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大きな仕事をして

島食の寺子屋を卒業してすぐの自分へ報告したいと思って
文章を書いている。目の前のことを追いかけるので精一杯で
将来どうなっているかなんて想いを馳せるゆとりもなく、右も左も分からなかった自分へ。

島食の寺子屋コーディネーターである恒光さんから、毎年のように「岡村 元気かい?」という言葉とともに海士町に関わるお仕事を頂いてきた。島食の寺子屋の在学中、私はこころが折れてしまい、何度も辞めたいと言い出し、よく泣いて、周りを振り回してきた。そんな「岡村」は大丈夫なのか、やっていけているのかと心配してくれていたのだろうなとも思う。

東京でのイベント登壇の様子

そして今年、いままでで一番大きい仕事のお話がきた。
海士町ファンミーティングという海士町の関係者が東京に100人集まる際に
島の食材を使って料理を作ってほしいという依頼だった。

人数が多いこと、島の食材で料理をつくること(直前にならないと食材がわからない)、慣れてないキッチンで作り、渋谷の会場まで運ぶという移動が発生すること、夜ごはんの提供のため種類やボリュームが必要なこと、オードブルのため出来立てを食べてもらえないこと…

いろんな「はじめて」が重なり合い、「やります」と引き受けたものの、いざ具体的に準備を進めていくと、予期せぬ壁もでてきて、『はたして渋谷の会場までそもそも届けられるのだろうか』という不安が押し寄せてくるような日々を過ごした。徹底的にレシピや材料の分量、工程、工程、道具を確認し漏れがないように備えた。

そんな中、「予定していた魚が(網に)入らない」という連絡があり、思わず「えぇー」と声を出して叫んでしまった。半泣き状態で了解ですと返事するしかなかった。「最近、島全体で魚が読めない状況で海が狂っているという人もいるくらいだ」というメッセージを読み、ふと我に返った。

海士町の風景

自分が島にいた時の感覚を忘れかけていたなと。自然は人の思い通りに動いてないことをあれだけ体感したはずなのに。お金を払ったら何でも手に入るような、人の都合で全てが回っていると錯覚するような、自然から遠い生活をしている自分に気付かされた。島にいた時の感覚を忘れたらダメだぞと注意された気分だった。
そんな島から届いた食材たちはどれも懐かしく、力強く立派だった。

福井さんの原木椎茸

そしてその食材を寺子屋の同期である森塚さんにたくさん刻んでもらい、西村さんにはおにぎりを200個近く握ってもらい、後輩である岩崎くんには盛り付けを手伝ってもらい3日かけて完成した。一(いち)言えば十(じゅう)理解してくれて、寺子屋という時間を共有していることの心強さを痛感した。

手伝ってくれた同期の西村さんと、後輩の岩崎くん

無事に配達を終えることができ、渋谷のスクランブルスクエアにて海士町に関わる方々の前で挨拶させてもらい、いろんな方から拍手と感謝の言葉をかけてもらった。そのときに、「料理やってきてよかった。」と思えた。

ファンミーティングの様子

何のために今ここで何しているんだろう?と何度も考え、その答えもはじめの頃はわかるはずもなく、迷い、辞めたいと何度も思いながら続けてきた料理の仕事の数々。でも、この大きな仕事を終えたときに、これまでしてきた、すべての仕事に無駄なことはなかったんだとはじめて思えた。

何をやっても「ちがう」と怒られながら、飲食のいろはを教えてもらったこと。大量にかつ毎日ちがう料理を少人数でつくる社員食堂の経験、MAYAで婚礼に向けて段取りを組みながら仕込んでいく経験、料理家の奈美さんの教室で数百種類以上のいろんな和食の料理を作らせてもらった経験、なべさんと毎日いろんなことを話ながらお弁当、お惣菜をつくっている時間、全部がつながっていまこの大きな仕事をやり終えれたんだと思った。

完成したオードブル

最初は野菜を洗うこと、切ることからはじまり、そのときは
これがどういう料理になるかわからなかったように、
仕事をしていても、これが何の意味があるなんてわからなかった。
でも、それがだんだん目の前のことを一生懸命、何回もしていくうちに、
その先のことが少しずつ想像できるようになってきた。
そしたら、これはこのためにやっていたんだとわかる瞬間が増えてきた。

料理を仕事にしてきてよかったとおもう。

料理をすることで、いろんな場所へつれていってくれて
色んな人と出会わせてくれた。

そして、そう思えるまで自分がやってこれたのも、周りにいてくれている人たちのお陰だろうと思います。
関わってくれた方に感謝します。

また春から新しい仕事もはじまり新たな一歩を踏みだします。

(文:2020年度1年間コース卒業生 岡村 恵)


【お品書き】


◎海士町の食材を使った料理
ブリのフライ こじょうゆ味噌タルタルソース
ブリの幽庵焼き シークワーサー添え
ヨコワのオイル煮 柑橘とセロリのソース
スルメイカの煮物 飴色玉葱と人参のきんぴら添え
蕾菜と椎茸のアチャラ漬け
赤キャベツといかの酢の物

◎その他
ローストビーフ バルサミコ酢ソース
柚子胡椒のポテトサラダ
ぶどうの白和え
蒸し鶏 ネギソース

おにぎり
海士の塩
海士町産 自家製梅干しとおかか

お魚は崎の定置網の漁師さんから、野菜はムラーズファームさんから、
原木椎茸は福井さんから、お米は山中さんから、梅は丹後さんから、こじょうゆ味噌は在学中に仕込み、送っていただいたものです。