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初めて監査現場のリーダーになったら

てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

この投稿では、監査法人のスタッフの皆さんが対象です。
スタッフとして監査を始めて、4年目くらいから現場のリーダーを任されることがだんだん増えてきます。
入社2年目でも、1年生を引き連れて事業所往査に行くときは、リーダーを務めます。

以下では、あなたが初めて現場のリーダーを担当するとして進めます。

リーダーって何をする人?

本題に入る前に、「リーダー」って何でしょうか? リーダーの英語の意味は「リードする人」で、ほかの人をリードする立場になったらリーダーです。役職や肩書は関係ありません。
リーダーの役割はずばり、「チーム全体でより高い成果を出すこと」です。
これまでは、自分自身で任された仕事を指示どおりこなしていたところ、リーダーになるとチームメンバーの成果にも責任が発生します。

上司から見て、信頼できる現場のリーダーとは、突き詰めると次の二つだと思います。

  • チームの業務を期限までに仕上げてくれる人

  • 問題があったら相談に来てくれる人

そして、上司に「自分がいなくても、この人は大丈夫だな」と思わせることができれば、現場リーダーの卒業が近い、と言えます。

監査現場のリーダーの仕事

あなたは現場リーダーを初めて担当します。業務の幅は監査法人によって少しずつ違いはあるでしょうが、おおむね現場開始時、現場作業中、現場終了時の3つフェーズに分かれます。
それぞれ説明していきます。

現場開始時:業務分担の決定と留意事項の伝達

あなたは、チームを率いて、まとまった業務を終えることが求められます。まずは業務をチームメンバーに割り振ることが必要です。
各メンバーの経験年数、このクライアントでの経験、得意・不得意によって、分担を決めます。
チームへの貢献度と人材育成を考えると、「がんばれば、なんとかこなせる量と内容」が理想です。

業務分担でもう一つ重要なのは、あなた自身の割当をできるだけ少なくしておくことです。自分がメンバーの中で一番仕事が早くても、です。
あなたは現場のリーダーとして、さまざまな突発的な事態に対応することが求められます。クライアントから急ぎの相談が来たり、予定していた手続ができないことが分かったり、メンバーの体調が悪くなったり。
これらに対応できるように自分の分担は軽くし、後半で苦労しているメンバーから業務の一部を引き取ってあげるくらいが理想です。逆に、全員作業完了しているのに、自分の業務だけ山積みで、しかも中途半端で手伝ってもらえない、という状況が最悪です。

次に、各業務の留意事項をメンバーに伝えます。例えば、

  • クライアントの担当者

  • 前期と異なる点

  • 分かりづらい調書、論点

などです。伝える内容も、メンバーの経験などによって変わります。新人には一度に伝えても消化できないので、横について手取り足取り指示することが多いでしょう。
ちなみにクライアントの担当者については、名前や内線番号・座席位置だけでなく、「前回の監査でもめたので丁重に」とか、「午後の方が余裕がありそう」なども重要な情報です。

現場作業中:現場の環境整備、進捗確認と報告

各自作業を開始すると、あなたは自分の作業を進めながら、各メンバーが成果を出しやすい環境を整える必要があります。
クライアントの担当者を紹介する、困っていることがあれば相談に乗る、作業が止まっているようなら声をかける、など。
あなたがてんぱっていると相談しづらいので、焦っていても表情には出さず、平静を装えると理想的。水鳥が、すました顔をしながら水面下では必死に足を動かしているイメージです。

一日一回は、各メンバーの進捗を確認しましょう。
毎日決まった時間に全員で集まるか、個別に声をかけるかは一長一短があります。
全員でミーティングすると、誰かの報告にかぶせて、「その資料、使い終わったら回して」などメンバー間で連携することができます。
個別に話すと、なんでも話してもらいやすいことがメリット。
いずれにしても、てきぱきと短時間でやりましょう。

上司への報告もあなたの重要な仕事。
「何をどこまで報告・相談するか」はアートな世界で、上司によって期待が違います。初めて仕事をする上司には、細かめに報告して、感触をつかみましょう。
監査意見に影響するような重要案件や、監査が期日までに終わらないリスクについては、当然にどの上司でも報告が必要。また、少額の会計相談でも、今後金額が大きくなりそうなら相談する方が無難です。
このほか、クライアントともめそうな状況になった場合も、できるだけ早く報告。クライアントから上司に直接連絡が行ったときに、インプットできていないと火に油を注ぐことも。

現場終了時:チーム内の期日までに仕上げる

事前に上司と打ち合わせした内容を、期日までに完璧に仕上げられることはなかなかありません。それでも、すべての調書が80%以上の出来になっていて、「あとこれだけ終われば完成」という項目がリストされていることが理想です。
「80%の調書が仕上がっている」ではありません。どの調書の進捗も80%以上、ということです。
手つかずの業務があると、あとで何が出てくるか分からず、何時間かければ終わるかも分かりません。そうなると、監査の期限に間に合わなかったり、無理に間に合わそうとしてミスをすることになります。

おわりに(ちょっと長め)

上記のほか、現場開始前の往査準備、現場終了後の残務整理など、現場リーダーの業務は多岐にわたります。
ここまで読まれて「理想です」「理想的」という表現が目についたと思います。実際の現場では、少ない人数で無理しながら回していることも多いので、理想どおりにはいかないかもしれません。その中でも最大限の成果を出し、少しでも前期より改善するように、がんばっていただけるとうれしく思います。

人の上に立つ仕事をすると、これまでと視界が変わります。同じ経験は、あなたの上司の立場になったとき、さらにパートナーになったときにもすることになります。私は経験がないですが、監査法人のトップになったら、No. 2以下とは違う景色が見えているはずです。
この経験が、人を一段と成長させます。日々の業務はたいへんですが、ぜひリーダーの仕事を経験してください。

私が初めて現場のリーダーをしたとき、メンバー同士がときおりする私語がとても気になりました。「自分はリーダーとして認められていないのではないか、リーダー失格ではないか」と落ち込みました。
たまにする私語は現場の潤滑剤で、業務の妨げになっていなければ何の問題もないですが、肩に力が入りすぎていたようです。
そんな私でも、どうにかこうにかパートナーになりました。
皆さんのご健闘をお祈りしています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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