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ソーシャル坊主起業奮闘記 #6 「マスコミにリークされネットで大炎上。Yahoo!コメント900件がついた話」

このnoteでは、ビジネス経験のない僧侶たちが新電力会社の起業に至った物語や、いまなお悪戦苦闘し続けている様子を、取締役・霍野の視点で赤裸々に告白します。

信頼する税理士や起業家の方から「起業はやめといた方がいいんちゃう」と言われたにもかかわらず、立ち止まることなく起業に向けて準備を進め、社名やロゴ、パンフレットなどを制作。

今回は、まだ事業構想がぼんやりとしているにも関わらず記者会見の準備を進めるなかで、「お坊さんが新電力会社を起業」との情報がマスコミにリークされ、ネットで大炎上した話を書き進めます。

パワーワードにかけた記者会見

社名やロゴが決まり、パンフレットを制作しながら、記者会見の準備を進めます。「お坊さんが新電力会社を起業する!」とのパワーワードがあれば、マスコミ・メディアの関心を引けるだろうという淡い期待を持ち、本格的な電力事業のスタートは翌年で、経営戦略も曖昧であるにも関わらず、恥ずかしげもなく記者会見を行うことになりました。

その背景には、大手企業が新電力事業に参入することも相次ぎ、地域新電力の立ち上げも増えるなかで、先ずはどうやって「テラエナジー」の認知度を上げることができるのか、という大きな課題がありました。確かに、お寺業界のなかをじっくりゆっくりと時間をかけて営業していけば、業界内での認知度はある程度上がるでしょう。しかしながら、薄利多売の電力ビジネス。しかも電気代の一部を寄付するという寄付つき電気のサービスでは当然のことながら収益は下がります。時間をかけてじっくりゆっくりとでは、いつまで経っても健全な経営をすることは難しい。

そもそも、僕たちは電気を手段として、寄付文化を促進させ、再生可能エネルギーの普及を増やしたくて起業にチャレンジするのだから、お寺業界だけに止まってしまうのは本意じゃない。お寺業界を中心としながら、お寺とご縁のあるお檀家さんやご門徒の方々、さらには広く一般の方にも「テラエナジー」を知って欲しい。

それならば、「お坊さんが新電力会社を起業する!」とのパワーワードが使えるこの起業のタイミングで記者会見を開くしかない。

ということで、京都市にある臨済宗妙心寺派・長慶院さまをお借りして、2018年10月25日に記者会見を実施することになりました。長慶院のご住職とは自死・自殺の活動を長年ともにする仲間ということもあり、海の物とも山の物ともつかぬ記者会見にも関わらず快く会場をお貸しいただきました。

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(長慶院の様子)

2018年6月11日に法人登記が完了し、やったことといえば、小売電気事業への登録申請を進め、ロゴとパンフレットをつくり、知り合いのお寺さんに事業についてヒアリングし、電力供給の仕組みの勉強を始めたぐらい。こんな状態で何を発表できるのか、記者さんは集まってくれるのか…と自分たちでも半信半疑になりながら、マスコミ・メディア関係者への告知と、プレゼン準備を進めます。

マスコミにリークされネットで大炎上

記者会見の準備を進めるのと同時並行で、最初の営業地である広島を中心に、中国地方のお寺や環境問題の関心者に挨拶回りをしていました。そんななか「お坊さんが新電力会社を起業するらしい」との情報が中国地方のマスコミに伝わり、問い合わせがありました。10月25日の記者会見でマスコミ・メディアの皆さまに一斉に情報をお伝えするという方向で動いていたので、記者からの問い合わせにもごくごく簡易な説明と、記者会見への参加を伝えました。問い合わせがあったのが10月12日。その二日後、14日の夜に記者から「夜分にすみません。あす朝の全国ニュースで触りだけご紹介させていただくことになりました」とメッセージが入ります。「報道は25日以降にお願いできますでしょうか。他のメディアの方にもそのようにお願いしておりますので、ご協力よろしくお願いいたします」と伝えるものの、時すでに遅し。15日の朝と夜の情報番組で全国放送されました。

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(京都の僧侶らの会社 電力小売り事業に参入へ 檀家減少が背景に)

私たちとしては、記者会見で一斉に情報開示を目論んでいたので、このフライング報道には困惑しました(映像は削除されています)。予期せぬ事態におろおろしていると、ネットを中心に瞬く間に広がっていきます。

この報道を受けて、Yahoo!にも記事が掲載されました。翌日16日までに、約900件のコメントがつき、Twitterは約4000件のリツイートがありました。拡散の多さに驚愕。リアクションの内容を見ると、Twitterは好意的な意見が多いものの、Yahoo!のコメントは7割程はネガティブなコメントが並びます。

Yahoo!やTwitterのコメントを分析すると、以下のような内容に分類できました。当時、関係者に説明した内容を一部抜粋してご紹介します。

浄土真宗本願寺派が事業をはじめるという誤解
報道により、本願寺が宗派として電気小売り事業をはじめると誤解を与えているコメントも散見されます。弊社は、本願寺派の僧侶が中心になって立ち上げていますが、宗派との関係はございません。宗派や教団に属する事業ではなく、宗派を超えた有志の僧侶により事業に取り組んでいます。
税金の問題
オンライン上では「宗教法人はちゃんと税金を払え!」というコメントが散見されます。この背景には、宗教法人が税の優遇措置を受けていることへの反感があるように思います。弊社は株式会社ですから、当然のことですが法人税諸々の税金を支払います。
寺院が営業をすることについて
「寺が檀家や住民に営業活動をするのか?!押し売りはやめてくれ!」や「ねずみ講じゃないのか?!」という指摘もあります。弊社の事業は、寺院に賛同いただくとともに、檀信徒とも一緒に協力する取り組みです。具体的には、地域課題の解決のために、住職と中心的な檀信徒ともに話し合いの場を設けます。そこではまず課題を洗い出し、具体的にどのような取り組みを行うのかを考え、その取り組み案をもとに、広く檀信徒と地域住民と一緒に取り組みを進めていきます。一方通行の営業ではなく、住職と檀信徒、地域住民が一緒に協働する取り組みです。
宗教者が金儲けをするのか、という批判
お金は“儲け方”ではなく使い方が重要だと考えています。弊社では、収益を社会や地域のために使うことを中心的な事業内容の一つとしています。弊社の収支については公開し、透明化を進めていくことを考えています。
この事業は宗教者がするべきことか、という疑問
宗教者の活動について様々な視点があると思われます。歴史を紐解きますと、聖徳太子の時代の悲田院(病院機能を持つ施設)、奈良の大仏の建立事業を指揮し灌漑事業を行った行基、荘園制度、寺小屋、現代における孤児院、幼稚園、老人福祉施設など、宗教者が福祉事業やインフラ事業に従事することは、元来、人びとの生活を支える宗教者の重要な役割の一つです。弊社の事業を通して、地域人びとと共により良いあり方を模索し、皆様に喜んでもらえる取り組みをサポートしていきたいと考えています。

まだまだ実現できていないことも多くありますが、当時と想いは変わっていません。

ちなみに、Twitterでは「TERA Energy」という社名を面白がるコメントが多かったです。寺、ラテン語の地球(terra)、1兆倍を表す接頭辞のテラをかけています。ネガティブな意見が並ぶなか、こういった面白おかしく盛り上がるコメントには救われる思いがしました。

こうして予期せぬ形で大炎上したテラエナジー。記者会見の準備を進めていた矢先、この炎上にはなんの予防も対策も取れず、ただただ慌てふためき泡吹きながら「これ以上ひどいことにはならないでくれ」と願い、ハラハラドキドキしながらパソコンの画面を眺めていたことを思い出します。

私たちがアワアワしている一方で、仏教を発信するWEBサイト「彼岸寺」で冷静に報道を受け止めてくれる記事もありました。荒れている真っ只中で、こうして我々の想いを汲んでくださる記事に大いに励まされました。

メディア掲載数でアイドルに勝つ

炎上から10日後、予定通り、記者会見を行いました。炎上もあったせいか、当日は50名を超えるメディア・マスコミ関係者の方にお越しいただきました。

記者会見の動画はこちら

いま当時想定していた事業規模を聞くと、本当に何も分かってなかったんだなと恥ずかしく、情けなくなります。初年度5,000件を超える顧客なんて言っていますが、事業がスタートして2年経った現在1,000件の顧客です。本当に地に足がついてなかったんだな…。

当初はお寺を想定した事業プランでした。お寺を中心にしながら寄付つきの電気の資金を活用して地域活性化を盛り上げたい、と。

具体的な事例として、広島のとあるお寺で、テラエナジーがファシリテーターとなり、住職と仏教壮年会(檀信徒の壮年男性グループ)の有志と、地域の課題やこれからのお寺の在り⽅について意⾒交換会をする作戦会議を実施しました。

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【地域課題】
・ 少⼦⾼齢化が進み若者が集落に居ない。
・ 関係性の希薄化。昔は隣近所のことを⼤⽅把握していたけれど、地域の集まり事に参加しない⼈も増えて、最近はよく知らない⼈も増えている。
【お寺の未来像】
・ ⼦どもや若者がお寺に来てほしい。そういう世代が関⼼をもってくれる取り組みを⾏なっていきたい。
・ 貧困家庭の⼦どもたちに対して、寺⼦屋(教育を通した格差是正の取り組み)を実施したい。
・ 住職は海外留学経験もあり、視野が広く、地域教育に対しても想い入れがある。

そのような声をもとに、お寺の近隣にある大学のまちづくりに関わる学生団体の方々と私たちがお会いして、お寺の課題やこれからの可能性について意見交換。その後、お寺の住職と学生たちをつなげました。数ヶ月後、大学生たちがお寺で合宿を開催し、夜は住職をはじめ、地域の方々と交流。お互いに良い刺激を与えあい、お寺で地域の子どもたちを集め、地域の文化やユニークな人たちと出会えるような学び場を実施しようと盛り上がりました。

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(学生団体が”mahoLabo.”が運営するYeastより)

その後コロナの影響もあり、具体的に事業を実施するには至っていませんが、お寺を中心に世代を超えた地域内交流が生まれ、小さくとも地域の人による地域のためのプロジェクトが動き出すという兆しは確かに見えています。

学生団体が住職を取材して、素敵な記事になってました!

一方で、多くのお寺に営業を回ることで、こうして地域の人たちが地域活性化のためにお寺を活用しようと前のめりに協力してくれるケースは決して多くはないんだということに気がつきました。理想と現実、その困難さを痛感。そうしたなかで、寄付つき電気の仕組みはお寺だけに止まらず、ソーシャルグッドな団体や取り組みにもっと積極的に使ってもらえるんじゃないかとの想いが強くなり事業の枠組みが拡がっていきす。その話はまた次回にでも。

さてさて、記者会見の当日の内容は、@Pressというプレスリリースのサービスでも発信しました。

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その結果、2018年10月の記事数で、サイト内の6位に入っています。[渡辺麻友さん(元AKB48)がホノルルマラソンのアンバサダー就任]より上だったことは良い思い出です。

また、朝日放送テレビ「キャスト」、NHK「NHKニュース」「おはよう日本」、関西テレビ「報道ランナー」、毎日放送「VOICE」など、多くのテレビでも記者会見の様子を取り上げていただきました。

こうして想定外の形でテラエナジーの名前は広く知れ渡ることになりました。確かに、フライング報道は、決してポジティブな内容ではありませんでした。しかしながら、その後記者会見も行い、多くのテレビ・新聞でも取り上げられ、十分ではないものの、私たちのやりたいことや想いは発信されています。これで営業もしやすくなるだろう、いっぱい契約とるぞ!と意気込んで各地のお寺に伺います。が、大した影響はなく、営業が思うよう進まず悪戦苦闘し続ける様子を、次回は書き進めます。

霍野 廣由(つるの こうゆう)
1987年福岡県生まれ。浄土真宗本願寺派覚円寺(福岡県)副住職。龍谷大学実践真宗学研究科在学時に、自死・自殺や終末医療、高齢者福祉の活動に携わるとともに、寺院活動を研究する。大学院を修了し、認定NPO法人京都自死・自殺相談センターに就職し、現在は事務局長を務める。2018年、ソーシャルグッドな新電力会社、TERA Energy株式会社を立ち上げる。相愛大学非常勤講師、浄土真宗本願寺派子ども・若者ご縁づくり推進委員など。

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テラエナジーでんきへのWebサイトはこちら
https://tera-energy.com/

3分で完了!テラエナジーでんきのお申込みはこちら
https://tera-energy.com/form/#anc-top

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