股関節機能に着目したグローインペインに対する理学療法
「股関節が詰まる感じがする。」
「ずっと昔から股関節は固かった。」
このように慢性的な股関節の硬さや違和感もしくは痛みを抱え、悩んでいる人は非常に多い印象です。
サッカーを中心としたスポーツ競技者や愛好家の方達も慢性的な股関節の症状に悩まされ、プレーのパフォーマンスレベル低下や中断を余儀無くされることも多いです。
慢性的な股関節の硬さや痛みに悩むケース多くは、その共通項として以下のような特徴があると感じています。
このような特徴的な所見は、股関節前方インピンジメントなどにつながりやすく股関節痛や機能不全の原因になります。
今回は、股関節の解剖学・運動学を整理しながら股関節痛(グローインペイン症候群)に対する理学療法についてまとめていきたいと思います。
基本的な股関節機能
|大腿骨頭の求心位
寛骨臼の中心と大腿骨頭の中心はお互い一致する位置関係(求心位)にあります。
股関節のインピンジメントを防いだり、関節にかかる応力を全体的に分散できるのも、求心位を保てているからと考えられています。
股関節の後下方の関節包・靭帯・筋などの軟部組織の柔軟性低下が原因となり、屈曲や内転運動時に骨頭が前方変位する力が加わると考えられています。
|求心位を保持する筋機能
肩関節における腱板筋群(ローテーターカフ)のように股関節にもいわゆるインナーマッスルが存在すると考えられています。
以下の筋肉は、求心位を保持するための機能を有しており、ローテーターカフのような働きをしていると考えられています。
|股関節における副運動
股関節屈曲運動中には、大腿骨頭は内旋方向(後方)へ滑るような動きが求められると考えられています。
この後方滑り運動の制限は、股関節運動中の求心位逸脱の原因の一つとして考えられています。
|骨盤大腿リズム
股関節運動では、骨盤の後傾をともないます。
骨盤大腿リズムと呼ばれ、骨盤の協調した動きによってインピンジメントが回避され、運動範囲を拡大することができます。
慢性的な股関節の硬さに悩むケースほど、この要素の制限が強い場合が多い印象です。
|股関節・脊柱・肩甲骨の連動
骨盤大腿リズムを最大限に活かすには、胸椎を中心とした脊柱および肩甲骨の連動性が重要になると考えられています。
股関節の三次元的な動きに対応して骨盤を追従させるためには、脊柱にも三次元的な動きが要求される。そうなると腰椎のみでは自ずと制限があり、胸椎の重要性が高まる。(中略)腰椎を過剰なストレスから守るためにも胸椎を運動に参加させ、脊柱内でもストレスを分散させる必要がある。
(引用:「股関節 協調と分散から捉える」)
局所にこだわらず患部外機能に対しても対応できるように広い視野を持ってアプローチしていく必要がありますね。
グローインペインと股関節機能
・グローインペインとは
グローインペインの定義は仁賀が以下のように提唱しています。
「何らかの理由で生じた全身的機能不全が鼡径周辺部の器質的疾患発生に関与し、運動時に鼡径部周辺部にさまざまな痛みを起こす症候群」
(引用「鼠径部痛症候群の新しい定義と身体の連動に着目した問診診察」)
2014年にグローインペインの診断と分類の明確化を目的としたドーハ会議にて新たな疾患概念と分類が提唱されました。(ドーハ分類)
ドーハ分類に類似した疾患は多数あり、グローインペインへのアプローチを行う場合、それら類似疾患との鑑別を適切に行う必要があります。
・グローインペインにつながる原因
サッカー選手がグローインペインに悩まされる原因として、冒頭で紹介した股関節の機能不全(骨頭の前方変位など)に加え、キック時の不良動作もあげられます。
不良動作の一つにクロスモーションの制限が挙げられます。
クロスモーションと呼ばれる下肢の振りに連動した上肢・体幹運動の制限は、股関節への負担を増大させると考えられています。
クロスモーションが制限されているサッカー選手の多くは、胸椎・胸郭の可動域に問題を抱えていることが多く、クロスモーション制限の直接的な原因の一つとして考えられます。
グローインペインに対する理学療法評価のポイント
グローインペインは全身の協調性の破綻から患部へ負担がかかり痛みにつながります。
そのため、全身の機能を評価していかなければなりませんが、評価で一番重要となるのは、どの組織に病態を抱えているか明確にしていくことです。
骨組織の病態もしくは軟部組織の病態なのか明確にすることは、復帰までの時期を左右する要素です。
また、クロスモーションの制限因子は、股関節の問題、脊柱(胸椎)の問題、協調性(脊柱分離)の問題など多岐に渡ります。
これらの問題をひとつひとつ明確にした上でトレーニングを行うことで、より効果的なアプローチを行うことができるようになります。
病態・股関節機能評価
ここでは、股関節痛につながる病態がどの組織に存在するのかをスクリーニング評価します。
画像診断結果も合わせて評価することで、より明確な確定診断を行えるようになります。
骨や靭帯に対しては、触診による圧痛を評価しスクリーニングを行います。
筋に対しては抵抗テストを行い、収縮時痛の有無を評価しスクリーニングを行います。
骨組織と靭帯組織や筋組織はそれぞれ治癒過程が異なり、病態に応じたアプローチを行う必要があるため、ここで行う評価は重要なものとなります。
理学療法評価フローチャート
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