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ああ、いとしのパリジェンヌ!  



 一目見た瞬間に、キミとわかる。それは僕がキミに恋をしているからに他ならない。否、僕はキミを見た瞬間から、それがどんなときであっても、恋に落ちてしまうのだ。
 初対面のキミに愛を叫ぶ僕を、どうか嫌わないでくれ。
 くるりと丹念に巻かれた金糸は、群衆の中にいて、彼女の存在をひどく甘くわたしに知らしめる。キミの魅力に驚いた振り返った僕を、キミはおかしそうに笑っていた。
 飾らない、キミの微笑み。化粧も豪華なドレスもないキミは、草原に咲く秋桜のような笑みを僕に向けた。
 嗚呼、なんと美しいことか。
 嗚呼、なんと甘やかなことか。
 美しい街娘。気位が高い、甘えん坊の子猫のようなキミ。
 ふいに手を伸ばせば、穢れを知らぬ白いワンピースが指の先をくすぐった。着飾った貴婦人とは違った、キミの素顔が見える横顔も、僕の微笑みを深くするとキミは気づいているだろうか。
 選んでもいいかい? 
 キミに愛されたいんだ。
 使い古されたような僕の愛の告白を、ああ、愛しのパリジェンヌ。どうか受け入れておくれ。
 つぶらな瞳できらきらと見つめてくるキミを、僕のものにする権利をどうか……!
 瞼にキスをするような、祈りに似た憧憬をキミに送れば、無地のシルクに包まれて、はにかみながらキミは僕の腕に納まる。
 往来でキスはしないよ。恥ずかしがり屋なキミには、暖かな部屋でそっと髪に触れるだけのキスから始めたいから。
 弾む心を抑えながら、僕はキミをやさしくエスコートする。
 ご機嫌なキミはすっかりくつろいだ様子で、僕が差し出したソファに座った。
 ふわふわと櫛毛づられた金髪をひとすくい。従順なブロンドはまるで僕に口づけられるその瞬間を待ち望んでいるかのよう!
 悪戯なキミは、ときどき僕を驚かせようと、その見事なブロンドをハシバミに染めてしまうことがあるね。そんなキミもとても愛しい。
 わがままなカールを厭う日に、まっすぐにしてみたり、それでもあまり似合わないことにがっかりしながら手入れをしたり。色艶ひとつひとつを気にしながら丁寧に巻くキミの苦労を、僕はみているだけしかできないけれど、これだけは覚えていてほしいんだ。
 僕はキミのその髪を、とてもとても愛しているんだってことを。
 心ゆくまで金糸にキスをして、もちろん、隠れる柔肌を堪能することも忘れない。陽を知らぬ白磁のうなじ。暖かに育てられた証のような肌。弾力のある、けれどきめ細やかなキミの頬。すべてが愛おしい。
 余すところなくすべてを奪いつくした僕を、困ったように誘う唇。
 まだ残っているでしょう?
 私のすべてを、愛してくれなきゃ、いや。
 魅惑の沈黙を伴って、僕の目を奪うつややかな果実。甘いグロスを引いた最後の砦に口づければ、恥じらうキミはすぐに身を引いてしまうけれど、ふっくらとしたキミのそれを口に含むと、僕がどれほどの歓喜を覚えるか、キミは果たして知らないだろう。
 嗚呼、なんと美しいことか。
 嗚呼、なんと甘やかなことか。
 何にも優る幸福、そして愉悦。
 優越感にも似たそれは、かの皇帝ナポレオンにも得がたい栄誉。
 キミを心から愛した、僕だけに許された栄誉…!
「あんた、またお小遣いでケーキなんか買ってきて!」
 最後の恋になろうとも、キミを愛せるならば僕はほかに何もいらない。



ケーキシリーズ、こちらは「モンブラン」です。
お分かりいただけましたでしょうか?

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