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米国PCAOB検査レポートは、ここを見る👀【監査ガチ勢向け】

アメリカの監査法人検査当局が初めて中国の監査を検査し、その結果が話題になりました。
今回のものを含め、アメリカの検査レポートは公表されているのですが、読むにはちょっとしたコツがあります。


てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

PCAOBは米国市場に上場する外国企業の監査も検査対象としています。日本をはじめ世界中の監査ファームも検査を受けてきました。
中国はこれを主権侵害として拒んできましたが、長年の交渉の結果ようやく検査が実現し、2023年5月10日にそのレポートが公表されました。

ただ、全編英語で記載されていることに加えて、指摘事項があちこちにちらばり見づらくなっています。
今回は検査レポートの中身ではなく、読み方を解説します。次の順番に見ていきます。

  • PCAOBって何者?

  • PCAOB検査レポートでの指摘事項の種類

  • 指摘事項は検査レポートのどこにある?

PCAOBって何者?

米国公開企業会計監視委員会(Public Company Accounting Oversight Board、略してPCAOB)は、米国上場会社の監査を監督するためにSOX法によって設立されました。いわゆるエンロン事件の落とし子の一つです。

公認会計士・監査審査会(CPAAOB)と似ていますが、以下のように違うところもあります。

国外のファームも検査対象

国外のファームであっても、米国上場企業の監査を担当していればPCAOBの検査対象です。

検査結果が公表される

検査レポートは、PCAOBのWebサイトで誰でも見ることができます。

検査の総合結論はない

PCAOBの検査レポートは、個々の指摘は記載されますが、総合的な結論はありません。

PCAOB検査レポートでの指摘事項の種類

検査レポートで見るべきは、検査結果としての指摘事項です。
PCAOBの指摘事項は、大きく4種類あります。

ⓐ 個別監査業務での監査不備

PCAOBも個別監査業務を抽出して検査対象とします。
レポートは公表しますので個社名は出さず、「Issuer A」「Issuer B」などと表示します。直訳すると「発行体A」ですが「A社」と読み替えてよいでしょう。

個別監査業務の監査不備は、個社ごとの深刻度に応じてさらに3つに分類されています。

  • 監査意見が誤りであった監査

  • 複数の不備があった監査

  • 不備が一つあった監査

従来、個別監査業務の監査不備は、米国内のファームのレポートでは詳細に記載され、米国外のファームは短く抽象的に記載されていました。
ところが2019年度の検査レポートから、米国外のファームであっても詳細に記載されるようになっています。

ⓑ 個別監査業務でのその他の指摘事項

「個別監査業務の検査の結果発見されたが、監査意見とは直接関連しない不備」と説明していますが、ちょっと分かりづらい分類です。監査委員会への報告や監査調書の登録などに関する指摘が含まれます。

2018年に米国内の大手法人から導入され、以後順次米国外のファームへと適用が拡大されています。

ⓒ 独立性に関する指摘事項

独立性も監査の重要論点ですので、検査でしっかりと見られます。
検査で発見されたものだけでなく、ファームが自ら発見しPCAOBに報告したものも記載されます。

2022年度の検査から記載対象になりました。

ⓓ 品質管理システムに関する指摘事項

ファーム全体の品質管理システムも重要な検査対象。
ただし、指摘を受けた年度では、検査レポートには記載されません。
一年の猶予が与えられ、その間に是正されなければ公表するぞ、というルールです。

指摘事項は検査レポートのどこにある?

この4種類の指摘事項は、検査レポートのどこを探せばよいのでしょうか?
目次に沿って見ていきましょう。

  • 202X Inspection
    ※検査年度により「2022 Inspection」などと表示されます。以下同様。

  • Overview of the 202X Inspection
    ※検査対象になった個別監査業務の数や、そのうち監査不備が見つかった数などをまとめた表があります。

  • Part I: Inspection Observations

    • Part I.A: Audits with Unsupported Opinions
      ⓐ 個別監査業務での監査不備」はここ

    • Part I.B: Other Instances of Non-Compliance with PCAOB Standards or Rules
      ⓑ 個別監査業務でのその他の指摘事項」はここ

    • Part 1.C: Independence
      ⓒ 独立性に関する指摘事項」はここ

  • Part II:Observations Related to Quality Control
      「ⓓ 品質管理システムに関する指摘事項」はここ(ただし、通常は指摘事項は記載されない)

  • Appendix A: Firm's Response to the Draft Inspection Report
    ※検査を受けたファームが「ご指摘を真摯に受け止め、品質改善に向けた不断の努力をいたします」と恭順の意を表しているレターです。

おわりに

PCAOBの検査レポートは、2004年にBig 4の米国ファームに対して初めて公表されてから、常に構成を変えて今に至っています。
現行のフォーマットは分かりやすくなったと思いますが、頭から読み始めると定型文言だけで力尽きることになりかねません。
今回の記事を参考に、効率的な調査に役立てていただけると幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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