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製造業スタートアップが成功するポイントとは。還暦で起業し、上場を果たしたイーディーピー藤森氏に聞く

TEP Deep Tech Journal

人工ダイヤモンドの可能性を広げる優れた技術を持ち、世界中のメーカーや研究者から熱視線を浴びている「株式会社イーディーピー(以下、イーディーピー)」。イーディーピーは見事、創業から13年目の2022年6月27日に東京証券取引所グロース市場に上場を果たしました。

今回はイーディーピーの代表取締役社長 藤森 直治氏と、イーディーピーをシード期から支えるTEPのエンジェル会員である北城 恪太郎氏(元日本アイ・ビー・エム㈱社長、会長。元経済同友会代表幹事。)が対談。イーディーピーの歩みを振り返りつつ、製造業スタートアップの支援の現状などについて語って頂きました。

ダイヤモンドの可能性を求め、還暦で起業

――藤森さんがイーディーピーを創業された経緯を教えてください。

藤森氏(以下、藤森):私は大手製造企業に勤務していまして、主としてエレクトロニクスに関連する素材や部品の、研究開発から製品化、更には事業部運営までを手掛けておりました。その中の一つが「ダイヤモンド」で、40年前からかかわっていました。その後、ダイヤモンドに関するプロジェクトに関わることとなり、産業技術総合研究所(以下、産総研)に新たに設立されたダイヤモンド研究センターのセンター長に招聘されました。産総研では、ダイヤモンドのエレクトロニクス応用等をテーマとし、必要な素材についても研究を行いました。

素材としてのダイヤモンドは非常に優れた性質を持っており、人類に大きく貢献できるポテンシャルを秘めているにも関わらず「活用しきれていない」という葛藤を、長年ダイヤモンドに携わる中で抱いていたんです。

このような課題意識に、当時から産総研が起業支援を行っていたことや、産総研で技術を培えたことなどが重なり、2009年9月に60歳でイーディーピーを創業しました。

――お二人はどのようにして出会われたのでしょうか。

北城氏(以下、北城):産総研の理事長をされていた吉川弘之先生から、「産総研発のベンチャー企業がなかなか成功していない。応援して欲しい」とお声掛けをいただきました。そこで、8社ほどの企業とお話させていただいたのですが、その中で最も成長性を感じたのが藤森さんのイーディーピーだったんです。半導体向けのダイヤモンド基板事業が花開けば、夢があるんじゃないかと思ったんです。そして、「この会社を応援しよう!」ということで、私が社外取締役に就任し、出資をさせていただいたのが藤森さんとの出会いでした。

TEPエンジェル会員 北城 恪太郎氏

スタートアップが成功するかどうかは社長次第。意欲と人柄がポイント

――ちょうど同時期に、TEPのプレゼン会でもご登壇頂き、北城さんを含む複数名のエンジェル会員が出資を決めています。北城さんはイーディーピーさんの事業の将来性に魅力を感じ、出資されたのですね

北城:そうです。ただ、藤森さんのお人柄と豊富な実績や経験が、応援させていただいた前提にはあります。

結局、ベンチャー企業が成功するかどうかは社長次第なんです。経験・知識・技術は当然必要なのですが、社長の“事業を成功させたい”という「強い意欲」や途中で挫折しないという「前向きな人柄」がなければベンチャー企業は成功しません。その点、藤森さんには経験・知識・技術はもちろん、誠実に事業にチャレンジしてくださる意欲とお人柄を感じることができました。藤森さんは例え、当初描いていた構想通りに事業が進まなかったとしても、挑戦を続けられる方だな、と思うことができたんです。

――実際、当初の構想通り事業は展開されたのでしょうか。

藤森:当初は、「主に半導体向けのダイヤモンド基板を生産・販売していく」という構想を描いていました。しかし、2014年頃から事業の方向転換を行い、現在はダイヤモンド宝石向けの原料の製造・販売が事業の柱になっています。たしかに、思ってもみない展開ではありましたが、単純に私の読みとは異なった未来になった、というだけのこと。当初の構想とは異なるものの、“ダイヤモンドを広く使っていただきたい”という私の思いは実現できております。

――どのように判断して、半導体事業からダイヤモンド宝石事業へ方向転換することを決意されたのでしょうか。

藤森:ダイヤモンド宝石ビジネスは大きな市場が存在し、真珠と同じように人工に移行する可能性が高いと思っていました。当時は人工ダイヤモンド宝石に関する情報や事業者は決して多くありませんでした。そのため、私たちが事業の方向転換にあたって集めた情報も、かなりの精査が必要でしたね。ユーザーの言うことをうのみにすることや、1社の情報だけを信用して行動することは、しませんでした。一気に軸足を移したというわけではなく、半導体向けのダイヤモンド基板の開発も並行して行っていました。

――事業の方向転換という判断には、民間企業での経験も活かされていたのでしょうか。

藤森:もちろんです。私自身、民間企業時代は長年ダイヤモンド製品に係る業務に取り組んでおりましたから、ある程度の業界の知識は持っているたんです。また私が販売していた製品は私が開発したもので、その多くが世界初の製品でした。世界初の製品を売るのは簡単なことではありませんし、リスクもあります。このような実務経験を活かし、短期的な売れた・売れないに一喜一憂することなく、長期的な視点で経営戦略を検討した結果だと思います。

――民間企業でのビジネス経験で活かされたものは他にありますか。

藤森:開発だけでなく製造に関わる経験があるのも大きいかと考えます。製造は人員を集めればすぐに始められるものではないですから。

北城:「開発」と「製造」は、“開発したものは製造できる”というように、必ずしもセットではないんです。例え開発で上手くいったとしても、製造するには製造技術が必要です。一人で開発・製造の両領域をしっかり把握している人材はそう多くはないのですが、藤森さんにはその両方の経験に加え、財務状況を見る力もあります。藤森さんお一人で企業の幅広い領域をカバーすることができていたんです。

一方、製造業のベンチャー企業が成功するには、社長の右腕となる製造担当の役員や財務担当の役員など、チームとしての体制を整えることも重要です。イーディーピーはチームとしてより機能するようになったからこそ、今回上場を果たせたのではないかと思っております。

多様なバックグラウンドを持つ人との人脈が大切

――藤森さんのご経験上、起業にはどのような経験が重要と考えますか?
 
藤森:さまざまな経営フェーズにおける経験をするに越したことはないと思います。若いうちに経営について学べれば、起業する時の考えるべきポイントが明確になります。また、製造業を起業するなら、生産についての経験は非常に大事です。

少し話はズレますが、日本の大学や研究機関に属する研究者の方々は、あまりご自身の研究領域の外へ出ていかない傾向がありますよね。そのため、自分の世界の外の経験や知識を身につけることが難しいと言えます。この点は日本の研究者が属する組織や研究者自身の特性であり、起業したい人は自ら外の世界と積極的にかかわるべきだと考えます。可能なら一旦企業を経験していた方が、研究成果を実用化するには有利だと思います。

北城:アメリカのベンチャー企業で成功事例が多いのは、自身の領域外にいる人々との人脈を作りやすい環境があるのも大きいのです。例えばハーバード大学では理系・文系問わず、さまざまな知識を持つ優秀な人が同じ寮で生活しています。寮には研究者もいれば、マーケターもいれば、人事業務ができる人もいる。多様なバックグラウンドを持つ人々との人脈を構築し、起業してもチームとして機能させることができるんです。

一方、日本の大学の学生は学部毎に縦割りで学んでいますし、寮もあまりありません。自身と異なる知識・スキルを持つ仲間をつくりづらいため、なかなかチームを作るのが難しいんです。

藤森:私自身は民間企業にいたこともあり、ユーザーとも様々な交渉をしていましたし、学会へ参加して、その分野の専門家との交流も図っておりました。多様な人と話すなかで、研究成果の見方や、実用化への道筋、等の起業に関わる判断要素を学ぶことも出来ました。

イーディーピー代表取締役社長 藤森 直治氏

創業時はとにかくお金がなくて大変だった

――イーディーピーを創業されて、創業時一番大変だったことは何ですか?

藤森:大変だったことはいくらでもありますが…やはり「お金がない」のは苦労しました。私たちは製造業ですので、製造装置が必須なんですね。とくにイーディーピーは材料を製造しているので、資金を調達して装置を購入し、製造が出来るようになって初めてユーザーとビジネスの話が出来るようになります。

そのため、私どもは創業してから10年の間に、人脈をたどって様々な企業や、ベンチャーキャピタルなどから出資を頂き、日本政策金融公庫からは融資を受けました。売上が増え、利益が出てくると、借り入れもできるようになり、徐々に資金繰りは改善されていきました。製造業ベンチャーにとっては、創業当初はとにかく資金調達が大変だと思います。

北城:イーディーピーの場合は、当初は産総研の設備も上手く活用しながら、事業の継続性や将来性をアピールすることで、ベンチャーキャピタルからの投資を受けることができました。

エンジェル投資については、成功するかどうかわからない企業へは、なかなか投資家は高額投資をしにくいのが現状です。もちろん、事業として成立することが分かれば、一定の金額の投資は行われますが、多くの場合、創業時点でエンジェル投資家が投資する資金は1000万円〜2000万円程度まででしょう。

藤森:創業当初にベンチャーへの投資金額が絞られるのは、資金が豊富なベンチャーキャピタルも同様です。日本では“ベンチャーキャピタルのA社が投資したのだから”という理由で、ほかのベンチャーキャピタルも投資をしてくれるケースもあるため、金額の大小は置いておいて、まずは出資していただくこと自体に価値があると考えます。

銀行からはなかなか融資を受けられませんでした。経営者が個人保証をすれば、ある程度の金額の融資を受けられるのですが、当社のように投資規模が大きい製造業の場合には、私のような普通の会社員では、個人保証できる範囲は越えていました。

北城:日本の金融機関は、とくに相手が中小企業の場合、経営者へ個人保証を求めるんです。ただベンチャー企業の経営者としては、家も土地もなくなってしまうようなリスクを取りながら、なかなかチャレンジはできませんよね。

一方、金融機関は金利収入で経営をしているわけですから、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルのように、ハイリスクな企業へ投資をするのはもともと無理があります。

よりベンチャー企業の成功事例を増やすためには、金融機関の融資に頼るのではなく、創業時によりリスクマネーが集まるような仕組みを整備することが大切だと考えます。

スタートアップを応援するムードの醸成が大切

――今後より多くスタートアップが成長するためには、資金調達面以外に、どのような点が課題になると考えますか?

藤森:先ほど北城さんから人脈の話がありましたが、日本は労働流動性が低いために、人材確保が難しい点は課題ですね。

スタートアップに限らず企業には経営に精通した人材や営業をする人材がほしいところです。また経理や総務、人事業務ができる人間も必要でしょう。製造業であれば開発や工場運営、製産管理などをする人材も必要です。

ただ普通に企業などで働いている方が、将来性もわからないスタートアップでいきなり働くかというと、なかなか簡単に決断できないでしょう。また、たまたま働いてくれる人が見つかったとしても、スキル・経験が伴っているかはまた別の話です。その意味でもベンチャー企業にとって、人材確保は非常に大きな課題ですね。

北城:労働流動性は高めるべきですね。それはベンチャー企業がどうこうという話に留まらず、成長産業へ人材が移っていかないと日本経済がなかなか発展していけないためでもあります。

一方、労働流動性を高めたからといって、ベンチャー企業に人が集まるかというと、それはまた別の話。実際はなかなか集まらないでしょう。

そのため、「ベンチャー企業やスタートアップ企業が何かを成し遂げるために立ち上がり、チャレンジすることは素晴らしいことなんだ」という社会的なムードの醸成も必要なのではないでしょうか。この文脈で、2022年8月にスタートアップ担当大臣が新設されたことは歓迎すべきことだと思います。

――政府としても、経済産業省がスタートアップ支援として複数の支援策を出していますよね。

北城:支援策があることは良いことだとは思います。ただ、優れた支援策の情報が世間に伝わっていないために、スタートアップ支援のムードが醸成されないように思います。

例えば、「エンジェル税制」という税制上の優遇措置を行う制度があります。これは「ベンチャー企業への投資額-2,000円」をその年の所得から控除するというもの。アメリカでは、エンジェル投資をして損失が出た場合に、その分所得から控除してくれる「損益通算」ができるに留まります。それが日本の場合は投資をしただけで所得から控除されるという、恵まれた制度があるにも関わらず、多くの人は知らないです。そして知らないから使わない。

スタートアップ支援をより活性化させるためには、エンジェル税制を含めた支援策のPRが必須だと考えます。

還暦を超えても起業のチャンス

――ちなみに、現在73歳の藤森さんは、60代でイーディーピーを創業されました。60代の起業についてどう思われますか?

北城:60歳を超えて創業された方って素晴らしいですよね。もちろん、若い人がスタートアップを興すことも素晴らしいことではありますが、退職金や年金を貰っていて、ある程度生活の基盤がある60代の場合、例え会社が潰れてしまったとしても生活は維持できるんです。その意味で定年退職した人こそ、起業にチャレンジしたら良いのではないかと思っています。

藤森:北城さんがそのように仰ってくださり、とても嬉しいです。周りの人からは「無謀だ」と言われましたが、今のところなんとかなっています。

――起業というと30~40代が多いイメージがありますが、定年退職した年代の方がチャレンジするのも、メリットがあるわけですね。

北城:さまざまな経験を積んできた60代以降の方がスタートアップを創業することは非常に重要です。“経理はどうすればいいのだろう”“従業員のモチベーションはどうしたら上げられる?”などと、経験がないゆえに迷いながら企業運営を行う大卒後すぐの経営者と、企業でさまざまな人と出会い、クライアントと折衝をしてきた60代の経営者だと、後者の方が成功率は高くなります。私は還暦ベンチャー大賛成です。

あと環境の変化で言うと、個人的にはより多くの経営者OBの方が社外取締役になって、ベンチャー企業を応援して欲しい、と思っております。経営者OBとしての経験や販売ネットワークをぜひベンチャー企業へ還元して欲しいですね。

――本日はありがとうございました。最後に藤森さんへ、イーディーピーの今後の展望をお聞かせください。

藤森:私どもは人工ダイヤモンド宝石製造の原料を供給する事業をメインとしているのですが、人工ダイヤモンド宝石市場は急速に拡大しています。市場の急拡大に対し、現在は私どもの供給体制が追いついていない状況です。喫緊の課題として、まずはこの需要の拡大に対応できる体制を整えようと考えており、継続的な設備投資を行う計画です。

資金面については、今回の上場にあたりよって、現在進めている設備計画については、調達の目処をつけることができました。製造業にとって設備投資をするということは、リスクを伴います。市場状況などの精密な分析を行った上で投資のリスクコントロールをする必要があると思っております。また、次の世代を背負っていく人材の教育も、私にとっては重要な任務だと認識しています。

私は40年程度、ダイヤモンドの世界に関与しているのですが、イーディーピーを創業および上場したことで、僭越ながらダイヤモンドビジネスの可能性の一つを示すことができたと思っております。これからはより「人類にとってダイヤモンドが役に立つ材料である」ということをプロモーションすることが、私の役割の一つだと考え、まだまだ頑張っていきたいですね。


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