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愛をかたちで交換しあう/子どもとアートのささやかな実験② #寺島知春 #てらしまちはる #アトリエ游 #非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180

『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』著者で、ワークショッププランナーの寺島知春です。

個人宅への出張ワークショップが始まって、はや3か月。書き留めておきたいいろんなことが起こるのに、忙しさにかまけて過ぎていきます……。でも今日は、5月に目の当たりにしたキラキラした瞬間のことだけは、書き残しておこうと思いました。

その日は、「気持ちをかたちで表してみる」遊びをしていました。今の気持ちを感じて、それを紙や毛糸などの材料でかたちにするのです。

最初は小学校1年生の男の子と、その子のお祖母さまと、私で進めていました。すると途中から、男の子のお兄ちゃんとその友達数人も加わりました。

子どもは総勢5名になりました。そのうち4名は男の子で、1人だけ女の子です。

騒ぎたい盛りの男の子たちの中で、彼女は少し大人びて、発言もおませな感じです。「男子と一緒の方が騒げていい」ということでもなさそうで、異質であることを自分でも認識し始めながら溶け合っているような雰囲気がありました。私は「めずらしいメンバーだな」と内心思いました。

みんなは、自分の気持ちを確かめながら、手を動かしてかたちを生み出していきます。いろんな素材の手触りが面白かったらしく、「工作は苦手」と言っていた子も黙々と進めてくれています。プログラムのつくり甲斐があるというものです。

盛り上がってきたところで、夕方5時のチャイムが鳴りました。お兄ちゃんのもとに遊びに来ていた子たちですから、もう帰る時間です。兄弟以外の3人は、バタバタと帰り支度をしながら、玄関でサクッと発表会をして解散しようということになりました。

かばんを持って、靴を履いて。用意ができた子から発表し始めます。

すると、女の子がぐっと真剣な表情で、一人の男の子を見据えました。胸のところに作品を持って、おもむろに口を開きます。

「私は○○くんといろんなことをして遊ぶのが、とても楽しいです。いつもありがとう。好きです」。そう言って、作品を相手の男の子に手渡しました。

……なんと! 小学校中学年の彼女がつくっていたのは、恋の気持ちだったのです。

まっすぐな彼女のメッセージを、同年齢の相手はどう扱うのだろう……? 周りで見つめる3人の大人は、囃し立てる他の子を「しーっ!」と諌めながら、固唾をのんで見つめます。いま、いいところです。

すると、相手の男の子は、照れるでもなく、はぐらかすでもなく、ごく自然にその気持ちを受け取りました。こくりと頷いて作品を手元に迎えたと思ったら、今度はその男の子が口を開きました。

「ぼくも○○ちゃんと一緒にいられてうれしいです。いつもありがとう」。そして、自分のつくった作品を同じように女の子に渡したのです。

驚きました。2人は両想いだったのです。お互いの作品を渡し終わると、彼らの間には、相手を正面から受けとめてじっとそこにいるような空気感がひととき流れていました。

純粋なやりとりに、大人はため息をついてうっとり(笑)。子どもたちの間では、2人が日常的にこういう話をしていると知られているようでした。

あの数分間に私たちが見せてもらったものは、たしかに愛の光景でした。混じり気のない気持ちと気持ちが、お互いに受けとめてもらい合う、その様子。

すごいなあ。あのくらいの時に私、あんな崇高な気持ちを認識していただろうか。していなかったよ。彼らはきっともう理解しているのでしょう。

ピュアな気持ちが顔を出すのって、大人の場合には、結構時間がかかります。美術制作は原始的な感情を刺激する動きですが、それを介していても、そうなのです。

でも、子どもはアクセスがはやいですね。その子の性質にもよりますが、たいがいの子はすぐに内面世界を泳ぎ回るようになり、作品に自然と反映させます。そして、ときにこんな素敵な光景を見せてくれることがあります。

時間は刻々と進みますが、2人の間を純粋な気持ちが行き交ったあの瞬間は、永遠なのでしょう。

生きることの瑞々しさを、子どもたちに教わった日でした。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!