日々、狂う

 記憶などなくてもよい。
 今が、すべて。
 後を忘れようと、今を生きよう。
 後に記憶がなくとも、それはわからない。
 ならば、記憶などなくてもよいではないか。

 そうかたく思い、またひとつ錠剤をかむ。
 今は覚えているけれど、後になると記憶はなくなる。
 その時はわかるのに、後になるとどうしても思い出せないのだ。

 気が狂う。。
 狂うだろう。
 狂ったら楽だろうか。
 自分のことがわからなくなる。
 誰かに迷惑をかけるなら、その前に自分を終わらせてしまいたい。
 それもかなわない。

 気が狂う。
 毎晩思う。
 発狂して、絶叫して、外へ裸足で飛び出してしまいたい。
 そのたびに思い出す。
 薄衣で、発狂する、心臓が爆発する、いっそ死ぬならと冬の外へとび出したことを思いだす。
 のどをやくような冷たい空気、足を焦がす雪。
 出来すぎなくらいに雪が降っていて、私は我に返った。
 なにをしているのだ。
 呆然とする。
 飛び出した勢いの疲れが、足を重くする。
 なにをしているのだ。
 冷たい空気が心地よかった。
 足をひきずりながらドアをおしあけ、玄関の床に崩れ落ちる。
 寒さは感じなかった。
 寒さではない震えが手足にあった。
 頭がジンジンと痛む。

――了――

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