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監査スタッフのための「経営者ディスカッション」入門

若手監査人にとっては未知の世界である「経営者ディスカッション」、その様子をちょっとのぞいてみましょう。


てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

監査で「経営者ディスカッション」と呼ばれる社長へのヒアリング。監査計画に必要な情報を社長から直接入手することが目的です。

シニアスタッフやスタッフの皆さんは、経営者ディスカッションに出席する機会はあまりないと思います。そこで、今回はその「さわり」をご紹介しましょう。

事前準備

経営者ディスカッションの日程をクライアントと調整する前に、質問したい項目を記載した「依頼書」で正式に申し入れることが通常です。
もう少しカジュアルなクライアントであれば、日程は先に押さえておいて、当日の何週間か前に依頼書を出すこともあるでしょう。

よくある質問の内容は…

  • 不正や不正が疑われる事実の有無

  • 不正リスク

  • 当期の業績の見通し

  • 中長期の経営方針

  • 個別のトピックス(買収した会社の運営方針、不採算事業の立て直し策と進捗など)

多くのクライアントでは、監査人依頼書を受けた経理部門が、社長のための「回答案」を作ります。
経理部門が社長の回答を誘導する、というよりは、特に数値面で監査人に誤った回答をしてしまわないように、という目的と理解しています。
監査人側としては、詳細な数値は普段から拝見しているので、むしろ社長の頭の中にあることをお聞きしたいのですが。

本番

経営者ディスカッション当日。
監査チームからの参加者は、パートナー全員とマネジャーで臨むケースが多いと思います。
クライアントからは、社長のほか、CFOや経理担当執行役員が同席することが通常。

いただいている時間は、ほとんどの場合1時間。
まずは、パートナーの筆頭格が口火を切ります。日ごろの監査への協力に感謝の言葉を述べるのが定番。
リラックスした雰囲気であれば、軽く世間話をすることもあります。

最初の質問は「当期の業績」「経営方針」など、答えやすいと思われるところから入ります。
ここから社長が自由に話し出して止まらなくなることが結構あります。しかも、経理が一生懸命作成した資料には目もくれず。
話が脱線することもしばしばですが、興味深かったり、勉強になるお話が多々あり、個人的には楽しい時間です。
しかし、ここで聞き入ってしまっては最初の質問だけで時間切れ。
よどみなく話される社長を止めることは簡単ではありません。なんとか短い息継ぎの間にすかさず割り込んで議題を進めることも、パートナーの重要な仕事です。

これとは逆に、ごくまれですが、とても寡黙な社長も。
次々と質問しても短く回答され、こちらが千本ノックを受けている感覚になります。

監査人からの報告

皆さんは「パートナーから社長に、『御社のここがダメだ!』とズバッと言わないの?」と思われたかもしれません。
経営者ディスカッションの枠の中で、監査人からの報告がある場合とない場合があります。
報告がある場合でも、問題点はすでにCFOまでには伝えていて、方向性も決着済み。経営者ディスカッションの場では問題に対する社長の意見を質問することが主になります。

もっとも、非常に深刻な問題、たとえば継続企業の前提を問うようなケースでは、経営者ディスカッションとは別に時間をとって、集中して議論します。

おわりに

「経営者ディスカッションでは緊張しますか?」とときどき聞かれますが、そこは会社の長たる社長のこと、物腰柔らかに、場を和ませることが上手な方がほとんどでした。

巨大なグローバル企業から従業員数名の会社まで、たくさんの社長とお話しできるところも、監査の醍醐味の一つです。

ほんの「さわり」だけでしたが、経営者ディスカッションの雰囲気をイメージしていただければ幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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