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不祥事事案から企業風土改革を学ぶ

企業の不祥事が明るみに出るたびに、企業風土が問題になります。しかし風土なんてそう簡単に変えられるものではありません。この難題に、企業はどのように取り組んでいるのでしょうか。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

大きな不祥事の発覚を受けて実施される第三者委員会調査では、不祥事が起こった原因として「企業風土」「組織風土」「社風」「文化」「カルチャー」などの問題がよく挙げられます。
しかし原因として挙げてしまうと、解決策を出さないといけません。
企業風土の問題を解決することは、人の内面にかかわる問題であり、対象となる人数も多くなることから非常に難しいと言えます。

今回は次の3つの不祥事事案について、特に再発防止策を中心に第三者委員会の調査報告書や、それを受けての会社の対応について見ていきます。カッコ内は調査報告書の日付です。

規模が大きく、問題が広範囲または頻繁に発生し、しかも社内の関係者が多いと思われる事案を選びました。


東芝「不適切会計」事案

工事進行基準における原価過少見積り、経費計上の先送り、在庫評価損の過少計上、部品の「Buy-Sell取引」といった不正が発覚し、世間を驚かせました。

企業風土の問題

調査報告書では、経営陣が「チャレンジ」と称して従業員に無理な要求をした結果、不正が発生したと分析されています。
不正の直接的な原因の一つに「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」が挙げられています。

再発防止策

調査報告書では、会計処理ルールは上司の意向に沿わない結果となる場合でも遵守するべきことをすべての経営陣及び従業員に徹底すると書かれています。
しかし、徹底するために何をするのかについては記載がありません。

また、調査委員会を受けて発表された「当社の対応等について」(2015年7月29日)においても、ガバナンス改革が内容の中心で、企業風土については触れられていません。

同年年末に公表された「『新生東芝アクションプラン』の実施について」(2015年12月21日)では、「再発防止・企業風土変革の新たな取り組み」がリストされています。

「『新生東芝アクションプラン』の実施について」より

調査報告書に挙げられている問題については、「②企業風土改革」よりも「➀再発防止」の研修等を中心に対応されているようです。


みずほ銀行システム障害事案

過去の大規模システム障害への対策の一環として、新しい基幹システムMINORIを開発し、2019年に移行完了しています。
そのMINORIで障害が発生し、ATMが停止して顧客のカードや通帳が取り込まれるなど、顧客に影響するインシデントが4回発生。第三者委員会を立ち上げました。
なお、調査終了後もATM停止を含めた障害が立て続けに発生しています。

企業風土の問題

調査報告書では、調査の過程で次のような状況が観察されたとしています。

  • 自らの持ち場を超えた積極的・自発的な行動によって、問題を抑止・解決するという姿勢が弱い

  • 障害の内容・顧客への影響の全容が完全に明確でない時点において、リスクがあるものとして、発言し行動することを控える

また、金融庁が発出した業務改善命令のプレスリリース(2015年11月26日)の中では、障害を起こした真因の一つとして「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」を挙げ、企業風土を改めるよう強く求めています。

再発防止策

みずほ銀行は調査終了を待たず次の再発防止策を立案しています。

調査報告書より

これについて調査報告書ではいずれも「有効」と評価し、特に外部人材登用に大きな期待を寄せています。

みずほ銀行では四半期に一度、業務改善計画の進捗状況を発表しています。
その中で「企業風土の改革」は17項目に細分化され、すべて2022年9月までに実施済みとなっています。とはいえ、多くの項目がそれ以降も継続実施です。


三菱電機品質不正事案

他社での品質不正発覚を契機に2016年、17年に全社点検を行ったものの品質問題は発見されていません。

ところが2018年に子会社で品質不正が発覚。全社で再点検したところ多数の不正が発見されます。
さらにその後も新たな品質不正の発覚が続き、2021年7月に第三者委員会を設置。委員会による調査は2022年10月まで実施され、国内に22ある生産拠点のうち16か所で合計197件もの不正が発見されました。

企業風土の問題

調査期間中、不正は次々と見つかったこともあり、報告書は2021年10月(第1報)から2022年10月(第4報)まで4つ発行されています。

第1報から一貫して、組織風土が真因であると説明。
製造現場の従業員の帰属意識は会社ではなく製造拠点(製作所や工場)にあり、その小さい単位での内輪意識が製造部門と品質部門の間に軋轢が生じることをおそれることにつながったと分析しています。

再発防止策

三菱電機では再発防止策として2021年10月に品質風土改革、組織風土改革、ガバナンス改革を束ねた「3つの改革」を発表。以後、継続して進捗を報告しています。

三菱電機「当社が進める3つの改革の進捗について」(2023年4月14日)より

このうち、品質風土改革と組織風土改革の概要は以下のとおりです。

三菱電機「当社が進める3つの改革の進捗について」(2023年4月14日)より

進捗については、いずれも「計画通り」または「ほぼ計画通り」としています。

調査報告書の第3報、第4報では、このような取り組みの内容と進捗の評価も行っています。おおむね好意的で、見守る姿勢のようです。


おわりに

施策は進捗していても、実際に企業風土が改善されているのか、については外部からは見えませんが、おそらく内部でも判断が難しいものと思われます。
不祥事が発覚したときの危機感や改善への覚悟を忘れず、努力を継続しなければ「風土を変える」という困難な取り組みは失敗してしまうでしょう。

ほぼ公表情報の要約になってしまいましたが、皆さまが企業風土やその改善に関与されるときの参考になれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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