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会計士から見た事業計画の正しい運用

てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

前回、「なぜ事業計画は下振れするのか」で、世の中の事業計画にさんざん文句をつけました。

これに対して、次のような意見が出るのは当然。

「じゃあ、どうしたらいいんだよ。お前、分かってんなら言ってみろよ」

(こんなにガラの悪い人はnoteを見ていないと思いますが、皆様の心の声を代弁しました)

今回は、どうすればまともな事業計画ができるか、考えてみましょう。

「なんだ『まともな』だと? やんのか、ごらぁ」

(あくまでも皆様の心の中を代弁したものです)

経営的な観点と会計的な観点からまとめます。

経営的な観点からの留意点

事業計画を作る場合、会計以前に、経営上の必要性がある場合がほとんどです。
どうすれば、絵に描いた餅ではなく、経営に役立つ事業計画になるでしょうか?

ネガティブシナリオも準備し、とれる対策を考えておく

シナリオが一つだけだと、よこしまな思惑が混入しやすくなります。そのため、メインシナリオ、楽観シナリオ、悲観シナリオといった複数のケースで事業計画を作っている会社もあります。
特にネガティブな可能性を加味して、悲観シナリオも想定しておくことが望ましいと言えます。

悲観シナリオでは、今考えている施策だと目標を達成できないことが通常です。
目標達成のために打てる追加施策を事前に考えておくと、いざというときに機動的に動けるようになります。

計画に影響を与えうる事象の発生に敏感になる

不測の事態が必ず発生することは、前回の投稿に書いたとおりで避けられません。
そうであれば、予想外の事態が起こったときに、いかに早く情報をつかんで動けるか、が勝負になります。
経営者から現場の第一線まで、予測できなかった重要なことが起こっていないか、常にアンテナを張っておくことが重要。そこに引っかかった情報は本社や事業部の企画部門などに流します。

予実比較をていねいに行い、今後の重要な変動の端緒を早くつかむ

不測の事態が起こっているかどうかは、計数面からもウォッチが必要。
計画と実績の比較で差が出た場合、言い訳の作文に時間を使うよりも、その背景に何があり、これからどうなるのかを検討しましょう。

不測の事態に迅速に対応する

予想外の事態に気づいたり、予実比較で異常が検出されたら、このマイナスの影響に正面から向き合い、すぐに対策を打たないといけません。
「もう少し待てば好転するかも…」と希望的観測にすがりたくなりますが、好転しないかもしれないので、運に身を任せず、能動的に対応しましょう。

見込みが外れたときは、外した原因を分析する

監査法人は、会計上重要な見積りについて、以後の年度で実績と比較することが求められています。言わば答え合わせで、これを「バックテスト」と呼んでいます。英語で「Retrospective Review」と言う方がかっこいいですが、舌を噛みそうになるのでお勧めしません。

「監査人って、とことん嫌味なことするやつらだよなあ」

(皆様の心の声?)

まだいたんですね。
見積りの時点では正確かどうかは分からないので、後で実績と比較して、過去の見積りはあれでよかったかとか、見積りの精度に問題ないかを確かめています。

これと同じ手続は、会社にとっても有効です。
事業計画と実績に差が出ることは当然ですが、差の原因を分析して、今後のよりよい計画立案につなげます。

会計的な観点からの留意点

しっかりした事業計画ができていれば、会計的にもかなりの部分片付いたと言えます。会計基準によっては割引計算が必要になることもありますが、事業計画の論点から離れるのでここでの議論からは外します。

経営上検討した要素は見積りにも盛り込む

取締役会、経営会議、稟議書など、会社として正式に意思決定したものは、事業計画に盛り込まれている必要があります。そうでないと、二枚舌になってしまいます。
社内的には、部門が違うとか、立案時期が違うとか、事情がいろいろありますが、社外に向けては言い訳になりません。

複数の事業計画がある場合

いろいろな理由で、複数の事業計画が存在していることがあります。
例えば、正式な計画では、売上総利益までは部門別にあるが、損益計算書の販売費及び一般管理費以下は全社一本しかない。しかし、減損の兆候にある事業部門だけは別途作成した、といったケース。
その場合、両方が整合している必要があります。
先ほどと同様、社内的に整合しない理由はいろいろあるでしょうが、二枚舌になっていないようにしないといけません。

経営方針と会計処理とが一見食い違う場合

経営方針としては、ある事業部門はどんどん伸ばしていく。
しかし、会計基準にしたがい、その部門の固定資産を減損した。
十分にありえるケースです。問題ないのですが、IRでは理解されづらいため、ていねいに説明する必要があります。
リカバリーを目指して努力を続ける、そのための具体的な打ち手はこれこれ、しかし会計基準にのっとって会計処理を行った、といった説明になります。

おわりに

「そもそも、何で会計士に経営を教わらなあかんのや、こらっ」

(関西の皆様の心の声)

いったいどこの人なんですか。そろそろ終わりですよ。
会計士は会計や監査の専門家ですが、会計・監査のレンズで経営を見ています。「どうすれば、もうかるか」には弱いかもしれませんが、「どうすれば、うまくいかないか」については豊富な事例を見ています。

事業計画は、経営的な観点からも、会計的な観点からも、落とし穴がいろいろある、というお話でした。
皆さまのご参考になれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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