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ソーシャル坊主起業奮闘記 #4 「抜けるなら今やでと愛あるお説教をもらった話」

このnoteでは、ビジネス経験のない僧侶たちが新電力会社の起業に至った物語や、いまなお悪戦苦闘し続けている様子を、取締役・霍野の視点で赤裸々に告白します。

今回は、通っていたセミナーで起業について発表すると厳しくも愛に溢れるフィードバックをもらった話を書き進めます。

「四方良し」ビジネスを志す人材育成塾

信頼する税理士の田中慎さんに「起業はやめたほうがええんちゃう」とお勧めされた一方で、代表・竹本は電力事業にまつわるセミナーに参加したり、資金集めに着手するなど、起業へ向けて着実に準備を進めていました。

田中さんに相談した様子はこちら!

僕は、ちょうどその頃、イノベーション・キュレーター塾という1年間にわたるセミナーに参加していました。京都市ソーシャルイノベーション研究所が主催するこの塾は、社会的課題を解決するために必要な知識やマインドセットをインプットするとともに、塾生のマイプロジェクトを通して社会を動かす人材を育成するプログラムです。

塾長で、プログラム全体のファシリテーターをつとめるのは阪急うめだ百貨店などにお店を構えるフェアトレードアパレルショップ「Love&Sense」を経営する髙津玉枝さん。毎回のゲストは、自身もいままさに社会的事業を実践する豪華な布陣。塾生は、行政・士業・金融機関・大企業・NPO・起業家・大学教授などなど、セクターを超え、社内のポジションも多様な人たちが集います。1年間学びをともにするなかでお互いの信頼関係も築かれ、笑いあり涙あり、本音で語りあう場がつくられます。

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(平田オリザさんのワークショップは和気藹々とした雰囲気ながら、一つひとつの内容に深い問いが組み込まれていて驚愕した)

僕自身、刺激多く気づき豊かなこの塾で、ゲストの苦労話を含めリアルなぶっちゃけ話を聞くとともに、塾生同士の深い学びがあったからこそ、新電力会社起業の話も前のめりに意気揚々と飛びつくことができたんだと思っています。塾に通いだしたときに、まさか、1年後に起業しているなんて夢にも思わなかったけど。ましてや、新電力会社なんて…。

なめちゃダメだよ

そんな起業の背中を教えてくれた塾のなかで、お坊さんたちによる新電力会社について発表してみないか、と提案をもらいました。キレキレで、ビシビシで、バシバシのビジネス経験豊かな先輩たちから事業に対して率直なフィードバックをもらえることはまたとない機会。断る理由もなく、有難く発表の機会をいただきました。

僕たちは、ビジネス経験もなく経営能力ないし、電力事業はドドド素人な僧侶たち。電力業界は既得権益が渦巻いていることも何となく想像できるし、しつこい電話営業などもあり新電力会社へのイメージも良くないことは承知のうえ。

けれども、その塾に集うのは持続可能な社会へのシフトを本気で願い、ソーシャルチェンジを志す人たち。まだまだ絵空事の事業構想ではあるけれど、塾の仲間が起業を目指す姿勢に応援してくれるだろうと期待しワクワクドキドキしながら、意気揚々と想い描く事業構想を興奮しながら語り始めます。電力自由化により市場が開かれたこと、ソーシャルグッドな新電力の事例に着想を得たこと、寄付つき電気のサービスイメージ、社会的な事業を行うNPOやお寺を支援すること、そして事業を通して叶えたい想いを。

10分にも満たない発表を終え、スタンディングオベーション、拍手喝采がまきこっている。

はずが………思い描いていた様子とは遠くかけ離れた、なんともいえない微妙な、梅雨のムシムシした湿気の多い心地悪い空気が当たりを包んでいました。発表を聞いてくれた塾生たちはうつむき、なにか言いたいけれど、誰がどう語りはじめるのか様子を伺っている感じ。

その重苦しい雰囲気を一通り味わってから、高津塾長からの質問が始まります。

「競合他社はどんなところなの?」

「競合他社…。新電力会社って500以上(現在は700を超える)あります。寄付つき電気って大きく掲げているところはない、はずです。たぶん。」

「たぶんって、ちゃんとリサーチした方が良いよ。それだけ新電力会社の数があれば、一つぐらい寄付つきってありそうだけどな。もし無いのであれば、なんで無いのか考えた方が良いかもね。電力事業って収益率低そうだから、それを寄付したら経営できないとかも考えられるんじゃない。他の電力会社と比べて、霍野さんたちの強みはなに?」

「僕らの強みはお寺のネットワークがあることです。お寺を拠点に檀家さんへのアプローチも想定すると大きなステークホルダーがいると思っています。」

「お寺のネットワークがあるっていうけど、お寺さんはそういったビジネスに対して嫌悪感抱く人も多いんじゃないの?!ましてや、どこの馬の骨かもわからない新電力会社だよ。保守的な人が多そうなお寺さんに対して、そう簡単に電気売れるかな…。」

「うっ…。」

「あと、お寺を拠点に檀家さんへのアプローチできるっていうけど、急にお寺が電気の切り替えを勧めてきたら、「えっ、お寺が金儲け…?!」って信頼関係が崩れる可能性あるんじゃない?!あなたたちが事業を行うことによって、お寺と檀家さんの関係が悪くなってお寺が潰れていく可能性もあるんじゃない。どう?」

「おぇっ…。」

その後も、高津塾長は、角度を変えながら質問を続けてくれます。

「電力事業をサポートしてくれる企業の実績はどうなの?なんでそこじゃないとダメなの?」「一般的に電力事業の収益率はどれぐらいなの?あと収支計画は誰が描くの?」「資本金はどうやって準備するの?出資者はどういう人たちなの?」

いま思えば、事業の解像度や課題を浮き彫りにさせるための愛に溢れた質問の数々。しかし当時はなぜそんなことを聞かれるのか理解できませんでした。

「ビジネスをなめちゃダメだよ。」

痛恨の一撃。決してなめているわけじゃないけれど、僕たちは起業に向けて一歩踏み出したにも関わらずビジネスや経営について勉強していなかったのも正直なところ。ただただ直感と出会いに任せて、勢いで起業に向かって突き進んでいました。

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(そのときの写真、頭を抱えている人が多い)

その後、塾生からのフィードバックも続いたはずですが、正直あまり覚えていません。最後は、早急に考えるべきこと、やるべきことを高津塾長がアドバイスしてくれて、励ましの言葉をくれたような気がします。しかし、もう頭も心もパンクして、身体はそこにあるけど意識はもうどこかに飛んでいました。幽体離脱ってあんな感じなのかな(笑)。

高津塾長の質問や懸念については、その後、死にものぐるいで取り組んで解決していくことになりますが、それはまた別の話で。

愛に溢れるサポート

その数日後、高津塾長をはじめ、スタッフや塾生も集まってくれて、霍野を助ける会を実施してくれました。そこでは、高津塾長が起業して経験した耳を塞ぎたくなるような生々しい話を教えてくれたり、スタッフや塾生がそれぞれの立場から電力事業をリサーチしてくれたり、僕の進捗報告にフィードバックくれたり、ポジティブなこともネガティブなことも包み隠さず語りあいました。そんな会を、参加者を変え、場所を変え、何度も実施。

そして最後に、高津塾長が最終的な決断を迫る言葉をド直球に投げこんでくれます。

「起業メンバー、抜けるなら今やで」

トドメの一撃。塾での発表だけでなく、それから何度も会って進捗を報告したにも関わらず。今となって振り返ると、それぐらい僕たちの事業構想はヤバかったんです。当時はこれでもいけるって自信があったことが不思議でしょうがない…。

信頼する人たちにここまで言われるとさすがに起業を思いとどまる。

…はずでしたが、なぜかそのまま起業は進み続けます。

後から教えてもらったことだけど…高津塾長やスタッフの皆さんが、僕をこのままビジネスの荒波の中に葬り去るのはさすがに心痛み、塾のなかでビジネスの厳しさを知っている経験豊かな皆んなから率直なファードバックをもらい、一旦立ち止まって、改めて起業を考え直した方が良いだろうと、発表の機会をつくってくれたらしい。

キュレーター塾の皆さんには感謝しても感謝しきれません。僕たちのことを想うからこそ、厳しい言葉を投げ続けてくれました。起業した後も、ことあるごとに励ましのメッセージをくれたり、具体的に事業のサポートもしてもらっています。塾に誘ってくれた山中はるなさんには組織づくりを。税理士の田中さんには総務全般を。その他にも様々なところでキュレーター塾の関係者に支えられています。

山中さんのコラムはこちら!

ちなみに、僕の固定概念を覆してくれたこの塾を是非体感してもらいたいと願い、テラエナジーの社員も塾に通ってもらっています。

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(同期の集合写真)

次回は「抜けるなら今やで」と言われているにも関わらず、怖いもの知らずのノリと勢いで立ち止まることなく起業の準備は進み、WEBなどのクリエイティブについてデザイナーに相談にいき、記者会見の企画をはじめる話を書き進めます。

霍野 廣由(つるの こうゆう)
1987年福岡県生まれ。浄土真宗本願寺派覚円寺(福岡県)副住職。龍谷大学実践真宗学研究科在学時に、自死・自殺や終末医療、高齢者福祉の活動に携わるとともに、寺院活動を研究する。大学院を修了し、認定NPO法人京都自死・自殺相談センターに就職し、現在は事務局長を務める。2018年、ソーシャルグッドな新電力会社、TERA Energy株式会社を立ち上げる。相愛大学非常勤講師、浄土真宗本願寺派子ども・若者ご縁づくり推進委員など。

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