見出し画像

日米企業の子会社ガバナンスの違い

日本企業とアメリカ企業の子会社ガバナンスへの考え方の違いがぶつかる現場に立ち会ったことがあります。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

今回は、子会社へのガバナンスの効かせ方が日本の会社とアメリカの会社とで違うことを痛感したお話をします。



日米企業の合弁会社

日本の会社(J社)とアメリカの会社(US社)が合弁会社を設立し、日本国内の一部の事業を統合することになりました。
J社は日本、US社はアメリカでそれぞれ上場している独立した会社で、合弁会社設立までは相互に資本関係も取引もありません。

合弁会社の経営陣は両方の出身者がミックスされています。
US社が議決権の過半数を持っているのですが、事業自体はJ社の方が大きい、という微妙な力関係。
ちなみに、US社サイドの人たちは、もともと日本で雇われて日本の子会社で働いていましたので、言語の問題はありません。

経営統合したもののなかなか融合しないケースは珍しくありません。互いに反目しあうことも。
そもそも歴史が異なる二つの組織が一つになることはたいへんなことです。
この合弁会社も例外ではありませんでした。

私は合弁会社の監査を担当することになりました。
J社サイド、US社サイドの両方が出席するミーティングに参加すると、双方対立を隠さず、緊迫した空気が流れています。


双方の言い分

監査人は「社内事情に詳しい外部の人間」という特殊な立場にあるためか、クライアントの方々の愚痴を聞くことがよくあります。(誰にでも愚痴ってる可能性もありますがw)
この合弁会社でも、両方から不満を聞くことになりました。

J社から来られた方は、こうおっしゃっています。

US社の連中と一緒に仕事をすると、びっくりすることばっかりですよ。やたら細かいルールがあるんですが、ルールがないところはめちゃくちゃいい加減なんです。

一方、US社の方からはこんな話をよく聞きました。

J社のやり方を聞いてびっくりしたんです。規程類が大ざっぱで、すぐに現場で使えるような手順書がぜんぜんないんですよ。現場の人たちと話すと細かい手順がたくさんあって、文書化もされていないのに自分たちのやり方にこだわるんです。

気がついたら私は難しい立ち位置にいました。
愚痴に迎合すると「監査人も同じ意見」と変に伝わるかもしれない。かと言って同意しないと「お前はあっちの味方なのか!」と関係が悪くなりそう。
「そうなんですか、うん、うん」とひたすら中立的な聞き役に徹していました。


日米の子会社ガバナンスの違い

この合弁会社での出来事と、ほかの会社で経験したことから、日本企業とアメリカ企業の子会社ガバナンスはずいぶん違うなと感じました。

センターライン方式とガードレール方式

この合弁会社とは別件ですが、ある日本企業が海外子会社の経営を現地化することになりました。たちまち現地社長が困ったのが、どこまでを親会社に相談しないといけないのか、ということです。
決裁権限規程はあり、親会社が決裁するべき金額基準が定められています。しかしそれを真に受けて決裁権限の中で自由にやろうとすると、親会社から勝手なことをするなと言われることがあります。

親会社で育った人にとっては、何を相談しないといけないかだいたい分かります。場合によっては、組織図上は関係ないはずの○○さんにも根回ししておかないといけない、といったことも。

日本企業では道路にセンターラインが引いてあり、できるだけそれに近いところで進むことを期待されているように感じます。
その会社に入ったばかりの人、特に外国の人にとっては、どこにセンターラインがあるのかよく分からず、またセンターラインからどれだけ離れたらダメなのかも分からないので当惑してしまいます。

これに対してアメリカの会社はルールが明確で、その範囲内であればとやかく言われないようです。ガードレールに接触しなければOKの、いわば「ガードレール方式」。

ボトムアップとトップダウン

2か月ほど前の記事でも書いたのですが、アメリカで内部統制のヒアリングをする際に「トップダウン・アプローチ」というものがあり、日本の監査法人でも導入しようと言うことになりました。
上席者から先に話を聞く方が、全体が分かって効率的だというわけです。
今から30年前の話です。

ところがクライアントの上席者に話を聞いても、まったく要領を得ない。部下がどんな内部統制をやっているのかよく知らないことが多く、知っていても知識が古かったりします。

日本企業では、ミスが起こらないように現場の人たちが工夫していて、それが内部統制になっている。
その内部統制はどこかに規定されているものではなく、現場でデザインされ、運用され、担当者が変わると引き継がれています。

子会社管理にもこの精神が生きていて、「自主独立」という方針を掲げる日本企業がたくさんありました。
親会社に頼らず自力で何とかしろ、ということです。

一方、アメリカの会社は親会社が詳細なルールを決めて、全世界の子会社で遵守されるというトップダウンが一般的です。
親会社から送られてきた規程類で壁一面の書棚が埋まるような会社もあると聞いています。

さすがはSOXを生み出した国。程度の差はあれ、もともと内部統制の文書化はされていたんですね。
SOX導入前から、内部監査では親会社が決めたルールへの準拠性をチェックすることが中心に行われてきました。

それに対して日本では、子会社の内部監査をはじめたものの、どんな手続を実施すればよいか分からず、とりあえず往査してやみくもにヒアリングするという会社もありました。

内部統制への影響

センターライン方式かガードレール方式か、ボトムアップかトップダウンか、このような違いから、子会社の内部統制に次のような差が生じています。

  • 内部統制のデザイン
    日本:子会社が主体
    アメリカ:中央集権的

  • 内部統制の文書化(特にSOX/J-SOX導入前)
    日本:文書化されていない手続や内部統制が多い
    アメリカ:詳細な手続・内部統制が文書化されている

  • 内部監査の位置づけ(特にSOX/J-SOX導入前)
    日本:???
    アメリカ:詳細に定められたルールへの準拠性チェック


おわりに

ここでは「日本の会社」「アメリカの会社」と乱暴にくくりましたが、それぞれの国の中で相当なばらつきがあります。
また、私の経験にも限りがありますので、偏りがあるかもしれません。

もし「ちょっと違うな」と思われることがあれば、皆さんのご経験も教えていただけるとたいへん助かります。

ちなみに「ガードレール」の例えは、私の尊敬する原田篤史さんのnoteからの受け売りです。

ここでは対になる概念として「線路型」を挙げておられます。融通が利かず、少しの逸脱も許されないと言うことです。
子会社管理については、取り得る選択肢に多少の幅はあるという意味で「センターライン方式」と呼ぶことにしました。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?