空が決める服の色
「ねぇ、どうしてそんな悲しい服を着るの」
スペインに来て数カ月経った頃、近所に住んでいたセニョーラが言った。
文字通り、Muy triste(とても悲しい)とセニョーラは言った。
その時私が身に着けていたのは、シンプルなグレーのニットに黒のジーンズだったけど、セニョーラの言う「悲しい」の意味がわからなかった。黒とグレーだから、ちぐはぐな組み合わせでもないだろうにと思っていた。
ところがどうだ。
それから5年
私のクローゼットの中で
黒やグレーの服は影をひそめてしまったようだ。
そのかわり
元気いっぱいのピンク、スペインの空のような青、太陽を浴びたオレンジ色などでいっぱいになった。
日本で「これいいな」と買ったものを
スペインで着る。
なぜかあまり顔うつりがよくないことがある。
逆もそうだ。
スペインで買ったものを日本で着る。
主張しすぎることが多く、毎日パーティー!みたいになってしまう。
スペインの青い空には、元気で鮮やかな色が映える。
日本の淡いうす水色の空には、少し控えめで繊細な色がよく合う気がする。
季節によっても変わる。
それぞれの空の色で、洋服の色が決まる。
おもしろいことだなと思う。
それに気づいたのは、セニョーラの言葉がきっかけだった。
それ以来、訪ねる場所の空の色を見て服選びをするようになった。
ちなみに、スペインでは男性も普段から真っピンクや真っ黄色のシャツを着る人が多い。Tシャツもポロシャツも体にぴたぴたにフィットさせて着る。なんなら小さ目のサイズを選んでいるんじゃないかと思うが、またそれがよく似合う。
一度ピンクを着る理由について聞いたことがある。
「だって、僕はかっこいいから。ほらこんなにマッチョだし
いかしてる。だから、そんな僕がピンクを着ると、セクシーさが
ひきたつよね」
自己肯定感の高い答えだった。
最近では、近所のセニョーラたちの私を見る目も少し肯定的になったような気がする。
でも、まだまだだ。
こないだ、ゴールドのスニーカーにライオンのTシャツをまとった
セニョーラがいた。
大阪のセニョーラもびっくりだ。
じゃらじゃらと腕や胸元に光るアクセサリーは全てゴールド。
その隣には、真っ赤なキャミソールに真っ黄色のスカートをはいたセニョーラがいた。口紅は青みがかったピンク。
あぁ、アンダルシアだなぁと思う。
いつか私もライオンのTシャツを着るようになるんだろうか。
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