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ヘッドスパに行ったらいびきが気になりすぎて眠れない (中編)

リラックスするのが苦手だ。

今はリラックスする時だ、と自分に言い聞かせると余計なことを考えてしまい、逆に覚醒することがよくある。

過去には、瞑想のレッスンに参加したはいいものの、英語が聞き取れず、リスニングテスト中の受験生くらい頭を回転させてしまったこともあった。


そして、今回のヘッドスパでも似たような現象が発生した。つくづくリラックスって難しい。



前回、美容院で大名気分を味わっていたら突然
「あなたは頭が固すぎる」
と初対面美容院アシスタントに、会社を変えたいと強く願う若手みたいなことを言われて、そのおかげでヘッドスパに行くことになった。


ネットで探して、一番雰囲気の良さそうなヘッドスパへ向かうことにした。

その名も「ムーラ・アダーラ」

検索する際の基準は「どれくらい癒されるか」だ。
ホームページを見て、すごく癒されそうだったので、ここにした。

かつて癒し系アイドルとして、一世を風靡した本上まなみもびっくりの癒し系だ。


いざお店へ。


お店に着くと、笑顔の女性スタッフが迎えてくれた。

素晴らしい。こんなクマみたいな風貌の男が、突然現れたのにも関わらず、この笑顔。普通なら、しかめっ面か、死んだふり顔のはず。

彼女は相当な癒し系だ。かつて癒し系アイドルと言われ一世を風靡した、優香もびっくりするくらい。


簡単なアンケートを記入し、個室に案内される。
いよいよ頭が柔らかくなるときがやってきた。これでボーッと生きてきた人生ともおさらばだ。矛盾。


説明を受けて、いよいよヘッドスパが始まる。説明によると、前半は先ほどの癒し系のスタッフさんによる施術で、後半はマシーンを使った施術になっているとのこと。

個室にはヒーリングミュージックのような音楽が流れ、いい香りが充満している。完璧なリラックス空間。照明も暗くなり、いよいよリラックスに向けて準備万端。


ただここで、一つ気になることが。


「もし、ここで寝たら、やっぱりいびきかくのかな」


いびきと書いたが、正式には寝言?いや、うなり声?
全く自覚はないが、寄せられた情報によると僕は寝ながら、唸る(うなる)らしい。


旅先の相部屋で寝ている人に
「大丈夫ですか?昨日うなされてましたよ」と言われた回数は、数知れず。

妻は、僕のうなりがひどいときは、隣の部屋に避難して、隣の部屋で寝る。隣の部屋には避難用の布団が用意されている。


それくらい、僕はうなるのだ。寝ながら「うーうー」言うらしい。

ちなみに、本人にはうなっている自覚はなく、嫌な夢を見ているわけでもない。ただただ、気持ちよく眠っているだけなのに。


そうなると、このままヘッドスパでリラックスし過ぎて、寝てしまった場合、僕はうなる可能性がある。

お客がうなり出したら、癒し系女王もさすがに笑顔ではいられないかも。


リラックスするための施術を全力で行った結果、うなりだす客。それこそ悪夢である。
悪夢を見ていない熊のうなり声によって、癒し系女王が今後悪夢にうなされる可能性がある。


一度思い浮かんだ心配事は、なかなか頭から離れない。目を閉じるとまぶたの裏に


「う・な・り」


の文字。


ま・ず・い。

念のためにいっておくと、癒し系女王のマッサージは、とんでもなく気持ち良かった。
頭がどんどんほぐれていく感覚がわかる。それにともなって、気持ちもどんどんリラックスしていくのがわかる。

深淵に沈んでいく、思考。日頃のモヤモヤが消えていく。

このままこの気持ちよさに身をゆだねたい。


でも、思考のどこかに「う・な・り」の三文字。


このまま寝たい。
寝られない。


相反する二つの気持ちが、頭と心を支配していく。
悪魔と天使ならぬ、うなりと安らぎ。

うなるのか、うならないのか、どっちなんだい!なぜか、中山きんにくんまで登場する始末。


つくづくリラックスが苦手である。


だが、ここで癒し系女王から朗報が届いた。

「それでは、今から機械を使ってほぐしていきますねー。機械がスパをしている間は、私は外にいますが、何かあればいつでも呼んでくださいね」

ビッグチャンス到来である。
癒し系女王がこの部屋を出て行けば、ひとりになれる。いや、決して癒し系女王が嫌なわけじゃない。むしろこのままずっと、ヘッドスパを続けて欲しい。

ただ、ひとりになればようやく、安心してうなれる。じゃなかった、寝られる。

これは好機だ。よし寝るぞ。と思ったところに悪魔の顔したうなりが、またしても心配事を思い浮かびあがらせてくる。。


続く



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