Metaverseの今、これから(2021年5月時点)

先週、ブレイクポイントさんとMoguraさんが共催されるFuture Tech MeetupにてMetaverseについて話をさせて頂く機会があり、折角なので、その時に説明で使ったスライドを一部、こちらで公開します。

今回、Metaverseについて色々と調べて分かった一番のポイントは、まだまだ発展途上のコンセプトで、明確な定義やプロダクトがある訳でもなく、全員が共通の理解、認識を持っている訳でもない、ということでした。

ただ、2020年頭にコロナが始まり、人々がゲームやデジタルの世界で過ごす時間が圧倒的に多くなり、Fortniteが流行り、Robloxが上場し、そういった背景の中で「Metaverse」という言葉だけが先行してメディアで取り上げられ、Metaverseって何だ?、という疑問を持つ人が出てきた、というのが現状かと思います。今回はそんなMetaverseを取り上げます。

What is "Metaverse"?

Metaverseの定義については他のnoteや記事でも多く書かれているので割愛しますが、Wikipediaでは以下の通りに書かれています。英語を和訳した文章も下記スライドに記載していますが、まあ、よく分からないですよね。因みにmetaというのはギリシャ語で"beyond"、verseはuniverseの一部を取ったものらしく、直訳すると"universe"の"beyond(後ろ)"にあるもの、という意味らしいです。

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ただ、誰がその言葉を初めて使ったかは分かっています。アメリカのSF作家Neal Stephensonがその人で、彼が1992年(まだ約20年前ですね)に書いたSF小説「Snow Crash」にて初めてmetaverseという単語が使われました。小説の舞台は近未来のLA、但し経済大恐慌でアメリカ政府は弱体しており、LAも既にアメリカの一部ではなく、とある民間企業によって支配されています。その中でMetaverseというのはVRで体験する別世界、という設定で描かれており、人々はヘッドセットを付け、好きなアバターを介してMetaverseを体験する、というものでした。作者は、1992年頃に普及をし始めていたインターネットというものを見て、その次に来るものは何なのか?を考えた結果、Metaverseというアイデアを小説で描いた訳です。

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Neal Stephensonが想像したMetaverseというものを、Snow Crashが出版される前に試みた人たちもいました。Habitat」というのがそれで、映画で有名なLucasFilmが1985年に子会社を通じて発表したものでした。個人のプロジェクトではなく、商業的なスケールを目指して作られたものとしては初で、コンピューターのバーチャルな空間の中で様々なユーザーがアバターを通じて交流する、というものでした。任天堂のファミコンが発売されたのが1983年とかなので、当時のコンピューターの性能から考えるとかなり野心的なものだったと思います。

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Snow Crash出版から約10年後の2003年にローンチされたSecond Lifeは恐らく一番、Metaverseに近かったものだと思います。最盛期には100万人のユーザーが集まり、今でも50万人程度のユーザーが毎月遊んでいると見られています(未上場会社であるLinden Labが運用しているため、数値は全て非開示)。

ここで冒頭の話に戻ります。Metaverseは1992年にSnow Crashという小説で描かれて以降、HabitatやSecond Lifeなど、それっぽいものはできてますが、"Metaverse"というプロダクトがローンチされた訳でもなく、技術が確立された訳でもなく、明確な定義がないため、皆が共通の理解を持っている訳ではないのです。人によってはFortnite(Fortniteを運営するゲーム会社Epic Gamesについてはこちらのnoteをご覧ください)がMetaverseだ、という人もいますし、Roblox = Metaverse(Robloxの詳細についてはこちらのnoteをご覧ください)、という人もいますし、はたまたVRこそがMetaverseだと考える人もいます。

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現在のMetaverseを定義する試み

ただ、一方でこの20年間でテクノロジーは相当進化し、特にコロナの影響もあり消費者行動も変わってきました。デジタル空間の中で何人もの他のユーザーと一緒に過ごすことが当たり前になってきました。そういったことを背景に、新たにMetaverseを定義しようとする試みもあります。Makers Fundという、我々もよく一緒に投資をするゲーム系VCでVenture Partner(パートタイムで働く形態、Venture Partnerの詳細についてはこちらのnoteをご覧ください)を務めるMatthew Ball(その前はAmazonのゲームスタジオで戦略担当)は自身のブログで、Metaverseとは以下の7つの特徴を体現しているもの、と定義しています。

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更には通常のゲームやバーチャルな世界、というだけではMetaverseではないと。永久に持続・存続し、何百万人というユーザーが同時アクセスができ、完全なる経済システムが存在し、これまでにない相互運用性(例:ゲーム間を自由に行き来できる仕組み)がないとダメだと。そういう観点ではMatthewが考えるMetaverseは、Second Lifeはもちろんのこと、ForniteやRobloxですら実現できていない訳です。

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それに対し、現在FacebookでリサーチャーをやっているMarc Geffenは、これも自身のブログで、バーチャル世界の普及、eCommerceの非集中化、リモートテックの普及等々から、Minimum Viable Product(MVP、一般的にプロダクトの原型となる最低限動くレベルのプロダクト)ならぬ Minimum Viable Metaverseはすでにこの世に存在している、と主張する人もいます。

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Robloxが考えるMetaverse(Roblox = metaverse)

恐らく一般的な見方として、一番、Metaverseに近いプロダクト、企業はRobloxとFortnite/Epic Gamesであることはあまり異論がない気がします。ただ、2つの会社が考えているMetaverseは全く世界観が違います。下記スライドではRobloxの概要を列挙していますが、詳細については以前、纏めたこちらのnoteをご覧ください。

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RobloxのCEO、David Baszuckiが考えるMetaverseは一言で言えばRoblox = Metaverseです。Davidはわざわざ今年2月のオンライン版Wired UKに「The Metaverse is coming」というタイトルで、自分の考えを寄稿している他、今年1月のGamesBeatというゲーム系カンファレンスに登壇し、Robloxが考えるMetaverseを自らが説明しています(記事はこちら、ビデオは以下)

その記事やビデオによれば、Robloxの中でクリエイターが作るたくさんの世界が集まって1つのMetaverseになる、という考えを示しています。そのために8つの要素が必要で、それらは下記のスライドにありますが、例えばIdentity(アバターシステム)、Variety(様々な体験)、Economy(クリエイターがマネタイズできる仕組み等)といったものが含まれている必要があり、まさにRobloxはその1つ1つをクオリティ高く達成すべく、日々邁進しています。

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Epic Gamesが目指すOpen Metaverse(Fornite ≠ Metaverse)

そしてEpic Gamesです。Epic Gamesは実はRobloxよりも更に創業が10年以上、古く(且つRobloxは今年上場していますが、Epicは未上場)、元々はゲーム会社として始まったので、創業者のTim Sweeneyも筋金入りのゲーマーです。一方でRobloxのDavid Baszuckiはコンピューター上で物理エンジンを作るところから入っているので、ゲーム会社というよりは教育者、研究者といった趣き、カルチャーに近いです。Epic Gamesの創業等については、こちらのnoteをご覧ください。

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Tim SweeneyがMetaverseについて深く考えるようになったのは2017年頃、Forniteが爆発的にヒットしてからだったそうです。それ以降、Timは様々なカンファレンス等の公の場でOpen Metaverseの可能性について言及し続けています。一番、新しいのが、上でも触れた今年1月のGamesBeatだった訳ですが、そこでも基本的にはこれまでと同じことを言っています(記事はこちら、ビデオは以下)。

まず、驚くべきことは、彼が考えるMetaverseは、Epic Gamesと言った一企業がコントロールするのではなく、参加者全員によってコントロールされるべきであると。そしてユーザーも例えばFornite内で買ったものをRobloxでも使えるべきだし、Minecraftで販売できるべき、というかなりオープンな思想を持っています。それぞれの世界がclosedでその中で完結されるのではなく、全てが共有される世界に移行すべきだ、即ちそれがMetaverseである、と言っている訳です。Matthewが言う、これまでにない相互運用性(interoperability)が実現されるべきだとTimも思っている訳です。

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そう言う観点では、ブロックチェーン技術やNFT(Non-fungible Tokens、NFTについてはPodcastを一緒にやっているHike Ventures 安田さんのnoteをご覧ください)との相性がすごく良い訳ですが、技術的な課題はまだまだ残ります。また、TimはForniteでさえ、まだ同時に100人のユーザーがしか1つの世界を共有できないことに限界を感じています。100人ではまだまだダメで、数万人、数百万人のユーザーが同じデジタル空間にいれるべきであると。この点でも上述のMatthew Ballが考えるMetaverseと、Tim Sweeneyが考えるMetaverseは大分、近いものがあることが分かります。

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Metaverse Value-chain & Market Map

Metaverseをもっと構造的に捉えようとしている人もいます。Jon RadoffBeamableというゲームのバックエンドをサポートするインフラを提供しているスタートアップのCEOですが、彼は一連のブログの中で、Metaverseには一番下のインフラ技術から、ユーザーが接する体験まで、7つのレイヤーがある、と説明します。

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そして、別のブログでは、それぞれのレイヤーの主要プレイヤーをMarket Mapとして公開しています。

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GFR Fundが注目するプレイヤー

Metaverseの中で我々、GFR Fundが注目するプレイヤーもいくつかあります。上のValu-chainで言うインフラレイヤーでは、イギリスのImprobable、SFで、直近のY Combinatorを卒業したDreamWorldなどがあります(詳細は下記スライドにて、本文では割愛します)。

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体験そのものでは、FortniteとRobloxの2つが先頭を走っていますが、2番手層としてはPCゲームのManticore Games、VRではRec Room(運営会社はAgainst Gravity)、下記スライドにはないですが我々が投資しているVRChatの3社があります。

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同じ体験ですが、ブロックチェーン技術で作られたMetaverseの大手としてはDecentralandThe Sandbox等があります。

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Creator Economyのレイヤーに当たるアバタープラットフォームとして、多くのゲーム会社等に使われているのがTafi、それをブロックチェーン技術でやろうとしているのがCrucibleです。

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最後に、一部宣伝が入りますが、エンタメの領域においてそれをやろうとしているのが、音楽のバーチャルライブを提供するWave、デジタルファッションブランドのRTFKT(両社ともGFRの投資先)、などがあります。

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まとめ:What is "Metaverse"?

主要なプレイヤーのMetaverse感を見てきましたが、それぞれがかなりバラバラでまだまだ、コンセプトとしてプロダクトとしてもMetaverseは発展途上である、と言うことがお分かり頂けたかと思います。ただ、大きな思想の違いは、全ての体験を跨ぐものであるべきだと言うOpen Metaverseの思想と、1つ体験(例:Roblox)= Metaverse、と考えるClosed Metaverse(人よってはそれはUniverseであってMetaverseでない、と言う人もいます)の思想、の2つの相反する考え方がある、と言うことだと思います。

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Metaverseがどのような形で実現されるかは今後、徐々に見えてくると思いますが、投資家/VCが明らかに注目している領域ではあり、今後、多くの投資がなされるであろうことは容易に想像が付きますね。それはそれで楽しみです。

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