広告代理店と「数字だけの関係」になってしまった結果、起きてしまう悲しい出来事
ブランドが理想とする表現をあらゆる顧客接点で統一して伝えていくためには、細部に渡る細かなこだわりが必要不可欠です。
それを成功させるためにどうすれば良いのか?
ブランドオーナーが強いこだわりを持ってチームをリードすることは言わずもがな大切です。
しかしながら、長きに渡って上手くいくチームは、ブランドオーナーだけでなく仲間一人一人がブランドオーナーの想いに共感し、自らの意思で表現を紡いでいくことができるチームです。
そして、いまや多くの企業にとって、チームというのはもはや社員だけを指す言葉ではありません。
広告のクリエイティブを作る広告代理店も、顧客に影響を及ぼす重要なチームの一員です。
しかしながら、この広告代理店と良好な関係を作れていないという相談が増えてきています。
ブランド価値を高めていくために、ブランドチームは広告代理店に対してどのように接するべきなのか?
今回の記事では、ブランドオーナー視点で広告代理店とプロジェクトを進める際に避けるべきポイントについて解説していきます。
「数字だけの関係」になってしまうと短期的に結果に繋がる施策を「コスパ」だけで判断し、最適化してしまうようになる
「予算を〇〇円出すから、△△という数字結果を作ってほしい」
このような言い方で代理店へ「目標」を伝えるクライアントは少なくありません。
これ自体は何も悪いことではありません。
ビジネスをする上で、「客観的数字指標」は他者を評価するために必要不可欠な要素だからです。
問題なのは、目標数字以外の期待値を伝えることをせずに「数字だけの関係性」になってしまうことです。
「数字だけの関係性」は、長期的に考えて少なくない弊害をブランド側にもたらすことになる。
私はそのように考えています。
人間不安を煽る不快な広告は「数字だけの関係」が生み出してしまった産物である
・不安を煽る
・結果実現を断言する
・大袈裟に表現する
ネットサーフィンを5分もすれば、このような広告はいくらでも目に付きます。
正直に言って、人間不安を掻き立てるためだけに作られたこの手の広告はあまり好きになれません。
私の周りの友人にも数人聞いてみましたが、同じ意見を持つ人は少なくないようです。
このような広告が横行している大きな理由の一つに、私が先に述べた「数字だけの関係」が影響していると考えています。
数字だけでしか評価をしない関係が出来上がってしまったことで、評価に繋がらない要素の優先順位が一気に下がってしまった。
その結果として、多くの人にっては嫌悪感すら抱くクリエイティブが蔓延するようになってしまったということです。
人間不安を煽る広告は短期的な効果を出すことができる。ゆえにそれは止められなくなる
人間不安を煽ることで本能的にクリックさせてコンバージョン(申込)へと至らせるやり方は、短期的な結果を出すために非常にコスパが良い方法です。
だからこそ、短期的な数字結果だけを求められる関係性において、非常に有益な方法になるのです。
実際に多くの代理店はこの手の方法を研究し、如何にして人間の本能に不安や強い欲求を生み出せるかをノウハウ化しています。
私もいくつかの広告代理店と仕事をしているのでわかりますが、インターネット広告において人間心理をどう動かすかというノウハウはかなり再現性の高いレベルで言語化をされています。
例えば、
「この広告が表示された方、おめでとうございます」
などという文章が記載された広告を目にしたことはないでしょうか?
1対多のコミュニケーションが基本スタイルのインターネット広告において、広告の受け手に「特別感」を演出できたバナーは、より少ない金額で多くクリックされます。
そのため、「自分だけに表示されたから何かお得なことがあるかもしれない」という心理をついたこの広告は多くの場合、高いクリック率(クリック数/リーチ数)を記録することができます。
このような手法は他にもたくさんあります。
そして、その方法を使えば商品の良さと関係なく短期的に数字を作ることができるのです。
この手の不安煽り型広告は無くなっていくのか?
私はこの手のやり方が効果的である事実は、これから先も当分変わるこもはないだろうと思っています。
それは、なぜか?
多くの人はスマホ画面に表示されたバナーをクリックする際、理論的な思考を使って判断しているのではなく、本能的な反応で指先を動かしています。
技術がいくら進歩しても、知識がいくらついたとしても人間の本能はなかなか簡単に変わるものではありません。
考えるよりも先に脳みそが反応してまうという状況は、これからも間違いなく続いていくでしょう。
そしてこれはバナーだけの話ではなく、バナーを押した先のLPページ(商品の決済ボタンがあるページ)についても同じことが言えます。
・短期的に結果が出る
・コストパフォーマンスが良い
・数字目標が達成する
もしもあなたの会社が数字だけでしか代理店を評価しない場合、これらの指標をより良いパフォーマンスで達成してくれる代理店を評価するようになるでしょう。
そして、代理店はその評価に応えるために短期的に成果が出る手法をどんどん開発していきます。
このようにして、出来上がる「数字だけの関係」はどんどん泥沼化し、知らず知らずに大切なものを(顧客からの信頼)を失っていってしまうのです。
過大広告がブランドに悪影響を及ぼす具体的な弊害とは?
「100人が飲んで、100人が実感した絶対に痩せるサプリメント」
もしもこのような広告があったとしたら、高い確率でクリックされるでしょう。
短期的な成果を出すことだけを考えれば、これは非常に有益な方法です。
しかし、このような過大広告は長期的にみてブランドに間違いなく弊害を及ぼすと私は考えます。
では、具体的にこの広告はどのような弊害を生み出すか?
詳しく解説していきます。
過大広告は期待値を釣り上げ、不満噴出のリスクを高める
まず、前提として過大広告は「期待値」を高く釣り上げてしまう傾向にあります。
期待値が膨らむと、集客人数が増えます。
これはビジネスにおいてメリットの大きい話です。
しかし、期待値が膨らむと、不満噴出のリスクも高まります。
期待が大きくなればなるほど期待が外れた時の反動が大きくなり、集客人数が多くなればなるほど、不満を口にする人数も増えるからです。
これはビジネスにおいてデメリットの大きい話です。
特に今の時代、1人の強い不満はSNSによって拡散され、長い間アーカイブされてしまいます。このデメリットによる影響は、時代とともにどんどん大きくなっているでしょう。
大事な理解として押さえておきたいことは、「広告表現によって、実際の商品の価値(実際の商品がお客様に与える喜び)を変えることはできない」ということです。
広告表現にできることは、「商品に対する期待値を釣り上げる」ということだけです。
いくら表現を過剰にして商品に対する期待値は釣り上げたところで、商品自体は何も変わりません。
つまり原理上、期待値を上げれば上げるほど、実際の商品価値との乖離は大きくなっていってしまうのです。
1ヶ月の短期的な期間だけで見れば、期待値を上げることで「集客が増える」というメリットの方が、デメリットよりも大きくなるでしょう。
しかし、もう少し長い期間で見れば、ほとんどの場合「不満噴出のリスクが高まる」というデメリットの方がメリットよりも大きくなると私は考えています。
実際の価値よりも過大に表現して契約に至った場合、次回の契約には繋がらないのはもちろん、高い確率で悪評が拡散されるリスクをつくってしまいます。
実際の商品便益を正しく伝え、その表現の中で起きるマッチングこそが正しい期待値の調整であり、ブランド側が考え続けないといけないテーマであると言えるでしょう。
過大広告によって集客できるお客様は正しく商品価値を見極められない可能性が高い
数字だけの関係性よって生まれてしまう過大広告には、もう一つ重要な理解があります。
それは、「過大広告はとにかく短期的に課題を解決したい方を最も強く引きつけてしまう」という点です。
これを聞くと、「それの何が良くないのか?」と首をかしげる人もいるでしょう。
実は、「とにかく短期的に課題を解決したい方」はブランドに大きなデメリットをもたらすリスクを含んでいるのです。
このような方は、自分のニーズと商品の価値を擦り合わせることが苦手である場合が多いです。
例えば、「100人が飲んで、100人が実感した絶対に痩せるサプリメント」という広告に反応する方をイメージしてみましょう。
当然、この方は「痩せたい」というニーズを持っています。そして、そのニーズを満たすための手段として「絶対に痩せるサプリメント」を選んだわけです。
しかし、原理的に考えて「万人に同じだけの効果を発揮する解決策」というのはなかなかあり得ることではありません。
特にダイエットは、自分の体質やモチベーションが大きく影響するため、人それぞれ自分に合う合わないがはっきりと分かれるマーケットです。
そのことを理解している方は、「100人が飲んで、100人が実感した絶対に痩せるサプリメント」に飛びつく可能性が低くなります。
しかしながら、ダイエットに対するリテラシーがあまり高くなく、自分自身のニーズを理解していない方は、自分の本能だけで飛びつく可能性が高くなります。
また、自分自身のニーズを深く理解している方は、購入した商品で自分が抱える課題が解決されなかったとしても、「この商品はよかったけど、自分のやり方と合わなかっただけ」と考えることができます。
しかしながら、自分自身のニーズ(ダイエットの場合は体質、モチベーションなども含む)を理解していない方は、お金を出して自分の課題が解決されなかった場合、「この商品は全然効果がない」という具合に商品側に不満をぶつける可能性が高いです。
そして、過大広告はこのように「自分自身のニーズを理解していない方」を引きつけてしまう可能性が高いのです。
これはブランドにとって、リスク要因になると私は考えます。
なぜ過大広告は「自分自身のニーズを理解していない方」を引きつけてしまうのか?
なぜ過大広告は「自分自身のニーズを理解していない方」を引きつけてしまうのか?
その理由は詳しく言語化すると、大きく分けて2つの視点から説明が可能です。
ひとつは、「人間の本能を刺激してしまう」からです。
「絶対痩せるので、とにかくこれをみて」
などということを言われたら、「絶対にこの夏は痩せたい」という強い願望を持った人は感情が大きく動かされてしまいます。
代理店からすると、そのように感情を大きく動かしてクリック率と申込率を上げることが狙いです。
しかし、感情を大きく動かすということは人間の本能性を剥き出させるということです。
そのような状態になると、人は理性的な判断能力が鈍化してしまいます。
つまり、その商品が自分のニーズを本当に満たしてくれるかどうかを自分で調べ、客観的に判断する能力が著しく下がってしまうのです。
このような状態で結んでしまった契約は、購入後の期待値齟齬の可能性が高くなるということは容易に想像ができるでしょう。
2つ目の理由は、「商品の説明を十分に伝えられない」ということです。
「絶対痩せるので、とにかくこれをみて」的な広告およびLPページは、商品に関する情報よりも顧客の感情を揺さぶる表現の優先順位が高いです。
作られた広告およびLPページは「商品情報を提供して自分のニーズと照らし合わせて判断してもらう」というスタンスはまるでなく、「なんか良いかも!という感情を作って、すぐに申し込んでもらう」という目的が剥き出しになっています。
場合によっては、商品情報をほとんど提示しない中で申込ボタンを押させようとするLPページもあるほどです。
過剰な表現によって感情が昂っている中、そのテンション落とさずに如何に早く申込ボタンを押してもらうかが勝負だというわけです。
このような作りを繰り返していくと、どんどん期待値齟齬が生まれ、そのギャップは日に日に大きくなっていってしまいます。
そして最悪の場合、ブランドのファンが誰も生まれていないという状況に気がつかないまま、短期的な結果だけをただ掬い取っていくという自体になりかねないのです。
目標を与える取引先ではなく、目的を共にするチームとなれ
「代理店のやり方が悪く、ブランドをつくることができない」
そのように嘆くクライアントさんがたまにいらっしゃいます。
しかしながら、原因の根本は自分たちの代理店に対するスタンスが作り出していることに気がついていません。
数字という燃料は、ときに人間を強く稼働させることができます。
しかし、その燃費は非常に悪い。
私はそう考えます。
特にクリエイティブな行為を行う人にとって、数字という燃料はときにマイナスに働くことさえあります。
数字というのは人間の判断を鈍らせ、本質的な思考にとって弊害となる場合があるんじゃないかと私は思っています。
そのため、クリエイティブを駆使して顧客に直接表現をするチームと「数字だけの関係」になることは大きな大きな懸念があります。
「私たちはこのサービスを通じて、顧客に対してどんな価値を提供したいのか?」
このような本質的な「目的」をこそ広告代理店と共有し、理想のマーケティング方法で理想の売上を作る仲間として深い関係を作っていくべきなのです。
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