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Startup Story: Blue Apron - ミールキットサービスは成り立つのか?(2/4)

フードデリバリーサービスの歴史

(前回の記事はこちら)ミールキットサービスも食べ物を届けるという意味では広義のフードデリバリーなので、アメリカのデリバリーの歴史を少し遡り、ミールキットサービスがどの様な流れで出てきたのかを見てみたいと思います。インターネットが誕生した後に圧倒的にユーザーに受け入れられたのはGrubhubでした。Grubhubは2004年にシカゴで始まります。それまではレストランにデリバリーを頼むのにはその店のウェブサイトに行くか、何らかの方法で紙のメニューを入手して、電話をしてオーダーするのが一般的でした。さらに電話をするまでは自分の家がデリバリーの対象範囲がどうかが判らなかったのです。Grubhubは自宅の住所を入れると、その住所までデリバリーをしてくれるレストランの一覧が出てきて、さらにメニューを選んでウェブサイト上でオーダーまで完結できるというのが革新的でした。

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少し話が逸れますが、Grubhubの創業者二人は立ち上げた直後にChicago BoothThe University of Chicagoのビジネススクール)に入学し、2006年春に行われた同校のビジネスプランコンテスト New Venture Challenge (NVC) にて優勝します(上の写真は創業者二人がプレゼンをするところ、NVCサイトより)。このNVCはいちビジネススクールのビジネスプランコンテストに過ぎないのですが、実は数々の成功例を出しています。Grubhubはその後、(Clubhouseの回に出てきた)BenchmarkやLight Speed Venturesから$80M近くを調達し、2014年にIPOをして、投資家に大きなリターンを返します(また正に先週、Uberに競り勝ったイギリスの同業者Just EatがGrubhubを$7.3Bn(約8,000億円)で買収することが発表されました)。翌年2007年のNVCで優勝したのは、後にPaypalによって$800M(約900億円)で買収されるBraintreeでした。私は当時、Chicago Boothの一年生で、NVCのファイナルにてプレゼンをするBraintreeの創業者を見ていたので、よく覚えています。それに感化されてか、翌年、私もアイデアを作り、チームを組んでNVCに参加し、120チームからファイナリスト(最終回でプレゼンをする8チーム)の1つには選ばれましたが、残念ながら優勝とまでは行きませんでした(懐かしい!)。

この2000年代、Grubhubと同じ様なオンラインデリバリーサイトが、Seamless(1999年にNYCで創業)、Eat24(2008年にSFで創業)、Cavier(2012年にSFで創業)と各地で立ち上がりますが、Seamlessは2013年5月にGrubhubにより吸収合併、Eat24は2015年2月にYelpが買収(その後、2017年8月にYelpからGrubhubが買取)、Cavierは2014年8月にSquareが買収(その後2019年8月にSquareからDoorDashが買取)、と古いフードデリバリー業界は統合が進みます。

2010年代:デリバリーアプリの登場

そして2010年代に入り、前回触れたiPhoneアプリストアの開放により、第2世代とでも言いましょうか、新しいタイプのデリバリーアプリが登場します。現在でも主要プレイヤーとして残るPostmates, DoorDash, UberEatsなどです。Postmatesは2011年にSFで始まり、元々はTask Rabbitの流れを組んだ "delivery from anywhere"で、特にフードに特化していたわけではなく、例えば何かを誰かに届けたい、と言った時にでも使えるオンデマンドアプリでした。それが2016年頃から一番ニーズがあるからか、フードデリバリーに特化する様になりました。DoorDashは2013年にY Combinatorを卒業し、レストラン側のセットアップを大幅に省く手法で瞬く間に広まりました。最後はUberEatsで、Uber自体は2009年に始まっていますが、フードデリバリーを始めたのは一番後発で2015年でした。

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フードデリバリー領域のスタートアップの2011年以降の動きは上のCBInsightsの図表によく纏まっています(元記事はこちら)。PostmatesやDoorDashだけでなく、様々なスタートアップがこの領域で始まったことが分かると思います。Uberは触れるまでもないですが、PostmatesはFounders FundやTiger Globalから累計$900M(約1,000億円)を調達し、直近のバリュエーションは$2.4Bn(約2,500億円)、DoorDashは更に上を行ってSequoiaやKleiner Perkins等から累計$2.1Bn(約2,200億円)を調達、直近のバリュエーションは$12.6Bn(約1.4兆円)で、両社ともIPOが近いと噂されています。

もう1つのトレンド:デリバリーキッチンの台頭

もう1つ、2010年代のフードデリバリーで無視できないのがデリバリーしか行わないキッチンの台頭です。代表格はMuncherySprigSpoonRocketなどです。2012~2015年ぐらいは"on-demand economy"が話題になった時期で、これらのスタートアップはon-demand food deliveryの代表格と見なされていました。共通するのはいずれもキッチンは持つのですが、お客さんを受け入れる店舗は持たず、デリバリーのみ、例えば前日の夜や朝8時までにオーダーをしておけば、翌日のお昼にオフィスまでデリバリーしてくれる、と言ったサービスです。上のDoorDashやUberEatsと違うのは自らのキッチンを持ち、メニューを考え、料理を作ってデリバリーする点です。なので、有名シェフ等が考えた独自の美味しい料理がアツアツで届く、且つオーダーもスマホで簡単に完結、とあってユーザーからは圧倒的に受け入れられました。同時にVCも注目して、MuncheryはMenlo Ventures等から総額 $117M、SprigはGreylock等から総額 $57M、SpoonRocketはGeneral Catalyst等から総額 $13Mと、それぞれ巨額の資金を調達しました(下はSprigのランチボックスの写真。PYMNTS.comより)。

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しかし、ユーザーのニーズは高くても、結局はレストランビジネスと同じで十分なマージンを確保したままスケールするのが難しく、結果的に3社とも2018年頃までには全てクローズしてしまいます。この辺りはこの記事や、この記事、元Sprigの創業者が最近tweetした下記に詳しい背景があります。

サブスクリプション+デリバリーモデルの波

ただ、今まで見てきたスタートアップの誕生や成長により、Blue Apronなどが始まった2012~2013年は多くの投資家がこのフードデリバリーの領域に注目しているタイミングではありました。それはアプリやテクノロジーを使って、レストラン産業という古い業界に風穴を空ける、マージンを圧倒的に改善し、テック企業の様にスケールさせる、という様な期待値が高まった結果でもありました。

もう1つ、食に近い、"衣"という消費者にとって身近で古い業界で、大きな革新をもたらしているものがありました。それがサブスクリプション+デリバリーモデルです。即ち、毎月一定金額を支払えば、服や小物が自宅まで届けられる、というサービスです。古くは、毎月スタイリストが選んだ服や靴がボックスに入れられて送られてくるというTrunkClub(男性向け、2009年設立、USVC等から資金調達をした後、2014年8月に大手百貨店のNordstormが$350Mで買収)やShoeDazzle(女性向け、2009年設立、Lightspeedやa16zから資金調達をした後、2013年8月にJustFab社が買収)、また女性向けに化粧品やアクセサリが送られてくるBirchbox(2010年設立、Accel等から資金調達をした後、2018年5月に投資家グループに売却、因みに同社の創業者 Hayley BarnaKatia BeauchampはBlue Apron CEOのMatt SalzbergのHBS同級生)などがありました。

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恐らくこの分野で一番の成功例はDollar Shave Clubでしょう。名前の通り、$1を払えば定期的にカミソリを送ってくれるというサービスです(当初のコンセプト、現在はもう少しプロダクトの種類も増えています)。立ち上げ時に創業者兼CEO自らが出演したこのビデオが話題を呼び、あっという間に人気になりました(上の写真はビデオから)。2012年に始まった同社はKleiner PerkinsやVenrock等から総額 $163Mを調達したのち、2016年7月にヨーロッパの大手消費者ブランドであるユニリーバに総額$1Bn(約1,100億円)で買収され、大きなリターンを投資家にもたらします。同時に、カミソリといった全く単純なプロダクトが、サブスクリプション+デリバリーモデルを導入することで大きな価値を生み出せる、ということをDollar Shave Clubは証明しました。

Blue Apron vs. Plated vs. Hello Fresh

背景説明がものすごく長くなりましたが、2012後半〜2013年始めにBlue Apron, Plated, Hello Freshの3社がNYCで立ち上がった頃は、この様なフードデリバリー領域でのイノベーションが期待され、またサブスクリプション+デリバリーモデルはシンプルだけれども、いかにパワフルかが証明されつつある時でした。ミールキットサービスが立ち上がり始めた時、投資家はフードデリバリー領域においてもサブスクリプション+デリバリーモデルが登場し、それが本当にワークするのかを見極めたい、と興味津々で見ていました。それは各社の資金調達にも現れています。

Blue Apronは元々、創業者の一人Matt SalzbergがBessemer Ventureで働いていたということもあり、2013年2月に$3M8月に更に$5MをBessemer, First Round Capital, Box Group(First RoundもBox Groupも創業は2004年、2007年と歴史は浅いですが、NYCでは著名なシードファンドです)から調達し、2013年後半には早速、西海岸にデリバリー範囲を広げていきます。前回も触れた通り、SalzbergのHBS同級生が始めたPlatedは、NYCを代表するアクセレレータのTechstarsの2013年春バッチに参加し、5月の卒業時にはTechstarsやff Ventures等から$1.4Mを調達しました。更に2014年1月頭にはLerer Hippeau等から追加で$5Mを調達しています。

ファンディングに関しては、元々はドイツで始まり、アメリカを含む複数の国で事業展開を始めたHello Freshが一番、アグレッシブでした。最初の資金はRocket Internetからでしたが、2012年12月には$10M2013年9月には追加で$7.5Mを主にヨーロッパの投資家から調達します。この積極的な資金調達には2つの側面があり、1つは扱うのが食材なので、ゲームと言ったデジタルコンテンツと比較して、材料の調達、パッケージング、デリバリーと言った、売上で回収するまでの運転資金が必要だった、ということ。もう1つは、ほぼ同じタイミングで類似サービスがNYCから立ち上がっているので、いかに競合より早く他地域で展開を開始するか、という競争の側面もありました。

この様なミールキットサービスを展開するのに当たって、必要なものはとてもシンプルです。1つは食材の調達、これには安定的に大量の食材を供給してくれる農家を探し出し、長期契約に持ち込む必要があります。2点目は全国に散らばる食材の加工・パッケージング・梱包・デリバリー等を行う調理兼配送センター。1つの場所で加工できる物量と配送できる範囲が限られているので、例えばアメリカ全土でサービスを展開するとなると1つでは足りず、5~10の調理兼配送センターを全国に確保し、且つ運営することになります。3点目にウェブサイトやカスタマーサポートです。ユーザーがメニューを選び、オーダーをし、配送状況を確認できる様なウェブサイトであり、アプリです。この為には配送センターとうまく繋ぎ、大量のオーダーを間違いなく処理する高度なオペレーションが必要となります。

他にもレシピを考えたり、味を追求したり、調理する方法を考慮したり等々の工夫は必要ですが、取り敢えず最低限、必要なのは上記3点のみです。ここからも分かる通り、これらは例えば新しい薬を開発する様な、またはGoogleの検索エンジンの裏のアルゴリズムの様な、特許で守ったり、他の誰かが絶対に真似できないと言った類のものではなく、うまくやれば何とかできるレベルのものです。その為、このミールキットサービスを世の中に広めたのは確実にこの3社なのですが、今後、新規参入組が殺到し、競争が激化していくことになります。2012年、2013年は正にミールキットサービスが立ち上がった年でした。次回は2014年以降の動きを追っていきたいと思います。

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