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Startup Story: Giphy - 2013年創業からFacebookに買収されるまで(前半)

Giphy

Giphyという会社は日本ではそこまで知られていないかもしれません。GIF(日本語で"ギフ"と発音します)という写真の様なビデオの様なファイルを検索するサイトして2013年に始まり、つい先週Facebookによって$400M(約440億円)で買収された会社です。ただ、下の様な動く写真の様なもの(これをAnimated GIF、ただ一般的にGIFと呼んでます)は皆さんも見たことがあるのではないでしょうか?今回、Startup Story第一弾としてこのGiphyを取り上げたいと思います。書き始めたら案の定、長くなってしまったので2回に分けて投稿します。

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Animated GIF

スタートアップが始まる時に、why now?、という質問が良く聞かれます。我々投資家もそれはすごく気にします。なぜ10年前でも5年前でもなく、3年後でもなく、なぜ今そのプロダクトを始めるのか?という問いです。Giphyが始まったのは2013年2月でしたが、その時もこの様なサービスが求められる背景がありました。GIF自体はGrahpic Interchange Formatの略で、歴史は1987年まで遡り、画像を表示できるファイルフォーマットの1つでしたが、複数のフレームを順に表示できるというユニークな機能がついていました。この機能を使うことで、写真のファイルですが、短いビデオ(但し音声はなし)の様に映像を流すことができました。

このGIFが圧倒的に流行り出したのはTumblrという、2007年に始まったマイクロブログサービスでした。ここで様々なクリエイターがビデオファイルからミニクリップにしたGIFファイルを作ってはTumblrにて共有していました。そのTumblrは2013年5月に当時のYahooに$1.1Bn(約1,200億円)で買収される訳ですが、その話についてはまた今度。

そのTumblrから始まったAnimated GIFは2013年頃にはアメリカで良く使われる表現方法の1つになっていましたが、世の中に無数に存在するものの、自分が表現したいもの(例:Happy Birthdayのメッセージを送りたい)を簡単に見つける方法がない、というのがGiphyが着目した問題点でした。

二人の創業者とBetaworks

GiphyはAlex ChungJace Cookeという二人のシリアルアントレプレナーが組むことから始まります。Alexは最初はインテルのハードウェアエンジニアとしてキャリアを始め、その後MTVやComcast等のメディア企業を経て、アート作品のオンラインマーケットプレイス ArtspaceやソーシャルイベントのFridge(2010年夏にY Combinator卒業後、2011年7月にGoogleが買収)等の立ち上げに関わった後、Giphyのアイデアを思いつきます。

Jaceの方はあまり詳しい情報が見つけられなかったのですが(不思議なことにAlexもJaceもアメリカでは一般的なLinkedinのプロフィールがありませんでした)、Giphy創業の直前にはHot PotatoというFoursquareの様な会社を立ち上げ、それを2010年8月にFacebookに売却しています。

Giphy誕生の有名な話としてAlexとJaceがそのアイデアを思いついた時、彼らはBetaworks Studioという、NYCにある著名なスタートアップスタジオのプログラムに参加していました。BetaworksはVCとして投資もするのですが、様々なアントレプレナーを招いて、そこで自由にビジネスアイデアを考えて貰い、二人目、三人目のco-founderに近い形で創業を支援します。因みに我々も良くBetaworksとは一緒に投資しており(AR系でFrontdoor社に昨年12月に買収されたStreemや、eSports系のThe Meta等)、信頼しているシードファンドの1つです。

AlexとJaceが2012年12月からBetaworksに参加し、次のアイデアを考えていた時、2013年2月のとある朝、二人で朝食を食べている時に、この「GIFが探しにくい」という問題に気付きました。その後、すぐにプロトタイプを作り、とある週の金曜日に近しい友人4人にそのサイトをシェアしたところ、友人の一人がそれを公開してしまい、その結果、その週末だけで100万人近いユーザーがサイトを訪れたそうです。二人は、これは何か大きなものになるかもしれない、と考えました。

Series A Fundingと立ち上げ

Betaworksのプログラムはいずれは外部からの資金調達を行い、”卒業”することが求められているので、Giphyもその道を辿ります。ローンチから約14ヶ月後の2014年5月に自らのブログでBetaworksに加え、Lerer Hippeau, RRE Ventures(2つともNYCを代表するVCです)及びCAA VenturesCreative Artists Agencyという俳優やスポーツ選手のマネジメントを行うエージェンシーの投資部門)から総額$2.5Mを調達したことを発表しました。

AlexがTechCrunchで語っていますが、その時にはかなりの投資家が殺到した様です。それでもBetaworksは会社の過半数を維持、これは投資リターンを考える上では大きいですね。また、当時は$2.5MでもまだSeries Aだったのは面白い。もし2019年/2020年であれば、$2.5Mはまだシードという感じでしょうし、oversubscribed(投資家が殺到して、スタートアップが調達したい金額よりも、投資のオファーの金額が上回る状態)なのであれば、言われるがままに資金を受け入れて、$10M Series Aとかになっていてもおかしくないですね。

何はともあれ、資金調達と前後してプロダクトも検索エンジンから拡大していきます。立ち上がり当初は単純に公開されているGIFを探すだけだったのですが、手始めにFacebookと連携し、ユーザーがFacebook上でGiphy上で探したGIFを簡単に投稿することが可能となり、その後、Twitterでも同じ様に投稿が可能になります。

この頃(2014年9月)にLINEとの提携も発表しています。提携というか、正確には共同でスティッカーデザインコンテストの開催を行っただけの様なので、どれほど深いものなのかはちょっと分かりませんでした。

Facebookの最初のオファーとSeries B Funding

GIFの普及が高まるにつれ他のスタートアップもこの領域に入ってきましたが、2014年終わり頃にはGiphyはGIFを探すためには事実上のデファクトプラットフォームになっていました。毎月30億のファイルが検索され、投稿されていたそうで、1日に1億ファイルと考えるとすごい量です。ただ、Giphyは当初から大手プラットフォーム(FacebookやTwitter等)にAPIを提供するという形を取っていたので、必ずしも物理的にユーザー全てが同社サイトに来ていた訳ではなく(ユーザーはFacebookやTwitter上で利用する)、APIを通じたアクセス数もここに含まれます。いずれにせよ、検索&投稿のみでこのトラクションはすごいですね。

当時から、Facebookからのトラフィックが圧倒的に多かったので、この2014年末の時点で一度、Facebookから買収オファーがあった様で、Giphyはこれを蹴って、代わりにLightspeedGeneral Catalyst(2つともシリコンバレーを代表するVC、両社とも早期にSnapchatに投資していたことから、この領域を良く理解していたと思われる)等から総額$17M Series Bを$80Mのバリュエーションで調達します(2015年1月発表)。創業2年で$80Mというのは当時では驚異的な成長ですが、上記の通りユーザートラクションはすごいものの、この時点ではまだマネタイズの目処すら立ってなかったのは興味深いです。

また、この時点で未対応だったのはモバイルです。当時、Giphyはスマホのアプリがなく、全てウェブで対応していました。その動きを加速化させるため、2015年3月にGIFのメッセージングアプリを運営するNutmegというSFベースの会社を買収します。同時にFacebookが同じタイミングで発表をしたFacebook Messengerの開発プラットフォームのオープン化に伴い、数少ない開発パートナーとしてこれに参加しています。

そして、同じ年の9月には待望のスマホ上でビデオから簡単にGIFが作れるアプリ、Giphy Camもローンチしました。これにより、GIFの作成・検索・投稿までが一気通貫でできる様になりました。この時点ではFacebook, Twiの他、SlackやGmail等、大手プラットフォームのほぼ全てに対応していました。

Series C&D Funding~総額$127Mの調達

2016年には更に2度の資金調達を行っています。2016年当時はミニバブルの真っ只中でしたし、GiphyはFacebookからの買収提案もあり、将来的にリターンが確実に見込めそうということでVCが殺到したであろう様子が容易に想像できます。

手始めに2016年2月にSeries Bリードと同じLightspeedがリードとなり、既存投資家及びGoogle Venturesが参加して、総額$55Mを調達します。この時点でのバリュエーションは$300M。そして、そこで終わらずに更に同じ年の10月に今度はレイターステージのVCであるIVPDFJ Growth等から総額$72M、合計で$127Mの調達を行いました。バリュエーションは8ヶ月しか経っていないのに2倍の$600M。

2016年当時、アメリカのスタートアップ村の雰囲気としては、調達できる時に調達できるだけ調達せよ、というもので、資金調達が終わったらすぐに次のラウンドの調達を始める、といったことが良く行われていました。Giphyの件もご多分に漏れず、2016年2月のラウンドが終わったタイミングで次の調達を始めたのではないかと推察します。恐らくそれだけの出資オファーが投資家側からあったのだと思います。

ただ、この$127Mの調達は明らかに用途を考えずのものでした。僕の投資家としての考え方は18~24ヶ月分の運転資金を調達し、きちんとマイルストーンを達成したら次の調達に動くべき、というものなのですが、投資家からのリクエストがあるままに調達している投資先を見るとすごく心配になります。それは絶対に不要な部分での支出を伴うからです。

2016年10月にGiphy自らが発表したこちらの数値や取組は示唆に富んでます。DAU(Daily Active User)は1億人、1日当たり取り扱うGIFは10億、とその数値自体は驚異的ではありますが、他にはLos Angelsに自らGIFを作るためのGiphy Studiosを設立、メディア会社向けにGIFを作るツールの拡充、そしてこれらを全て無料で提供しており、2016年当時、売上はまだゼロでした。そう、売上ゼロですが、バリュエーションは$600Mまで跳ね上がっています。会社としても投資家としても、早急にマネタイズに本格的に取り組む必要があるとの思いを胸に2017年を迎えます。続きは後半にて。

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