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しそジュース


夏になると思い出す、旬の香りと優しい甘さが詰まった、おばあちゃん手作りのしそジュース。

暑い季節はあまり好きではなかったけど、おばあちゃんのしそ、ジュースが飲める、夏の終わりが待ち遠しかった。

夏の終わり、我が家の玄関には大量のしそが届く。
農家をしているおじいちゃんの実家から届く、そっと玄関に置かれるしそは、夏の贈り物。


おばあちゃんは、新聞に包まられた大量のしそを見て嬉しそうだった。

毎年恒例行事のため、しそジュースを作る工程も手際が良い。

「てらちゃん、手伝って。」

おばあちゃんに頼まれる間もなく、しその葉に手を伸ばす私。

まずは、
しそを1枚1枚丁寧にとっていく。
この時、虫に食べられて使えない葉は捨てないといけない。

山積みになったしそが溢れ出しそうなボールが、どんどん増えていくと、部屋中は紫色に。

次は、山積みのしそたちを洗う作業。

家の台所だけでは終わらないので、隣にある親戚のクリーニング店の洗い場も借りる。

「おっ、今年もしそか!」

おばあちゃんに声をかけたのは隣のおじちゃんだ。

「ちょっと洗い場借りるけんね〜」

おばあちゃんと私は手分けしてしそを洗い続ける。
大変な作業だけど、しそのほのかな香りは疲れを感じさせないのだ!


ジャーっ
ジャーっっ

ジャーーーっっっ

チャプチャプチャプ。

暑い夏なら冷たい蛇口から出る水も、心地よい涼しさを与えてくれる。

私は、もくもくと手を動かす。

繰り返し続く洗い作業も、おばあちゃんと一緒なら飽きない!

とは言え、小学生の集中力なんて知れている。

洗い終わったしそは、おばあちゃんが鍋にかけて調理してくれるから、私の仕事はここまで。

ご飯を食べて、お風呂から上がってくると
台所中にしその香りが居座っていた。


我が家は台所のすぐ横に浴室があるので、脱衣所で体を拭いている時から、しそたちの存在に気付いていた。

「もうできた?味見してもいいー?」

しそジュースを待ち切れない私に、

「ごめんね、まだだわあ。
明日、お茶の時間に一緒に飲むだわ。」

とおばあちゃん。

ケチーッ、と心の中で地団駄を踏んでみたけど…

優しいおばあちゃんの声に、頷かないわけにはいかない。


翌日の午後。

冷蔵庫にはペットボトルに移し替えられた、
おばあちゃん特製のしそジュース。

「ちょっと早いけど、お茶にしようかあ。」

テレビを見終えたおばあちゃんから、
しそジュースのお誘いだ。

コポッ
コポッ
コポッ

コップに注がれる鮮やかな赤紫色を見て、頭の中はしそジュースでいっぱいだ。

「お父さんにも持っていくあげてくれる?」

お盆の上にはおじいちゃんとおばあちゃん、
私のしそジュースが置いてあった。


おじいちゃんが座るすぐ横の部屋は、テレビとこたつテーブル、その上には仕事の書類が山積み。

ごちゃごちゃした部屋だけど、ここも私が落ち着く場所の一つ。

絨毯に腰を下ろし、待ちに待ったしそジュース。

「うまいなあー!」

「おいしいっ!
おかわりしてもいいッ!?」

「ふふッ、たくさんあるけん。
たくさん飲んでよお〜。」

テレビに映る時代劇を見るおじいちゃん。

しそは体に良いよ〜
今年のは特に葉っぱが大きかったわあ〜


と何気ない会話をするおばあちゃん。


あれから、もう、20年以上。
おじいちゃんの部屋はリフォームされて、
あのころとは様子が違う。

今でも、

しそジュースを飲む度、
スーパーで紫色のしそを見かける度に

懐かしいあの優しい思い出でいっぱいになる。


来年こそは、おばあちゃん直伝のしそジュースを作ろう。

そして、優しい思い出に浸りながら、子供達にまでしそジュースの思い出を作ってもらえたらいいなあ。

子供のころに覚えた味と香り、その思い出は、避けられない人生の辛い瞬間を、きっと支えてくれる。


私がおばあちゃんのしそジュースに


支えられてきたように^ ^


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