父さんが蛇口から出てくるマイタイを美味そうに飲む姿はある意味、酒の英才教育ともいえる。だが、子どもたちが学校に行ってジャグジから出てくる液体を口にしたとき、それは鉄の味がする水であって、そのことに愕然として、逆に将来マイタイという飲み物を避けるようになってしまうという事態も危惧もする。ちなみに、船にはもちろんソフトドリンクもあるし、マイタイやシャンパン以外にもいくつかのカクテルが用意されていた。


船は航海を続け、すこしずつワイキキビーチの沖の方まで出ていく。波もおだやかだし、そこまで揺れることもないが、やはり船酔いでダウンする人も数名はいるようだ。僕は急いでシャンパンを飲み干して、マイタイへとうつる。綺麗な金髪のお姉さんが蛇口からマイタイを注いでくれる光景はなんともいえない不思議な感覚に僕をおとしいれる。


船から夕日とダイヤモンドヘッドの綺麗なコントラストが望めるようになってきたところで、マイタイは3杯目にさしかかろうとしていた。ダイヤモンドヘッドと夕日、なんともいえない絶景を沖から眺められる贅沢さ。これもクルーズの醍醐味である。しかし、もはや僕には景色を楽しんでいる余裕はない。揺れは少ないとはいえ、ここは船の上である。船の揺れが僕の酔いを順調に加速させていることを、そろそろ自覚せざるえない。


しかし、山下マヌー先輩は、どうやってこの船の上でマイタイを5杯たいらげたというのだろう?それから僕は何に挑んでいるのだろう?ギネスか?

そもそも負けず嫌いというのは、こんなところで発揮されるべきものではないだろう。もっと健全に使え。「ビジネス」とか「勉強」とか「ダイエット」とかで使え。「負けず嫌いを使ってはいけない場面ベスト3」があるとしたら、マイタイクルーズが食い込んでくることはまず間違いない。


負けず嫌いを使ってはいけない場面ベスト3

第1位 パチンコ

第2位 サウナ

第3位 マイタイカタマランクルーズ

で間違いない。そもそもなんだこのランキングは。


などと考えながら、マイタイを飲み干す。そして僕はここで最高のルールを思いついた。「1杯目のシャンパンもカウントしていいことにしよう」というルールである。名案としかいいようがない。どうせ同じアルコールである。体内にはいればマイタイもシャンパンも変わらない。

というわけで、僕はあと1杯マイタイを飲み干せばマヌー師匠に肩を並べられることとなった。勝てなくてもいい。大切なのは負けないことだ。蛇口から注がれるマイタイをもう1杯もらう。もはやこうなってくると鉄の味がする水が懐かしい。むしろ今は、鉄の味がしてもいいから水が飲みたい。でも、師匠に肩を並べるためにあと1杯マイタイを飲み干す必要がある。

クルーズ船はすでに沖を離れ、徐々に元いた浜辺に近づきつつある。オアフの風が気持ち良い。酔いを冷ましに、夜風にあたるってこういうことなんだと実感する。なんとかマイタイを飲み干したくらいのタイミングで船は砂浜に到着した。

船から降りて、一目散に向かった場所はシェラトンのトイレだった。


これが僕のマイタイカタマランクルーズの思い出である。本来であれば、景色はどんなであったとか、家族連れがどんな風にマイタイクルーズを楽しんでいたとか、ワイキキの夜風が気持ちよかったとか(それは一応書いたか)そういうことを書くべきだと思うのが、とにかくマイタイを飲み干すことに一生懸命になりすぎた覚えしかない。

お願いだから、みなさんはもっと冷静にマイタイカタマランでのワイキキクルーズを楽しんで欲しい。とはいえ、最後に一応書いておこうと思う。


僕はシャンパン1杯と、マイタイを4杯飲んだ。あなたは、何杯飲めますか?




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