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39番目の夢

数々の音楽に助けられて生きてきたはずなんだけど、思い返すと最初に自分で買ったCDが全く思い出せない、おかしい。音楽さんに申し訳ない。
言い訳すると、そもそも中学の時の記憶があんまりないのだ。

そこで記憶の限り家にあったCDのタイトルや年代を調べながら、
いったい何を聴いていたのか、ゆっくり思い返してみることにした。

◇◇

中学生の時くらいだろうか。
父がゴルフの賞品で取ってきたラジカセをもらい、
そこからCDを聴くようになった。

聴き始めは、一人暮らしで家を出た姉が置いていったCD。
そうだあれは、川村かおりさんのものだった。
ネットで色々探して、やっと見つけた。

Hippies。

彼女の有名曲「ZOO」と「翼をください」のちょうど間、
1990年にリリースされてた。
中のリーフレットには、
アフリカだかの民族が危険を避けるために使う記号とその意味、
川村かおりさんのエネルギーのこもった写真、メッセージ。
当時まだあまり触れられていなかったエイズなどについても語ってる。
寂しさと同時に入ってくる、美しさ、強さ。
異世界を見せられて強烈な印象だったのを思い出した。


そういえばわたしの姉は、外見も川村かおりさんにそっくりだった。
短い髪、日本人離れした顔立ち、
ハイウエストのデニムに大き目のTシャツ。

彼女はとても美しく、いつも闘っていた。

子どものわたしにはよく分からない事情で人生に振り回されている、
他の妹弟を巻き込まないようにと必死で生きている、
それだけがはっきりしていることだった。

小学生の時、初めて連れていってくれた映画館で
隣に座った男の人に痴漢された彼女は
上映中なのも気に留めず、
堂々とその痴漢男を大声で怒鳴りつけ帰らせた。


「ちょっと荷物持っててくれる?」
わたしにはそれだけしか言わなかった彼女は
その時もわたしの手の届かない外の世界で
たくましく闘い、強く、美しかった。
羨ましかった。


Hippiesに込められたものは
中学生にはなかなか衝撃的なメッセージだったけど
姉の考えてることを少し教えてもらったような気がして
深さのはかれない苦悩を想って泣いた。

「あんたもいつか分かる」

そういう想いで置いていかれたのか
もう彼女には必要ないと過去を振り切るような意味だったのか
もしかしたらなーんにも意味なんてなかったのかもしれないけど

きっとわたしは何度も何度もこのCDを再生していたのだろう、
前奏を聴けばすぐに分かるくらい
今も脳みその奥の奥のほうに刻まれている。

◇◇

兄はたしかKANさんの「愛は勝つ」と、森口博子さんのガンダムの映画のテーマソングを買ってほくほくとしていたのを覚えている。

流行ってたし、それぞれとても良い曲だと思うけど
あまりにイメージが遠くて、
かけ離れた人たちだなぁと思った。

よく考えたら、本当にかけ離れているのだ。

いつも姉の真似をして、恰好つけて
やることなすことだいたい全部成功して
何でもいちばん、母の愛も父のヤキモチも
一身に受けながらエリート街道を進む兄には
アフリカの人たちが仲間に危険を知らせるサインも
姉を彷彿とさせる美しい人のリアルも
必要ではなかったのだろう、
聴いてるのも手に取っているのすら見たことはない。


初めて挫折を味わい、家で腐る兄は
姉の苦悩を勝手に自分のものに変換して怒っていた。

安心安全、いつも一番で生きてきたこの人にいったい何がわかるのだ?
失敗してもなお、一番だと母からもてはやされる彼に。
行き場のない自分への怒りをぶつけるのに
姉を使うのは大間違いだと、私は大いに怒った。


兄の悪口はこれで終わり。
迷走する時期は誰にでもある。

◇◇


その後も姉は自分だけ、
人に迷惑をかけまいとしていたのか
最終的には彼女は突如姿を消した。

彼女の意思が明確に
「No」と言っている気がしたから
探すことはしなかった。

自由を手に入れたのならば素晴らしいことだから
はじめからいなかったことにしといたらいいのかなって
無理やりな解釈でほったらかしてあげることにした。

4年後に突然電話をかけてきた彼女には
馬鹿のふりをして笑うしか、方法が思いつかなかった。

その間も様々な事情に囲まれて
やっぱりわたしの世界の外で闘っていた彼女は
ずたずたにくたびれて帰ってくることになったけれど
彼女にかける言葉なんて、ひとつも見つけられないのだ。
馬鹿のふりをして笑うしか、相変わらずできないのだ。


◇◇

廃盤になったこの Hippies という作品。
Memorial Best ”39番目の夢”というビデオクリップに収録されたそうだが、そこで思い出した。

39番目の夢、という曲が入っていた。


川村かおりさんが、願いをひとつひとつしたためていく。
世界と自分のことを、人間と生き物のことを、
宗教と戦争のことを、傷つけてしまった誰かのことを。

これが、わたしの原点のひとつになっていた。
忘れてたくせによく言うよね、と我ながら思うけれど

こんなに素直でまっすぐな想いを
世の中に投げられる彼女は
やっぱりやっぱり、
たくましく闘い、強く、美しかった。
羨ましいのだ。


自分もそうでありたいと、
そうであっていいのだと、
奥底から上がってくる何かの波を感じながら
それを感じるに任せてみる時間はとても愛しかった。

39番目の夢。


色褪せない力、グッとくるはず。
ぜひ聴いてみて欲しいな。

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