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風がまだ少し冷たい。大敷の漁に同行した。 道網を見ながら船が進む。魚の運動場に到着し、網を手繰り寄せ始めた。飛魚がみえる。夏がきたらしい。本土を離れて3か月が過ぎていた。仕込みに追われる日々に、気づくと手元ばかりを見ている。 漁師さんの言葉が耳に留まる。【自分の役割を考えて、社会に必要とされることに着手する】急いでメモに残した。 漁を終え、港へ戻る。仕入れに合流し、魚を車に詰め込んだ。

また仕込みが始まる。手元の食材に集中し、次々と料理を仕上げていく。
その日の会席は、神前式後にご来店頂くものだった。お客様にとって特別な日だ。料理名や色、食材、食具にも気を配る。接客にも自然と力が入る。
当日、先付けから始まり、会は順調に進んだ。水菓子まで出し終え一息ついた頃、涙を浮かべながら新婦が挨拶し、私達は拍手をもらった。充実感が残る。
帰りの車で営業を振り返り、一人考えた。料理をすることが、ただの作業になっていたことに気づく。

最近まで囲んでいた、家族との食卓を思いだした。大切な話しをする時や、何気ない気の置けない話しをする場所。
書き留めていたメモを見返す。ご来店されたお客様に寄り添えるような場所を作りたい。食材を提供するアンカーとして、まだ見えない【自分の役割】を考えながら、今日も時間を積み重ねる。

(文:島食の寺子屋生徒 田村)