駐輪場の入り口から自転車じゃなく女性が出てきた話
先日道を歩いていると、地下駐輪場の入り口にさしかかったところで、サイレンがなった。
入り口にとりつけられたパトランプがオレンジ色にガンガン光りながら回転し、サイレンがけたたましくなっている。
きっと自転車が中から出てくるに違いない。そう思い、歩いているスピードを落とす。
しかし、一向に猛スピードの自転車は出てこない。もう、入り口付近まであと2、3歩である。
相変わらず、パトランプはクルクルと光を放ち、サイレンはけたたましくなっている。まるでそこだけ、エヴァンゲリオンの使徒でも襲来したかのような騒がしさである。
このまま通り過ぎていいものか、それとも待つべきか、逡巡しながら入り口を覗くと、そこには
歩行者がいた。女性が一人。
彼女が使徒なのだろうか?もしかすると、ターミネーターの敵くらい強いのかも?今から人類を滅ぼさんと颯爽と駐輪場から現れたのだろうか。
そんなことを考えてみたが、どう考えても普通のおばちゃんだった。
おばちゃんがゆっくりと駐輪場の入り口につながる坂を登ってくる。
僕は固唾を飲んでその姿を見守ったが3秒後に固唾を飲んでる場合じゃないと気づき、サイレンとパトランプを無視して歩き出した。
たぶん、歩行者がセンサーか何かに反応して、自転車がでてくることを告げるサイレンが鳴ったんだろう。
なんだかそんなことを体験して、「とってもいいなーこの世界線」と思ってしまった。
今からね、一人の女性がそちらに参ります。彼女は2人の子どもを育てながら、パートもしていてパート先ではとっても一生懸命に仕事をするからみんなから慕われる鈴木さんです。
そんな彼女は今日は少しお疲れだけど、二人の子どもが唐揚げを食べたいと言っていたのに買い忘れていたサラダ油を自転車に乗って買いにきたんです。
だから、皆さん彼女が出てくるのを少し待ってあげてください。そして、できればいつもお疲れ様と言ってあげてください。
と、パトランプとサイレンが周囲にお願いしているかのように感じたのだ。
一人の人のために、サイレントパトランプが発動する世界線。
色がオレンジで、サイレンがふわーふわーとやわらかく鳴るところもその雰囲気をさらに助長させる。
もちろん、その女性がどんな人生を歩んできて、どんな境遇で、今どんな境遇なのかはまったく知らないが。おそらく鈴木さんでもないだろう。
なんかそんなふうに誰かのためにサイレントパトランプが発動する世界線も悪くないなと思ってしまった。
そんなことを考えながら用事を済ませて、帰りにまたその駐輪場の前を通ると入り口から自転車が急に出てきてびっくりした。
サイレンとパトランプは鳴らなかったぞ。どういうことだ、ちゃんと大切な時にも鳴れ!と思った僕はまだまだ修行が足りないのだろう。
鈴木さんの自転車には小さい子どもを乗せるカゴが二つついているはずだ。
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