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恩田陸さん『夜のピクニック』を読んで

ずっと読みたかったけど、読んでこなかった本。
理由は分からない。
世間的に評価されている本だから逆張りしていた気持ちもある。
傑作という期待のせいで純粋に物語が楽しめないかもという気持ちもある。
ただ、単純に忙しくて後回しにしてきただけなのかもしれない。

読んでみて、思いました。
これは傑作中の傑作だと。

この本の素敵なところの一つに「感想をもちやすい」というものがあると思う。
「歩行祭」という第三者からしたら魅力的な学校行事。
秘密を抱えた主人公2人の男女。
友達、親友との何気ない会話と、新しく知る一面と。

「懐かしい」「羨ましい」「憧れる」「やってみたい」
色々な切り口から読み手の心に入り込んでくる。
そのどれもがプラスの感情だからすごい。

それに加えて読みやすい。
身近で想像しやすい物語というものあるが、それにしても読みやすい。
たった1日の出来事なのに、文庫本サイズで447ページもある。
なのに、会話ややりとり全てが彼らにとって必要な出来事だと思える。

『蜜蜂と遠雷』を読んだ時にも思ったが、恩田陸さんは読みやすい。
文章量はものすごく多いのに、読者の想像の世界にすっと入ってくる。
あっちはあっちで文章量がとんでもないことになっているが。
歩行祭が1日限りでよかった。
1泊2日とかだったら本の厚さが倍以上になりそう。

読んだ後思ったことが二つある。
一つ目は、「しまった、タイミングを外した」ということ。
『夜のピクニック』に限らず、いい本だと知っていても読まずにいた本がたくさんある。
友達に薦められても手を出さなかった作家もいる。
本だけの話じゃない。
「自分には合わないだろうから」という先入観で避けてきたものたくさん。
食べ物。飲み物。音楽。ファッション。スポーツ。遊び。出掛ける先。
そして、人。

もちろん早くに手を出して「しまった、今じゃなかった」の可能性もある。
でも、後から「あの時にやっておけば」と思う後悔は取り戻せない。
人は老いるから。

せめて、今後「しまった、タイミングを外した」と思うことが少なくなるように、いろいろなことに手を出していければと思う。
絶対に難しいけど。

もう一つ、思ったことは『スクールランブル』という漫画のこと。
多分だけど、作者は『夜のピクニック』を読んで、実際に自分の漫画に落とし込んでみたくなったのではないかと思う。
自分は『スクールランブル』という作品が大好きなので、「歩行祭編は面白くない」という書き込みを見るとがっくりしてしまう。
ま、歩行祭編でギャグがぶっとびすぎてめちゃくちゃなのは事実だが。

自分の好きなキャラクターが、いやフィクションだけじゃなくていい。
自分の好きな人や大切な仲間たちと歩行祭みたいなイベントがあったら、と妄想を膨らませるだけで楽しいじゃないか。
あのとき、こんなイベントがあって、こんな会話をしていれば。
そんな青春時代を思い出させてくれる本でした。

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