加納朋子さん『カーテンコール!』を読んで
とんでもない本を読んでしまった。
思わず人に勧めたくなる、素敵な本でした。
表紙の素敵な花束と、裏表紙のあらすじを読んで即購入を決定。
学業不振とかコンプレックスとか大好物。
さて、どんなおもしろおかしい学園生活が始まるんだろうと期待して購入しました。
ちなみに帯の「涙盛」は嫌いだったので、一瞬避けようかと思いました。
本の魅力が勝っていたので購入しましたが。
出版社気をつけろ。
内輪ノリが嫌いって人結構いるぞ。
群像劇で描かれているので色々な登場人物にスポットライトが当たるのですが、どいつもこいつも重いったらありゃしない。
単純な悩みから、身体のこと、病気のこと、心の問題のこと、家族のこと、コンプレックスというのはたくさんあります。
軽重つけるのは良くないと思いますが、軽い悩みが発端でも、他の悩みと併発したり、生きるのが下手だったりすると、本人にのしかかるものはとても重くなります。
重さではなく印象で心に刻まれたのは、最初に壇上に上がった桃花、いや、太郎の話。
性の悩みって私にも分かる部分はあるし、でも分からない部分がほとんどだし。
塞ぎ込もうとしていた彼に突如現れた女神とそれからまもなく訪れる挫折。
悩み苦しみ続けて自分を失っていた長い日々と、突然明かされる真実と。
最後に立ち上がり、前に進もうと瞳に光を取り戻す姿に痺れました。
もう開幕の1章だけでも拍手喝采ものです。
あぁ、いい本選んだなとこの話を読んだだけで思えます。
たった1人ですが、かけがえのない人に存在を認めてもらえるということの価値はとても大きいです。
彼が立ち直ったように、こんな世の中だけど、それでも誰かのために生きてみようと思える。
認めてもらう、「あなたは素晴らしい」と心から言ってもらえるってきっとそういうこと。
私はそんな風に誰かに認めてもらったことがあるのだろうか。
自覚はない。
よく分からない。
きっと友人のうちの誰かは思ってくれてる?
でもいいの。
私は認めてあげられる人側になればいいから。
落ち込みそうな誰かをそっと掬い上げて、
「大丈夫。あなたは素晴らしい。」
って言ってあげられる側になれればいい。
今も、そしてこれからも、そんな人であり続けたい。
願わくば、半年の監獄生活がいかに退屈で苦痛で、その中で楽しみを見つけて、友人と呼べるか分からないけど新しい人間関係が生まれて、晴れ晴れしい卒業式を迎えることができたのか。
その一部始終をもう少し見てみたかった。
きっと単調でつまらないものなどではなく、いろんな問題にぶつかり、心が傷つき、話し合い、諭され、乗り越えてきたんだろうなと思います。
そうでなかったら、「帰ってきてもいいですか?」なんて死んでも言わない。
人生のどん底にいたであろう人たちが、苦しくなったら逃げて帰ってきたいと思える場所になるくらい、とても大きな半年だったのでしょう。
でもこれは彼女らと彼らの物語。
舞台の上で見せられるのは、ほんの一部分だけ。
カーテンコールに包まれてこのお話はおしまい。
私には私の物語があり、私たちには私たちの物語がある。
彼女らや彼らが立ち上がった姿を見て、私たちも自分の人生を精一杯生きねばと思いました。
ちょっとだけ「んっ?」って思ったのは、病気に対する治療法が安直に描かれていたこと。
病気の症状以外にもメンタルもやられている子がいる中、「そんな大雑把な対応で大丈夫?」と思わされる部分がちらほら見受けられます。
物語の性質上、あくまでもあれは治療の一部だし、スタートのほんの少しでしかないので、全てではないと分かっていますが、捉え方によっては理事長の初期対応が良く、それで良い方向に転がっていったと見えてしまいます。
実際に苦しんでいる人、色々な処方がうまくいかず悩まれている人がいる中、出来レースのようにうまくいってしまう物語は勘違いを生んでしまいがちです。
『カーテンコール!』の魅力は病気や障害との向き合い方では無いと私は思っているので、この本の評価がそれで下がらなければいいなと思っているところです。
ちなみに、「彼ら」は太郎と禿げと白衣の先生だから「彼ら」です。
大好きな桃花と太郎に敬意を込めて。
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