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【監査法人の海外駐在】赴任初期にぶつかった壁

監査法人から海外駐在に行ったとき、あまりに仕事ができずに打ちのめされました。こんな難しいことを、どうしてほかの駐在員は涼しい顔してできているんだろう。その疑問の答えは半年で分かることになります。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

前回のてりたまnoteでは、海外駐在の仕事の内容についてお話ししました。

今回は海外シリーズの第2弾として、海外に派遣されてすぐにぶつかった壁についてお話しします。



私が海外で担当した仕事

本題に入る前に、私が海外に赴任したときのことをお話ししましょう。

私が海外に赴任したのは、28歳、シニアスタッフのときでした。
担当したのはジャパンデスクです。監査などクライアントサービスの割当はありません。

対応するクライアントは日系ばかり30社程度、そのほかに営業先として30社程度あり、合計60社が私の担当でした。駐在員としては、かなり少ない方ですが、日本で担当していたクライアント数からは10倍くらいに増えています。

クライアントからの質問やクレームがあれば対応しますが、それ以外は自分で仕事を組み立てないといけません。
60社のうち優先度を決めて、定期的に日本人経営陣に会ってお話をします。そこで営業の機会やクレームの火種について情報を得ることもありますし、何もなくてもいざというときに連絡をいただける関係を構築することが仕事の大きな部分を占めていました。

ただ、初回訪問を除くと用事がないのに2回目のアポイントはなかなか取れません。
そこで、昼食か夕食をご一緒しながらお話しすることになります。

時期によっては、週の初めに予定表を確認すると、昼食と夕食の予定しか入っていない、と言うこともありました。
結局はクライアントから質問をいただいて回答を準備したり、クレームを受けて解決に向けて走り回ったり、とかなり夜遅くまで働いていました。
その日にならないと、忙しくなるのか暇なのか分からない、というのがちょっと困ったところです。


駐在初期に苦労したこと

日本でやっていた仕事とまったく違うため、困ることがたくさんありました。
そのうち、特に分厚い壁を感じたことを3つお話しします。

❶ 営業の仕方が分からない

最初に困ったのがどうやって営業をすればよいのか分からない、ということでした。

日本ではシニアスタッフとして、ほぼ監査のみで100%以上稼働していました。私は前職もなく、営業経験がありません。

海外で営業した話は、ここに書いています。

さわりをちょっとご紹介します。

駐在員の仕事に営業も含まれる、とぼんやりとは理解はしています。でも何から始めてよいか手も足も出ない状態。
日本にいる親に頼んで新人営業マン向けの本を3冊送ってもらい、それを読むところから始めました。

この中にも書きましたが、監査と違って「こうすればよい」という型がないのが営業のおもしろいところだと思います。

❷ クライアントからの質問への対応が分からない

赴任してすぐは、クライアントの質問にはほとんど答えられません。自分で調べるにしても、調べ方もよく分かりません。
誰に聞けばよいかもよく分からず、おろおろするだけで日が経ちます。

一週間寝かせてしまい、クライアントから電話。誰からの着信か分かった瞬間に「まずい、1mmも進んでいない」と後悔しても先に立たず。
「そろそろ、いかがでしょうか?」と聞かれても答えようがない。
「ではいつごろになりそうでしょう? 日本の本社から督促を受けていまして……」
申し訳ない気持ちいっぱいで「できるだけ早くします」と回答にならない回答をしてその場をしのぎます。

赴任後1か月もすると、誰に質問するのがよいかだんだん分かってきます。
そんな頃、クライアントから「こんな取引をすることになりそうなのですが、どんな税金がかかるのかざっくりでよいので教えてほしい」とのざっくりした質問に対し、法人所得税担当のマネジャーに問い合わせました。

数日して返ってきた答えは法人所得税についてのみ。
売上税や資産税は、それぞれの専門家に聞かないと分からないことを学びます。

クライアントからのざっくりした質問を切り分けて専門家に投げ、返ってきた答えから回答を組み立ててクライアントに提供することもジャパンデスクの仕事だったりします。

❸ クライアントと事務所の板ばさみになり、どうしてよいのか分からない

クライアントは日本的な発想で動き、事務所は現地の発想で動く。そのギャップを埋めるのもジャパンデスクの重要な仕事です。

例えば、税務調査の結果、追徴を受けた場合。
クライアントの立場に立てば、専門家に申告書作成をお願いしていたのに、どうして追徴が来るのか分からない。こんなの親会社に説明できない。
一方、事務所の専門家は、そんな取引があるなんてクライアントから聞いておらず、監査上も重要性がないので認識していなかった。
それを受けたクライアントの反論は、最近はどの会社も始めている取引なのだから、一言「御社では、こんな取引はありませんか?」と聞いてくれるのがプロではないのか……

どっちも言い分は分かるのですが、どうしてよいのか分からない。

ほかには、監査が期日どおりに終わらない、監査報酬の値上げで交渉がもつれる、なども板ばさみになりがちな案件です。
双方の気持ちが分かるだけに、間に入るとなかなかつらいところ。


新米駐在員も半年経てば…

赴任するまでは、シニアスタッフのくせに監査を征服した気になっている生意気盛りでした。
それが赴任していきなりこの3つの壁にぶつかり、「自分はこんなに仕事ができないやつだったんだ」と思い知らされます。

とにかく目の前の問題を解決しようともがいているうちに、半年も経つと経験済みの案件が増えてきます。
そうすると、「これは前の案件に似てるな。まずは誰と誰を巻き込もう。注意点はこことここ。解決まで1週間くらいか」とゴールまでの道筋を頭の中に鮮明に描けるようになります。

そうすると「あれ、俺って優秀なんじゃない?」と天狗になりはじめます。
ところが早晩、これまでの経験を上回るような難しい案件に直面し、「やっぱり、全然仕事できない」と突き落とされる。
そんな連続でした。


おわりに

最初は生活面でも慣れないことがあり、仕事もこうやってバタバタしているのでなかなかたいへんです。
でも地道にがんばっているうちに、気がついたら成長しています。

次回は、そんな海外駐在のメリット、それからデメリットをお話ししようと思っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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