働くと子育てが共存する、ゆるやかな場をつくりたい。お寺で育った娘たちが思うこと
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働くと子育てが共存する、ゆるやかな場をつくりたい。お寺で育った娘たちが思うこと

TERA WORK
TERA WORKに参画している、立雲寺(北海道室蘭市)と養法寺(和歌山県和歌山市)を実家に持つ、林 理永さんと長谷川萌子さん。お寺で生まれ育ったふたりは、現在それぞれのプロジェクトに邁進しています。

偶然にも、共通して“場作り”をライフワークにする背景には、子育てと仕事の両立で直面した壁と、「お寺で生まれ育った環境が関わっている」と話します。おふたりの活動やこれまでの歩みとともに、お寺に対して思うことを伺いました。

始まりは、仕事と子育ての両立という壁

林さんは、2018年から母と子どもを中心とした新しいコミュニティと環境づくりを実験・検証する「HAHA PROJECT(ハハプロジェクト)」を主宰。2020年の春頃まではリアルな場での取り組みでしたが、現在はお母さんたちがさまざまな思いや悩みをチャットで相談し合える、オンラインコミュニティとして形を変え、運営しています。

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立雲寺の長女・林 理永さん

林さんが「HAHA PROJECT」を立ち上げた背景には、子育てに対する苦悩がありました。学生時代からフリーの編集者・ライターとして活動していましたが、第一子の誕生をきっかけに壁に直面することになりました。

「当時、周囲のママたちは、育児と仕事をうまく両立しているように見えて、『私も多分できる』と漠然とした自信がありました。加えて、仕事と子育ての両立に翻弄される従来のワーキングマザー像への反骨精神もあって、子どもを保育園に預けずに、仕事をしながら子育てしてみようとしました」(林さん)

ところが、この試みは容易ではありませんでした。

「フリーでの仕事と子育て、まったく両立できなかったんです(笑)。夫婦とも実家は地方で頼る先もないし、これはまずいなと。この悩みを色んな方々にシェアすると、多くの母親たちがフルタイムか時短、もしくは専業主婦など、少ない選択肢の中に無理やり自分の生き方や働き方を当てはめているんじゃないかと感じました」(林さん)

誰しも直面する家族とキャリア形成との板挟み。和歌山県和歌山市でコワーキングスペースを運営していた長谷川さんも同じ悩みに直面していました。大学卒業後に一般企業に就職した長谷川さんは「働き方にストレスを感じていた」といいます。

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養法寺の長女・長谷川 萌子さん

「漠然と『暮らし』と『仕事』が分断している働き方に違和感があったんです。ある時、祖父の余命宣告がある中で、転勤を伴う昇進の話が来ました。祖父のそばにいたいと思いつつ、周囲の助言に従って昇進を選びましたが、その1ヶ月後に祖父が他界。自分の選択をすごく後悔したんです。大事なものを選べない働き方に違和感を覚え、それから働き方や職種を試行錯誤しました
最終的に、私には起業という選択肢が合っていると気づけましたが、この頃から『誰しも自分に合う働き方があるんだろう』と考えるようになりました」(長谷川さん)

「組織に馴染めないと認識したのは、結構ショックだった」という長谷川さん。挫折の先にやっと辿り着いた自分らしいワークスタイルは、出産を契機に新たな課題に行き着きます。

「夫の仕事の都合で、出産後すぐに地元の和歌山から東京へ引っ越すことになりました。地元が保育園を利用する人が少ない地域だったせいか、私も子どもを預ける意識はなく、自分で子どもを見ながら自宅で仕事をしようとしました。
でも(林)理永さんが話していたように、実際は私も両立なんて全然できなくて、自分の甘さを痛感しました」(長谷川さん)

長谷川さんがコワーキングスペースを立ち上げたのは都内で見つけたシェアオフィスがきっかけです。

「都内で子どものそばにいながら働ける環境を探し始めたら、保育園つきシェアオフィスを見つけたんです。そこはさまざまな年齢・国籍・職種の人が利用していて、仕事のアイデアを交換したり、お互いの子どもを見合ったりと、村みたいなコミュニティが育っていました。
また、多様な人がいる場に身を置くと、自分の持つ特徴に気づきやすいという発見がありました。この環境を気に入る一方で、地方と東京の機会格差を痛感しました」(長谷川さん)

こうした体験を地元・和歌山でも実現すべく、和歌山と東京を定期的に行き来しながらコワーキングスペース立ち上げの準備をはじめました。掲げたのは「本来の自分に気づきやすい仕掛けづくり」「エリアや分野を超えた学び合い、助け合いができる関係性づくり」です。

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長谷川さんが立ち上げに関わった、和歌山のコワーキングスペース

母親たちの生きる・働く選択肢の狭さに悩んでいた林さんも、「みんなで子どもを育て合いながら、自分らしく仕事をする」スタイルを実現したいと、始めたのが「HAHA PROJECT」でした。

「立ち上げの2018年当初は、都内のお寺に母子が集まる場を設けさせてもらいました。そこから『働く』ことの比重をもう少し増やしたいと思い、翌年はデザイン事務所の一角を借りて、母親だけではない働く大人たちと子どもたちをオフィスに共存させたんです」(林さん)

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「コロナの時期に主な活動場所をオンラインに移行しましたが、それと同時に、今まで力を入れていた“働く”ということ以上に、参加者同士で生き方をシェアする重要性を感じるようになりました。
今は、新たに同じ思いを抱く母たちが集まるオンラインコミュニティも立ち上げ、日々の思いから悩みや不安まで、気軽にシェアできる『駆け込み寺』的なコミュニティに変化してきています」(林さん)

さまざまな境界線上にある、お寺という場

そもそもふたりが多様な人がゆるやかにつながる場を求めた背景には、お寺で生まれ育ったことが少なからず影響しているといいます。

「実家では家族だけでなく、お手伝いに来てくれる方や檀家さんなど、地域の方が出入りするのが普通でした。自分の家なんですが、プライベートと外の境界がないのが当たり前。そんな多様性のある環境で育ったことは、今の取り組みにも繋がっていると思います」(林さん)

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「私の実家も似ていて、『暮らす』と『働く』が混在した環境でした。父は仕事の合間によく遊んでくれましたし、祖父も自営業でした。社会に出た時の『ライフ』と『ワーク』の分断への違和感は、こうした環境で育ったことが影響しているのかもしれません」(長谷川さん)

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お寺で生まれ育ちながらも、今はお寺の内側でも外側でもない“中間地点”にいるふたり。現在の視点から、お寺の可能性をどう見ているのでしょうか。

「先ほどお伝えしたように、HAHA PROJECTは当初お寺で開いていましたし、今後も何かしらお寺との関係を模索、構築していきたい。そもそも、HAHA PROJECTが大事にしている、日々の『駆け込み寺』というコンセプトはお寺の在り方に通じるものかもしれません
法事やお盆など、用がある時だけ訪れるのではなく、お坊さんに悩みを聞いてもらうなど、気軽に立ち寄れるコミュニティセンター的な役割は、もう一度取り戻せたら良いなと思っています」(林さん)

「私の場合は、お寺は『死』と向き合うことで『どう生きるか』を見つめやすくなる場だと感じています。これは、実家のお寺で祖父のお葬式をした時にすごく実感したこと。また、お墓という場も、自分の命が先祖から脈々と続いてきたことを感じられます。
多くの人が『どう生きるか』と改めて考え始めた今、生と向き合う場としての価値があると思います」(長谷川さん)

公私、ライフとワーク、死と生──。さまざまな境界線上に位置する「お寺」の姿が、ふたりの背景や取り組みから見えてきます。

互いに豊かに生きられる場を目指して

最後におふたりが描く、これからのビジョンや自身の取り組みで実現したいことを聞きました。

「色んな女性たちと関わってきて確信したのですが、女性たちが『どう生きたいか』という軸を持っていると、子ども・家庭・地域……さまざまな場に好循環が生まれます。
カメラマンの夢を実現した女性など、『HAHA PROJECT』のメンバーにはコミュニティの後押しを受けて、子育てをしながらも自分らしい生き方を見つける人が出てきています。『自分がどう在りたいか』に向き合える女性が少しずつでも増えていき、それぞれの豊かさを大切にできる社会になれば良いですね
今年はまた、そんな女性たちの心に寄り添う実際の場所をつくることを計画しています。お寺とはまた違う形ですが、“お寺的な心”が息づいた場所にしたいなぁと、色々と考えています」(林さん)

「自分らしい生き方を選択できる社会を願っています。その「自分らしさ」を発見するには、異なる価値観と出会う機会というのが効果的だと実感しています。
たとえば、二児の母でもある仕事仲間は、プロジェクトを通して、さまざまな働き方、生き方をしている人と関わるうちに変化していきました。当初は子どもを中心に生活設計していましたが、今は自身が希望するライフ&ワークスタイルを大切にしています。
それぞれの生き方をつくるのは私たち一人ひとりですが、ヒントを知る機会づくりは今後も続けていきたいです」(長谷川さん)

取材・文:五十嵐綾子

林 理永(はやし りえ)
1988年 北海道生まれ。アイヌの血を1/8受け継ぎ、長女としてお寺で生まれ育つ。フリーランスの編集ライターとして様々なメディアで活動後、2017年に第一子、2020年に第二子を出産。2018年に『HAHA PROJECT』を立ち上げ、現在はプロジェクトメンバーとともに新たな働き方を模索したり、女性たちの心に寄り添うコミュニティを運営するなど、子育てをしながら活動を続けている。

長谷川 萌子(はせがわ もえこ)
1985年、和歌山市生まれ。ベンチャー企業での営業、中小企業でのBO、学校法人での新規センター立ち上げ等を経て、2015年にアカデミアの業務を補佐する会社「オフィスミモザ合同会社」を起業。案件ごとの人材配置〜PMの役割を担う。2016年に第一子を出産後、2017年4月に夫の転勤に伴い家族3人で東京へ。2019年に和歌山へ戻り、コワーキングスペース2カ所の立ち上げに関わる。


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TERA WORK
TERA WORKは「生きる」に向き合う場所です。お寺という場の開放や接続、お寺を介した関わり合いを通じて、一人ひとりが生き方や働き方と向き合い、より良く変化していくきっかけを作ります。2021年秋から、お坊さん向けキャリアスクールTERA WORK SCHOOL開講します。